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59 神魔決戦 ②

数時間前に一話あげております。ご確認下さい。


シャロン視点です。




「ドラゴンだっ、巨大なドラゴン達が教会の上で何かと戦っているっ!」


 卒業パーティーの会場。女神様を騙る悪霊の出現と、それを追っていったわたくしの一番大切な友達……フルーレティ。

 会場で怪我人達に治療魔術を使っていたわたくしは、誰かが叫んだ声に窓のほうへ顔を向けた。

 あの女神が本物であることをわたくしは知っています。その竜達も古き神様の為に戦っているのでしょう。

 沢山の人が窓へと向かい、微かに見えたその向こうで、何かが幾つも飛び交い炎を吐いているのが分かりました。

 あそこに……レティも居るのでしょうか? 戦っているのでしょうか?

 レティはいつもメイドの領分を超えてわたくしに尽くしてくれました。友達だと思っているのはわたくしだけで、レティは私に仕えているだけかも知れませんが、私にとってかけがえのない友達なのです。

 彼女が強いことは知っています。どこでも、誰が相手でも、レティが居れば安心出来ました。だから今回もきっとすぐに帰ってくる。そう思っていましたが、相手は女神です。……どうか、無事に帰ってきて。

『きゃああっ!?』

 突然、窓の外で遠くに大きな火柱が立ち上り、会場の人達が悲鳴をあげる。

 何が起きているの……? 不安の中でまた火柱が立ち上り、その後に窓の外が光に包まれた。


「――シャロンっ。シャロンっ!」

「……アンディ様?」

 一瞬、気を失っていたようです。わたくしが目を覚ますと、肩を抱いていたアンディ様が安堵したように息をつく。

 ドレスの露出していた肩を触れられて、私の頬が熱くなる。恥ずかしくて思わず視線を逸らすと――

「……っ、」

 そこには会場の人々が沢山倒れて怪我をしていた。確か、光の爆発のようなものがあって、窓の硝子が全て吹き飛んでいました。


「魔法が使えないっ!?」

「私もっ」

「違う……スキルが使えないっ!」


 誰かが叫びを上げていた。スキルが使えなくなった? スキルが使えなくなったら、大部分の人が魔術を使えなくなる。なら、この怪我人達はどうするの?

「……シャロン?」

「わたくしが治療いたしますっ!」

 私は魔術スキルを持っていません。ですから、レティと一緒にスキル無しでも使えるように沢山練習してきました。

「治癒魔法の呪文を覚えている方は、紙に書き出してくださいっ! 魔力を安定して流して、きちんと間違えなく唱えれば、スキルが無くても発動しますっ!」

 治療していた術士達に声を掛け、わたくしも怪我人に治療魔術を掛ける。

「……シャロン様…ありがとうございます……ごめんなさい…」

「いいのですよ」

 以前わたくしをバカにしていた、クラスメイトの女生徒が泣きながら謝っていた。



「シャロン、君はそろそろ避難したほうが良い」

「何を言っていますの? まだ怪我人がいるかも知れません」

「だが……君にもしもの事があったら」

 アンディ様はわたくしを心配して避難するように勧める。遠くからはまだ衝撃のような音も届く。きっと、まだレティは戦っている。

「アンディ様。私達は貴族です。こんな時こそ、私達が動かないでどうしますか。しっかりなさい、アンディっ」

「シャロン……」

 私が叱りつけると、一瞬驚いて……微笑みながらわたくしの髪へ唇を付けた。

「分かった。私も民の為に働こう。行ってくるよ、私のシャロン」

「は、はいっ」

 ……あ、あんなに情熱的な方だったかしら?


 術士達が呪文を覚え、動ける怪我人に戦場から離れるように指示を出すと、私は逃げ遅れた人が居ないか確認する。

 幼なじみのカールが男子寮を見に行くと言っていたので、わたくしは女子寮のほうを確認いたしましょう。


「誰も……居ませんわね」

 前回の魔物襲撃の後、下級生の皆さんと避難訓練をしたのが功をなしているようで安心しました。


 ドゴォオオオン……ッ!!


「ひっ」

 聞こえてきた音に思わず小さく悲鳴をあげる。

 何事でしょうか……? 女子寮の一階の奥。そこで何か壊れるような物音が聞こえてきました。

 一瞬、魔物に襲われた恐怖を思い出して身体が竦む。でも、レティも頑張っているのです。わたくしも怖がってばかりは居られません。

 足音を忍ばせながら静かに近づいていくと……わたくしは後悔し始めました。

 近づいてくごとに寒気が強くなる。おぞましいほどの邪悪な気配……。魂が拒絶するような恐怖が『逃げろ』と訴えてくる。

 けれど……もし魔物がいるのなら、確認だけでもしなくては動けない怪我人に危険が及びます。

 そっと近づいて……物陰から覗き込んだそこに黒い人影がいた。


「……っ!」

 喉の奥で声にならない悲鳴が上がる。

 血のような真っ赤な目……青銅のような暗い肌……千年も放置したような風化した衣服が風もなく揺らめき、その背中から生えたおぞましい蜘蛛のような黒い脚が鳴動するように蠢いていた。


 悪魔……。それも大精霊にさえ匹敵する高位悪魔――【大悪魔(アークデーモン)】。


 過去の異世界人が残した手記に、けして触れてはいけない、国でさえも滅ぼす天災級の災厄だと記されていた存在。

 でも……その面影は……


 ガタン……。

「れ、レティ……?」

『シャロンお嬢様……』


 思わず瓦礫を倒してしまった音か、私の声が、その悪魔は静かに振り返って、わたくしの名前を呼んだ。

 その声……数千の虫が蠢くような、人ではない“何か”が無理矢理出すような不快な声に、私が恐怖から思わず一歩下がると、その悪魔は悲しげな顔で頭を下げる。


『申し訳ございません……。私がラブリースパイダーだとバレてしまいましたね』

「…………は?」


 唐突なあまりにアレな発言に、私はこの悪魔がレティだと確信した。

 ラブリースパイダーっ!? 意味が分かりませんわっ!?

 良く見ると身体中が傷だらけで、左側の手足が千切れて無くなっていた事に思わず息を飲む。右脚も折れているのか歪に曲がり、蜘蛛の脚で無理矢理立っているようにも見えた。

『少々お待ち下さい。私はメイドですが、ペットとして飼うのなら虫かごに……』

「なんでそうなりますのっ!? 大人しく座りなさいっ!!」

『はい』

 レティのような悪魔は、私が叱ると素直にペタンと床に正座する。正直に言いますとまだ怖い。……でも、目の前の傷ついている彼女を放っておけなかった。

「何が……ありましたの? あの女神は?」

『女神は新たな女神となったクラリス様に滅ぼされました。彼女は過去の女神の痕跡を消し去るつもりのようです。シャロンお嬢様は今すぐ遠くへお逃げ下さい。私が時間を稼ぎます』

「…………」

 言っている意味が半分も理解できません。その声も聴いているだけで怖い。でも彼女がわたくしのことを心から心配しているのだけは理解できた。


「あなたは……レティなのよね?」

『はい、フルーレティにございます』

 その言葉に、私は静かに震える手を伸ばすと、レティはわずかに身を引いた。

『申し訳ございません。ドレスが汚れてしまいます』

「そんなことは気にいたしませんっ!」

 私は強引にレティの手を取ると、治療魔術を彼女に使う。

 触れているだけで手が震えて吐き気がする。わたくしの治療魔術がほとんど効いていない。でも……こんなになるまでわたくしの為に戦ってくれたレティの為に、わたくしは何かしてあげたかった。

『……もう大丈夫です。お離し下さい』

「で、でもまだ……」

『私は人間ではありませんから、あまりこの状態の私に触れてはいけません』

 レティの言葉に私は顔を上げて彼女の瞳を見る。

 多分、普段の状態に戻れないほど傷ついているのでしょう。それなのに私ばかりを気遣おうとするレティに、私は怒りを感じた。

「レティっ!」

『はい、シャロンお嬢様』

 私は引こうとする手を掴み、強く握りしめる。

「あなたが何者でも関係ありませんわっ! 例え蜘蛛でも、例え悪魔でも、レティは……フルーレティは私の一番のお友達ですわっ!」


 レティが初めて見せる幼い顔でキョトンと目を見開き、そのすぐ後で蕾が花開くように、こちらが恥ずかしくなるほどの満面の笑みを浮かべた。


『はいっ、シャロンお嬢様っ!!』


 その時……わたくしとレティの間に『何か』が繋がり、カチッ…と『鍵』が外れるような音が内側から聞こえたような気がした。




メイドさんの本気まで届きませんでした。


次回も早めに書く予定です。


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― 新着の感想 ―
シャロン、強くなったなあ…………。 ちょっと前までただのぼっち令嬢だったのに。 で、契約しちゃったのかな、最後のは。
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