56 卒業 ④
き、緊迫感……
【女神】と私は、純粋な力だけですとかなりの差がございます。
私の魔力を100と仮定するのなら、【女神】の魔力は200を超えています。
アレが力を使いこなせていないことを考慮すると、力の核を奪われた【古き神】は、普通に300近くあったのではないでしょうか。
例え力を使いこなせていなくても、単純に倍以上の差があると、真正面から挑んだのでは私に勝ち目はございません。
ですが、メイド長に鍛えられた私の戦闘技能は一般的なメイドと比べて高めであると自負しております。メイド長は“淑女の嗜み”とおっしゃっていましたが、同時期に雇用された同僚の大部分が気が付くと幼体にまで退化しているほどの荒行で、いまだに悪夢に見ることもございます。
そんな私の戦闘技能を100とすると、元女神の技能は10にも満たないのではないでしょうか。
なんの訓練もなく怠惰に過ごされたようですのである意味当然ですが、単純な力の差はそれを覆せるほどでもなく、私は【女神】の目を眩ますことしか出来なかったのですが、今現在、元女神の力はだいぶ削られて130程度まで下がっております。
ここまで来れば元女神と私の戦力差はほぼ同等。一撃が怖いのは変わっておりませんが、私にも勝機が見えて参ります。
どうやっても勝機が見えないものとなると、私にとってはお嬢様くらいです。
例えば私の胸部戦闘力を80と仮定するとシャロンお嬢様の胸部戦闘力は90を楽に超えます。その戦闘力はメイド長さえ感嘆するほどでございました。
胸部戦闘力は数値によるものだけではありません。形、そして色艶なども重要になります。
形は人によって趣味好みはございますが、お嬢様の形状は万人の殿方が興味を持たれる、非常に私好みの形状でございました。
私はお嬢様の戦闘力を高める為にお嬢様専用の高級オイルとクリーム、化粧水などを生成し、お嬢様を磨き上げて参りましたが、お嬢様を美しく彩るはずの私が作る下着類は半分ほどお蔵入りとなっております。
どうやらシャロンお嬢様はえっちぃ下着が苦手なようで、この前もアンディ様とのご婚約となって、油断なさると真っ赤なお顔で転げ回る大変可愛らしいお嬢様に、おデートで着られる新作下着をお見せしたところ、真っ赤なお顔のお嬢様にスリッパで一撃を戴きました。
私としましては新婚初夜の下着は、お嬢様のお好みも考慮して、ちょっとえっちぃ程度の新作下着をご用意しているのですが――
「こちらの薄い桃色と、こちらの淡い紫色では、どちらがお嬢様にお似合いになると思いますか? 私としてはこちらの紫が……」
『あんた、アタシをバカにしてんのっ!!!?』
教会礼拝堂の屋根の上で、両手に新作下着を持って説明しておりますと、両手で股の間を押さえた元女神が、空中から怒鳴るように私の言葉を遮った。
結構全力の【オークキラーEX】の一撃でしたが、お元気そうですね。逆にトゲの一本が曲がってしまいましたので、後の手入れが大変そうです。
「バカになどしておりませんよ。新婚初夜の下着のお話をしていただけでございます」
『し、新婚っ!? そんなエッチな……』
「今時の女性なら当然でございますよ。おっと失礼、あなたでは着ることは無理そうですね」
『なに言ってるのっ! 完璧なプロポーションを誇る女神のアタシは、どんな物でも誰よりも着こなしてみせるわっ!』
そう言って、しなを作りながら自信満々空中でポーズを取る、推定体重70キロ、ツインテールの三十代の女性。
もしかして現在のご自身の姿を、あの金髪美少女のままだと思われているのでしょうか?
『ぐぎょっ!?』
そんな彼女に一体の巨大な竜が体当たりを掛けた。
『良くやった、フルーレティっ!』
「それは良うございました」
私の横を通り抜けて元女神を追いかけていくフェイ殿に声を返す。
私と元女神のやり取りを竜達はポカンと見ていたようでしたが、あれは元女神の隙を窺っていたのですね。てっきり本気で唖然としているのかと勘違いをしておりました。
では私も竜達とご一緒に元女神を追いかけましょう。
『キィー――――――ッ!!! なんなのよ、あんた達っ! 気持ち悪いは虫類が、女神であるアタシに触れて良いと思ってるのっ!?』
あら、そんなに離れていませんね。精神生命体となっているはずですのに、30メートルもありそうな竜の体当たりを受けても、50メートルも離れていませんでした。
もしかして重いのですか?
今も元女神は、三十体の程の竜に攻撃を受けながらも、元気に小結並みの張り手で応酬しています。来年には格付けが上がるかも知れません。
「ナイスショット」
『ごひょっ!?』
また真下からトゲ棍棒で打ち上げると元女神が奇声を上げてクルクルと回る。確かに重いですね。曲がったトゲを指で直していると、股を片手で押さえた彼女がプルプルと震えながら私を指さす。
「人様を指さしてはいけませんよ」
『うっさいっ!!! 痛いじゃないのあんたっ! 何度も何度も○○○打ち付けて、あんた一体何なのよっ!』
「ごく普通のメイドの嗜みでございます」
『あんたみたいなメイドがいるかぁあああああああああっ! あんたみたいなメイド、アタシの世界にいるはずないじゃないっ!』
「申し訳ございません。影が薄い薄幸のメイドですので」
『だから、ぐひゃっ!?』
お話し中に、巨大な黄金竜の体当たりを受けて元女神がぶっ飛ばされる。
まったく攻撃が効いていないようにも見えますが、竜達の一撃一撃でほんの少しずつですが元女神の力が下がっているようです。
あと数百回も竜達の攻撃が決まれば元女神も倒せそうですね。どの竜もそれなりにダメージを受けていますので、倒すより先に全滅するかも知れませんが。
『あんた邪魔よっ!』
元女神がなぎ払い攻撃をしようとした風竜の尻尾を掴み、ジャイアントスイングで振り回して、途中で切れた尻尾だけを私に投げつけてきた。
竜の尻尾って切り離し出来るのですね。
私は飛んできた5メートルはありそうな尻尾を受け止め、咄嗟にスカートの裾を摘まんでクルリと回るように教会の屋根に着地する。
回った時にスカートがふわりと翻ってしまいました。メイド長にはしたないと叱られてしまいます。
『あ、あんたっ、な、なな、なんて下着履いてるのっ!?』
「ああ、コレでございますか? お嬢様から拒絶されました弩エロ下着は、勿体ないので私が使用させて戴いております。ほら、可愛らしいでございましょ?」
『そ、そんな、エロいの、捲ってチラチラ見せるんじゃないわよっ!!』
色は黒でございます。
意外というか、元女神は純情ちゃんでございますね。もしかしておぼこでございましたか? 竜達も思わず攻撃を止めてこちらを凝視していらっしゃいました。本当に竜族は節操のない生き物です。
ついでに切れた尻尾は、お嬢様よりお預かりしている“拡張袋”に収納する。
お嬢様より内容量は約100キロと伺っていましたが、魔力によって違うらしく、私が持つとかなり余裕があってお買い物に助かっております。
尻尾を仕舞い込む私を見て、私が食材にすることを知っているフェイ殿がお顔を引き攣らせておりました。ちゃんとお裾分けしますのでご安心ください。
『ぐぎゃああああああっ!?』
素早く我に返ったらしい黒竜と火竜が、黒と赤の炎を元女神に浴びせかけた。
ダメージこそ大したことはなさそうですが、元人間なら、あれはまあビックリしますよね。
丁度良いのでそろそろ本気を出しておきましょう。
私の肌が白から青銅色に変わり、全身から溢れ出す瘴気が、メイド服を千年放置したようにボロボロに風化させる。
『……あ、悪魔ぁあっ!!?』
「酷い風評被害でございます」
溢れかえるような瘴気と魔力を吸って【オークキラーEX】が10メートル程に巨大化した。
『ちょ、やめ』
「フルスイング、ロングドライバーショットにございます」
ゴォオオオオッ! と風を切り唸りをあげ、巨大ドライバーが元女神のタプタプお肉を直撃した。
「ナイスショット」
『ぎゃあああああああああああああああっ!!!!』
元女神は肉弾と化し、教会礼拝堂入り口前の広場に突き刺さり、大きなクレーターを造り上げた。
「ファー……」
ささ、竜さん達、さっさと追撃しないとまた復活してきますよ。私もお次のバンカーショットを打つべく追いかけようとすると、広場の向こうから複数の騎馬が向かってくるのが見えた。
「者共、続けっ!! 女神を騙る悪霊を駆逐せよっ!!」
『『『はっ!!!』』』
どうやらユーリ殿下と近衛騎士隊の方々ですね。
面倒なことになってきました。
次回、緊迫感が本気を見せる。
女神との決着は付くのか!?




