45 蜘蛛
少々短めです。
もー、なにこれぇええっ。ちょーっと目を離した隙になに起こってんのーっ?
何か、真っ黒で大きな魔力を感じて、びっくりして慌てて見てみたら、ヒロインちゃん、病院送りになってるじゃないっ。
あの子、召喚組の最後のヒロインだったから、大事に育成して、かなり凄いスキルとか持たせたのに、なんで失敗しちゃってるのー?
でもアタシ、女神さまだから忙しいのよねー。人間共の生活環境とかは、ほっといても何とかなるしぃ、結界も【教会】の連中が勝手に頑張ってるから、それにちょちょいと力を注ぐだけでいいから楽なんだけどさぁ、それを勝手にアタシのおかげだって感謝して、供物とかいっぱいくれるのよー。
別に麦とか芋とか貰っても嬉しくないんだけどさー、お酒とかは貰ってるのー。
それに神官の若い男の子とか物色したりー、気に入った美少年は、夢とかでちょっと露出の高い格好とかすると、真っ赤になって愉しいんだぁ。
あれ? 何の話をしてたんだっけぇ? あ、そうだ、お気に入りのヒロインちゃんが失敗したんだ、むかつくー。もう残りが、あんまりアタシの言うこと聞かない、メインヒロインしかいないじゃないのぉ、もおっ。
悪役令嬢に設定した三人なんて、【スキル習得疎外効果】まで付けてやってるのに、なんで二人も残ってるのー?
お姫ちゃんのほうは、そこまで辿り着いたヒロインちゃんがいないから、仕方ないんだけどさー、侯爵令嬢のほうは、一番最初に断罪されると思ったのに、まだ生き残ってるなんてあり得なーい。
……ん? 何かこの侯爵令嬢の子、おかしいな。
見えにくいって言うかー、蜘蛛の巣でも張ってるんじゃないか、って感じぃ。一応、お嬢様でしょー、掃除しなよぉ。
この子……一人だよね? 誰も友達にならないように【孤高の空気】を付加してやったのに、側に“誰か”が居るような気がする……。
ご飯はいつの間に準備したの? なんでいつの間にかお風呂が沸いているの? この子って………独り言、多くない?
ヤダっ、不気味っ! 気持ち悪いっ! 何なのこの子っ!? 見えない何かと会話をしないでよっ! 狂ってるの!?
なんか厄介者が混ざっている気がしてたんだけど、きっとこいつなのねっ!
メインヒロインちゃんに、早くこいつを断罪するようにお告げをしないとっ! あ、でも、無視されたらどうしよう……。
どうして今回は、ヒロインも悪役令嬢も上手く動いてくれないのっ!?
……そうだ。良いこと思いついちゃった。
***
今回の事件は国の発表によると、他国の間者がダンジョン奥深くに生息する食人植物を持ち込んだテロリズムで、“緑の聖女”と“光の聖女”の二人によって駆逐されたと言うことでした。
その際に緑の聖女であるエナ嬢は、その身を犠牲にして毒素を受けた為に長期療養をせざるを得なくなったとか何とか。
それは大変ですねぇ。王宮宛てにお見舞いのマンドラゴラの鉢植えでも贈っておきましょう。
おっと失礼いたしました。
最近遠くから奇妙な視線を感じる、売れっ子メイド。三割四割引は当たり前、フルーレティにございます。
フッ、モテる女は困りますね。
シャロンお嬢様と私は、あの後、倒れている方々を介抱していましたが、見ているだけで癒し効果のあるお嬢様とは違い、私は解毒は得意でありません。
仕方ないので、複数の蜘蛛毒を調合し、ドーピングジュースを作って患者の静脈に注入したところ、枯れ果てたご老人が鼻血を吹くほど元気になられて、【教会】より感謝状を戴きました。
ビバ、お役所仕事。
それはそうと、このタイミングで、王太子のユーリ殿下と光の聖女であるクラリス様とのご婚約が発表されました。
お披露目は学院を卒業後らしく、それならどうしてこんな事件の後に……と思われる方もおいででしたが、このタイミングだからこそ、とも言えます。
聖女様の功績で名が高まっている今なら、子爵令嬢であるクラリス様が婚約者となっても表だって文句を言えはしないでしょう。
それに時期を遅らせると、今度は自分を犠牲にしたエナ嬢のほうが相応しいとか言われるかも知れません。
まぁ、ぶっちゃけ私には大根の値段の価値しかありません。
「アンディ様、お加減はいかがですか?」
「だいぶ良くなったよ、シャロン。明日にでも仕事に戻れそうだ」
本日は、ご入院なされたアンディ様のお見舞いです。
本人様の仰る通り、あの人を催眠状態にして操る花粉は、効果は素晴らしいものでしたが、毒素自体は大したことはございません。
一般市民やあの上級執事様などは入院した翌日には退院なされていますので、今も残っているのは、アンディ様のような貴族様が、念の為、二~三日休養されているだけなのです。
雨降って地固まる。と言う訳ではありませんが、何度かの危機をお二人で乗り越え、随分と良い雰囲気になってきたのではありませんか?
もちろん、そんなお二人の邪魔をする訳には参りませんので、私は定位置の、天井の隅で待機させていただいております。
途中で空気を読まない看護師がやって参りましたので、上から毒を刺して、麻痺させてから巣に絡め取っておきました。
大丈夫です。拾い食いは下品なのでいたしません。
「レティ、帰りますよ」
おっと、お嬢様がお呼びです。
ですがお嬢様。病室のドアを開けても廊下に私は居りません。ですが私は出来るメイドでございますので、天井裏から廊下に出ましょう。
「お待たせしました、お嬢様」
「あら、どこにいましたの? すぐに見つけられませんでしたわ」
「せっかくですので、お嬢様の為に、執事様に伺った、アンディ様の好みそうなエロい下着を買って参りました」
「こんな場所で出してはいけませんわっ!」
真っ赤になったお嬢様にスリッパで叩かれました。
さて、今回は馬車ではありませんので、プルプル揺らせながら徒歩で帰宅します。
……本当にお揺れになりますね。お嬢様にはこの世界の夢が詰まっていると言っても過言ではございません。
その証拠にすれ違う男性(稀に女性)が夢見るような顔をなされておいででした。
「ところでレティ。ドレスのデザインのことなのだけど……」
「それもございましたね。お目に敵うデザインがございましたか?」
そもそもそれが、アンディ様とのおデートの目的でしたね。
それがあのような結果になってしまいましたが、まったく見られなかった訳ではないので、何かお嬢様の清らかなお心に残るモノがあったのでしょうか。
やっぱり、ご生母様と同じデザインが良いとか言われるのでしたら、お嬢様の二つの凶器が○○を殺す前に、先に始末しなければいけません。
「あのね……私はレティが選んでくれて良いと思うの。レティなら、絶対私に似合うデザインにしてくれますでしょ?」
「お嬢様……」
はにかみながらそう言うお嬢様は、とても可愛らしいのです。
「お嬢様があまりにも可愛らしいことを仰るので、ウエディングドレスを制作して抱っこさせていただいても宜しいですか?」
「どうしてそうなりますのっ!?」
怒られましたので、普通にデザインを決めたいと思います。
まぁ、おデートの時点で誘導するデザインの候補は出来ておりましたので、後は制作するだけですね。
それなら最初からやれよ、と言われそうですが、お嬢様があれこれ悩んだり困ったりするお姿を見るチャンスを逃す選択は、私にはございません。(断言)
女神にはメイドさんが見えておりません。……ホラーですね。
次回、パートナーが決まりそうです。




