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31 結末

 



「粗方、片は付いたな」

 騎士達が魔物を殲滅し終えると、ユーリ様は辺りを睨め付けるようにそう言った。

 

 アルグレイ王国王太子、ユーリ・ド・フォン・アルグレイ様。

 私があの街の子供達にから聴いた情報によると、この国の第一王子で次期国王である第一王位継承者だそうです。

 ユーリ様は御年19歳とまだお若いのですが、弟君であるジョエル様の王妃様似の線の細い印象とは違い、190センチ近い身長と肩幅の広い筋肉質で周囲を圧倒し、そのお顔立ちは精悍で整っているかと存じますが、性格は荒々しく剛胆で冷酷な面もあり、強い眼差しで他者を威圧しておりました。

 ある意味、“王”向きのお方でございますね。

 この国の成り立ちが、ダンジョンの魔物を制して国を興し、力の強い者が貴族になりましたので、この国の王としては正しいのでしょう。

 その威圧感に、気絶しているチエリ嬢を除いて、全員が跪いて頭を垂れる。

 

「よい、ここは王宮ではないので膝を付く必要は無い。頭を上げよ」

 ニコリともしませんが、ユーリ様のお声は機嫌は悪く無さそうでした。

「で、殿下……っ」

 ユーリ様のお言葉にカール君が感動したような声を上げた。頬が赤いですね……恋ですか? ああ、なるほど。普段のカール君の“俺様”態度は、ユーリ様に憧れていたからなのですね。本物と真似ッコは大違いです。ぷげら。

「ん、メルシア家の嫡男とその弟か。大儀であった」

 

 アンディ様とカール君に鷹揚に頷き、ユーリ様はエリク・マルソー先生や気絶しているチエリ嬢(白眼で失神、若干お漏らし)など目にも映らないかのようにその前を通り過ぎると、まだ膝を付いたまま頭を下げているシャロンお嬢様とメイドである私の前で足を止める。

 

「二人とも頭を上げろ」

「……は、はい」

 お嬢様が畏れ多いとばかりにお声が震えていらっしゃいますが、私はちゃんと分かっておりますよ。

 人見知りでボッチ気質のお嬢様ですから、大きな男の人にテンパっているのですね。

「ふむ……」

 お嬢様のお顔を鋭い目付きで見つめると、ユーリ様がフッと笑うように息を吐く。

「令嬢共の噂は当てにならんな。ミシェル家の娘は貴族の威を借る痴れ者で、実家からも見放されるほどの劣等生だと言う話しだったが、此度の働きは避難していた者達から聞いている」

「勿体ないお言葉でございます……」

 当然でございます。うちのお嬢様はやれば出来る子でございます。

「確か……シャロンとか言ったな。立て」

「……はい」

 ギュッと掴んでいた私のスカートから手を放すと、お嬢様が大変お可愛らしい小動物のように立ち上がる。

「なるほど、見た目も悪くない」

「…っ」

 ユーリ様がお嬢様の顎に指をかけて上に向けさせると、お嬢様だけでなく、アンディ様やカール君からも息を飲むような気配が感じられた。

 ……悪くない、ですって?

 世界一可愛いお嬢様のお顔に触れて、そんな戯れ言をほざくとは……。

 

「……お前はシャロンの侍女か?」

「さようでございます」

 おっと、思わず怒気が漏れてユーリ様に気付かれてしまったようでございます。

 これはいけませんね。あの化けも……メイド長なんかは、顔色一つ変えずに国を滅ぼしたりできるそうなので、私もメイドとして修行が足りません。

「名乗れ」

「フルーレティにございます」

「そうか。お前は肝が据わっているな。一瞬だが、お前が一瞬で魔物を倒している姿を遠目で見た」

「これはお目汚しを」

「よい。なかなかの腕だった。有能な者は好きだ。しかも見た目も良いのならな。お前が望むなら私の従者としても良いぞ」

「えっ」

 ユーリ様の言葉に私ではなくお嬢様が驚いて声を上げた。

 不安そうに私を見るお嬢様に私はニッコリと微笑むと、その場で立ち上がりスカートの裾を摘んで貴族のように優雅に一礼する。

 

「私は、シャロンお嬢様唯お一人にお仕えする“メイド”でございます」

 

 だからふざけた事を仰るのではありません。と意味を込めてことさら丁寧にお返事すると、今度はユーリ様の騎士達から息を飲む気配がした。

 おそらく、ユーリ様のお誘いを断った者は皆無だったのでしょう。その威圧感と不興を買うのを恐れて誰も断られなかった。

 

『『『……ッ!』』』

 一瞬、ユーリ様から【威圧】のようなものが迸り、その場にいた者達がわずかに身を引く中、私が変わらない笑顔で受け流すと、ユーリ様が微かに笑顔を浮かべた。

 

「なるほど、それでは無理強い出来んな。ならば……」

「きゃっ!?」

 ユーリ様が突然、シャロンお嬢様の細い腰を抱き寄せた。

「シャロン、お前を手に入れれば、二人とも私のものになるな」

 

「ユーリ殿下っ!」

 ユーリ様の発言に、アンディ様も思わず声を上げた。

「近衛騎士アンディ。発言を許していないぞ」

「くっ…」

 身を固くして動けないお嬢様。困惑するご兄弟。そんな時、救いの手は思ってもいないところから差し伸べられた。

 

「ユーリ様。そのように決められてしまったら、皆様もお困りでしょう」

 

「……クラリスか」

 その人は、子爵令嬢クラリス様でいらっしゃいました。

 魔物殲滅の功労者の一人とは言え、ただの子爵令嬢が王太子殿下の発言を諫める。

 その結果が何を産むのか。一同息をするのも忘れて見守っていると、この雰囲気の中で私と同様に最初から最後までゆったりと微笑んでいらしたクラリス様を見て、ユーリ様の表情が緩む。

 

「クラリスが言うのならそうなのだろう。この場はここで手を引こう。……だから、その物騒なモノを仕舞え」

「かしこまりました」

 ユーリ様のご指摘を受けて、私はトゲ棍棒をスカートの中に仕舞いつつ、お嬢様を奪い返しました。後ろの騎士達もホッとしています。

「お嬢様、お痛いところはございますか?」

「へ、平気ですわっ。……ありがと、レティ」

 お嬢様は少しだけ照れたように笑みを浮かべて、クラリス様にも目礼する。ここで直接お礼を言うと、ユーリ様のお言葉が迷惑だと公言することになりますので、お礼は後ほどお手紙をお出ししましょう。

 

「では戻る。騎士は数人残って後始末を見届けよ。クラリス、お前は付いてこい」

「かしこまりました。では、シャロン様、フルーレティさん、またお茶でもご一緒しましょう」

 

 そう言って、ユーリ様はクラリス様を伴って王宮へお戻りになりました。

 しかし、……クラリス様は何者なのでしょう。

 私がダメージを受けるほどの聖属性結界。ユーリ様との特別感のある間柄……。彼女には“何か”がありそうです。

 

「シャロン、大丈夫か?」

「うん……」

 カール君がお嬢様に話しかけていますが、アンディ様とは何故か微妙な距離が開いていますね。先ほどのユーリ様の発言が尾を引いているのでしょうか。

 まぁ、とりあえずは。

「お嬢様。お部屋に戻ってお風呂でお身体を清めましょう。あのように乱暴に触れられたのですから、たわわな部分が減っていないか心配です」

「減ったりしませんわっ!?」

 

 ご兄弟が顔を赤くして横を向き、私は久々にお嬢様からスリッパでどつかれました。

 

 

 こうして【魔物大発生】は終結しました。

 結果としましては、まず公爵令嬢で学院講師であるカミラ様ですが、本来なら家名を剥奪されて修道院送りになるところ、最初にダンジョンに原因を払拭しようと無断で突入したことが若干認められて、修道院送りはなくなりました。

 その替わり、学院はクビになって、公爵家縁の狒々親父の所へ嫁ぐそうです。それだけではなんですので、ダンジョンで触手に襲われているエロい“写し絵”を狒々親父に提供したところ大変喜ばれて、私特製の三日は飲まず食わず睡眠無しで頑張れる、特別製精力剤を大量購入していただきました。ガッポガッポでございます。

 

 同様に襲撃犯の侯爵家侍女ミーアもギリギリ修道院送りは免れました。その替わりに待遇が一番下っ端メイドとなり、おそらくは何十年も保釈金を侯爵家に返し続ける日々になるでしょう。

 

 そしてチエリ嬢ですが、国に召喚された【パートナー候補】である為に牢に入れられることはありませんでしたが、襲撃事件や魔物を街に引き入れたとして、次期聖女の内定は取り消し、学院卒業まで奉仕活動、この件は貴族達の知るところとなったので、貴族のパートナーも絶望かも知れません。

 それにしばらくは、専属の行儀講師を付けられて監視されるようです。……が、チエリ嬢は自室に閉じこもったまま出てきませんね。

 私が彼女の前髪を吹っ飛ばしたせいなんですが(笑)。

 

「レティ……これからどうしましょうか?」

「一ヶ月ほどですか……。どちらかにお出掛けになりますか?」

 

 私が甘いチャイを煎れながら答えると、シャロンお嬢様はチャイに合わせたソアンパプディと言う甘いお菓子をチマチマ囓る。

 魔術学院は魔物による建物の被害や、怪我人は神術で癒せても心にトラウマを覚えた下級生もいて、一ヶ月ほど休校になりました。

 ほとんどの生徒はご実家に戻られたようですが、お嬢様のご実家は、まだ快適とは言えません。時間があるのだから、クラリス様にお礼がてらお茶にお誘いしても良いですけれど、クラリス様はチエリ嬢の替わりに【次期聖女】となられたようで、教会や王宮に通っているらしくなかなかお会い出来ません。

 

「そうですわっ、わたくし良いことを思い付きましたの」

 何かの失敗フラグでしょうか。お嬢様が可愛らしく手を鳴らして私にニコリと笑顔を向けた。

「何でございましょうか」

「レティは、こちらの世界に来てからずっとわたくしの側に居てくれたでしょ? ですから、この国の色々なところを見てみましょう」

 確かに魔の森やお嬢様のご実家に出掛けただけでございますね。

「それに……」

「はい」

「その……お友達と旅行とか……憧れていたの」

「お嬢様……」

 指をモジモジとさせて恥ずかしそうに上目遣いで私を見るお嬢様は、大変可愛らしいのです。

「わかりました、この私がお嬢様をお姫様抱っこして、一ヶ月で世界を横断して見せますわ」

「それは旅行ではありませんわっ!」



 

 次回より数話旅行編 ただの日常パートが入ります。


 次回、旅行編1回目


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― 新着の感想 ―
クラリスが言うのならそうなのだろう > 調教………もとい、教育されてない、王子様? 時代劇とかに出て来る母親べったりの幼い殿様みたいだ。「うむ!母上がそういうのであればそうであるな!」みたいな?
[気になる点] 「私は、シャロンお嬢様唯お一人にお仕えする“メイド”でございます」 今更だけどこれはメイド長に怒られない? ユルユール様がいるでしょう
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