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24 聖騎

今回もたぶん真面目です。

 



 【教会】所属の聖騎士、エリアス・レーヴェは、ある雪降る夜に教会施設前に捨てられ孤児院で育った。

 幼い頃より信心深く育った彼は、ある日【女神】の神託を得て“神術”の高い才能を示し、将来を嘱望されるようになる。

 だがエリアスは、彼の才能を見出し養子とした王都教会責任者である大司教の望みであった“神官”ではなく、騎士として生きる道を選んだ。この国はダンジョンから産出される物資によって成り立っている面もある。故にダンジョンで命を落とす探求者も少なくなく、孤児院で親を失った探求者の子達と兄弟のように育ったエリアスは、そのような子供を増やさないため騎士となり護ろうと考えていた。

 そしてエリアスは、本人の資質と努力により【教会】から数百年ぶりに教会保有最高戦力である【聖騎士】の称号を得ることになった。

 

 エリアスは女性にとても人気があった。

 二十代前半で教会の地位もあり、このアルグレイ王国最強の騎士である。見目麗しく地位のある一部の傲慢な貴族や賄賂を強請る神官のようなこともなく、女子供や老人にも紳士的に接して笑顔を絶やさない。

 だがエリアスは恋愛に対して非常に淡泊であった。【教会】では婚姻の儀式をすることから神官であろうと結婚は認められている。それなのにエリアスが女性にあまり興味が持てないのは、幼い頃から【女神】に愛されていたせいだろう。

 幼い頃から神託を得る“女神の愛し子”と呼ばれるエリアスは、その声を聴くだけでなく、夢で何度も【女神】の姿を見たと言う。

 伝承では、女神の姿を見た者は建国王とその王妃、そして数百年ごとに現れる聖女や国を救った者達で、その姿は白金色の髪に碧い瞳の、十代半ばの美しい少女の姿をしていると云われている。

 幼い頃、そして思春期の頃などに、まるで狙い澄ましたかのように女神からそのような姿を見せられれば、普通の女性にあまり興味を持てなくなっても仕方のないことなのだろう。

 そのエリアスが最近になって新しい【神託】を受けた。

 

『この世界に異物が混入しました。今はまだ姿は見せませんが、おそらくはこの世界の秩序を乱すおぞましい存在です』

 

 この世界には【女神】から知恵を与えられ、異世界から知性ある生物を呼ぶ召喚魔法がある。それをもたらした女神がおぞましいと言うのだから、それはとてつもなく邪悪で醜悪な化け物なのだろう、とエリアスは考えた。

 それから少し経って、過去の聖女が施した結界が破られる事件があった。これもその異物――イレギュラーがこの世界に来た為に起こったのかと警戒する。

 そしてエリアスは一人の少女と出会うことになった。

 

 その貴族のメイドは、この国にでは見たこともないエキゾチックな雰囲気の美しい少女だった。

 艶やかな黒髪。落ち着きのある暗紅色の瞳。歪みのない端正な顔立ちは、整った容姿の多い貴族でも見たことはなく、それほどの美貌なら増長してもおかしくないが、常に仕える令嬢を立てるように振る舞う立ち居振る舞いに、少女を“可憐”だと感じた。

 有り体に言えば、『衝撃を受けた』。

 女神が基準なので今まで他人を恐れたこともなく、見た瞬間に生まれて初めて感じた『背筋を走る寒気』を心の高鳴りだとエリアスは感じてしまい、彼は初めて自分からその少女を知りたいと思った。

 

 知れば知るほど不思議な少女だと思った。

 聞けば異世界から召喚されたと言う話だが、貴族さえ居ない世界で生まれながら、王族の侍女のような完璧な立ち振る舞い。望めば王族のパートナーにもなれる能力を持ちながら、仕える令嬢の完璧なメイドとして、時には友人として支えていた。

 そんなある日、第二王子よりパートナー候補達のダンジョン護衛の依頼があった。

 エリアスは受けるつもりなど無かったが、友人である近衛騎士アンディが参加することと、あのメイドの少女が参加するかも知れないこと。そして……結界を張る手伝いに来ていたチエリ嬢から聞いた“話”が気になり参加することを決めた。

 

   ***

 

「君は……何者かな?」

 

 エリアス様が私に剣の切っ先を向けてそう言った。それでも私が答える言葉は一つしかございません。

「私はシャロンお嬢様の専属メイドでございます」

 そんな完璧すぎる答えにエリアス様の表情は変わらない。先ほどの問いも軽く尋ねているようで、微塵の隙もありません。

 厄介ですね。もしかしてこれがメイド長よりお聴きした【勇者】とか言う人種なのでしょうか。

 

「ただのメイドさんがどうしてそんな武器を持てるのかな?」

「はて? このオークキラーがどうかしましたか」

 多少私が改造しましたが、元々オークを倒す為に作られた武器でございますので、特に不自然な部分はありません。

「その武器……呪われているよね? 普通の人間なら持ち続けているだけで衰弱死してもおかしくない。私やセイ君のように聖属性を持っていれば耐えられるけど、君には聖属性を感じない」

「お嬢様のメイドとして根性があれば問題ありません」

「根性……」

 呪いなんて根性があれば平気です。昔の人は根性とセイ○ガンがあれば不治の病さえ平気だったと小耳に挟みました。

「それだけで聖騎士様は“一般人”に剣を向けるのですか?」

「それだけって……教会の人間としては、あり得ないことなんだけどね。それに私は君の戦闘能力にも興味があるんだ」

「そうでございますか」

 思ったよりも面倒な人ですね。

「少しだけ手合わせして貰えるかな? お嬢さん」

「はい、お付き合いさせていただきます」

 

 エリアス様は片手剣と盾を構えて、私のトゲ棍棒と軽く触れる。

 

「行くよ」

 ガキンッ!

 彼がそう言った瞬間、片手剣の突きが襲いかかり、私はそれをトゲ棍棒の先端部分で受ける。

「凄いね」

「偶々でございますよ」

 と言いながら放ったトゲ棍棒の真下からの攻撃を、エリアス様は一歩下がって盾でいなした。

 なるほど……。普通の人間とはまるで違います。まるで一般人の中に一人だけゲームの主人公が混ざっているような感じでしょうか。

「今の攻撃は怖いね……」

「余裕で躱されておきながら何を言っていますか」

 彼を本気で倒すのなら、私も“本気”にならないといけないでしょう。ですが、不死化の件も、彼の能力も不明な点が多すぎます。

 まぁとりあえずは。

 

 キンキンッ!

「【聖光】っ!」

 私が背後から放たれた矢をトゲ棍棒で弾くと、エリアス様がその矢が放たれた地点へ光の神術を放った。

「な、何をなさるのですか、エリアス様っ!」

「……それはこちらの台詞なんだけど」

 エリアス様がどことなく呆れたような顔になる。

 背後から攻撃を仕掛けてきたのは、4人の金属鎧を着た若者達でした。エリアス様を知っていて胸に聖印を付けているところからすると、教会の関係者でしょうか。

「君達、何のつもりだ? 私と彼女を二人にすることで君達の役目は終わっているだろう?」

 どうやらあの罠はエリアス様が仕込んだようです。

「酷いことをいたしますね、エリアス様」

「お許しを、淑女(レディ)。奇妙な噂を確かめる為でした」

 エリアス様は剣を私ではなく教会の若者達――おそらくは神官戦士に向けながら、器用に頭を下げる。

 

「エリアス様っ、そのような者に頭を下げるなどっ!」

「そうですっ! そのメイドとその主の令嬢は、ジョエル殿下やカミラ公爵令嬢に危害を加える計画を立て、教会に悪意を持っているとっ!」

「……それを誰が言った?」

「ひっ」

 エリアス様より怒気と殺気が放たれ、神官戦士達の顔色が悪くなる。

「私の聞いた話と違うのだが?」

「そ、それは……」

「あの清らかな方が嘘をついていると仰るのですかっ! あの方が今代の聖女となられるお方ですのにっ!」

「それにカミラ様もそう仰って……」

「なるほどね」

 エリアス様が頭痛がしたようにこめかみを抑える。ずいぶんと酷いことを言われていますね。私だけならともかくお嬢様まで貶めるとは……。

 

「フルーレティ嬢……」

「失礼。それで、私をお疑いで?」

 私の鬼気に反応したエリアス様が声を掛けてきた。

「いいえ。剣で交われば大抵のことは分かります。あなたに悪意は感じません。それに私はそもそも、本当に二人きりになりたかっただけですので」

 ニコリと微笑むエリアス様に私の怒気も薄れてしまいました。でも確かに、私に悪意はございません。すべて本能で動いていますので。

 するとそんな私達の雰囲気に、神官戦士の一人が声を張り上げる。

 

「その女に神罰を与えるっ! 二人ほどエリアス様を抑えろ。その間に私ともう一人でその女を倒す」

「「「は、はいっ」」」

 

「フルーレティ嬢。……彼らは少々アレですが、悪い人間ではありません。ですので」

「死なせたりしませんわ」

 

「かかれっ!」

 先ほどの音の声で四人が二手に分かれて私達に向かってきました。

「聖女様のお心を乱す者よ、我らが、」

「ナイスショット」

「ぐひょっ!?」

 私の【オークキラーEX】の一撃が一人の男を吹き飛ばした。

「「「「………」」」」 

 吹き飛んだ男がダンジョンの天井に叩きつけられて、カエルのように落ちてくる。脚と脚の間を抑えて白目を剥いて痙攣しているその様子に、その場にいた全員が動きを止めた。

 皆さん、少しだけ腰が引いておりますよ。

「さて」

「く、来るなぁ!」

 リーダー格の男に近寄ると、先ほどの威勢が嘘のように怯えていますね。

 カンッっと、下半身を盾で護っていたので頭部の兜を軽く叩かせていただきました。意識が一瞬朦朧としたところを足を払い、その足を宙で掴んで持ち上げると、大股開きで無防備になった部分を狙う。

「や、やめっ」

「フルーレティ嬢っ!?」

 

「ナイスショット」

「ぐえ……」

 

 大丈夫でございます。鎧を着ていたので死んではいませんよ。ニッコリと晴れやかな笑顔で振り返ると、残りの神官達が高速土下座をして、どういう訳かエリアス様まで床に正座をしていました。

 

   *

 

「フルーレティ嬢。私は君がシャロン様を騙して、お家を乗っ取ろうとしていると聞いたんだ」

 戦闘が終わると、『初めて女性から叱られるかも』と愉しそうにしているエリアス様が教えてくださいました。

「それはどなたから?」

「……チエリ嬢です。カミラ様の証言や、ミシェル侯爵家侍女のミーアと言う者の証言も付いていたけど、チエリ嬢は教会の結界の件で若い神官達から人気が出ているから、彼女の証言だけで神官達が動いたのだろう……」

 そんな話をしていると、まだ土下座継続中の神官の一人が小さく声を漏らした。

「あ、あの……我々の他にも神官が、ミシェル侯爵令嬢を……」

「なんだとっ」

「…………」

 

 色々やってくれましたね……彼女達は。やはりあのような人達には調きょ……もといお仕置きが必要です。



 

エリアス君は天然さんです。良い子で叱られた経験もなく女性の基準が女神様なので、苛烈で可憐なメイドさんが気になっています。

正気に戻れ。


次回、メイドさん罠を仕掛けます。

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― 新着の感想 ―
ヤベえな………。 エリアスくんの頭上にドMゲージが出現した気がする。
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