転生先は縄文時代!?
ー俺の名前は武井優。
黒髪をオールバックに固めた髪形だけが特徴の、ちょっとだけ異世界転生に憧れる普遍的な高校二年生だ。
これは、そんな俺がひょんな事から憧れの異世界に飛ばされた物語。
さて、まずは俺が置かれた状況を振り返ろう。
といっても、振り返るほど大それた話も無い。
朝目が覚めたら、天井が無かった。それだけだ。
何故?なにゆえ?ホワイ?
最初は夢かと疑い、そのまま気にせず二度寝を試みた俺の顔に大きな蝶が止まった。
そのリアルな感触に現実逃避をやめ、とりあえずベターに頬をつねる。
うん、痛い。
となると、これはきっと現実だ。
まさか、こんな日が来るとは...待ちわびたぜ神様。
「本当に、異世界に来ちゃったっぽい!」
夢にまで見た転生に心踊らせ周りを見ると、そこに広がるは広大な草原と澄み渡る青空。
太陽がサンサンと照りつけ、大輪の花が咲き誇り、鳥たちは唄う。
周りに建物は一切見当たらない、辺り一帯が大自然に溢れた光景が広がっていた。
そんな大自然の中に佇む、上下ネズミ色のスウェットの俺。
完全に寝起きの状況であるため、当然裸足だ。
土踏まずに感じる草の感触がこそばゆい事この上ない。
装備品は皆無。せめて普通の服を着て居たかった。
いきなり転生するパターンの異世界モノだと、スマホやら眼鏡やらが大活躍するのが定番だが、どうやらそれすら無しでやっていかねばならないようだ。
辛いぜ、神様。
とりあえず、現状を確認した俺は、何度も脳内でシュミレートしてきた異世界転生の知識を辿り、この世界に対する推察をする。
周りの大自然から察するに、中世のファンタジー物か、タイムスリップ物であろうと判断する。
「となると、先ずは人を見つけて状況を確認するのがセオリーかな。」
何も分からない現状を打開するためにも、まずは情報収集だ。
そう考え俺は、記念すべき異世界生活の第一歩を踏み出した。
ー瞬間、背後の草むらが音を立てた。
ゴクリ。唾を飲む。
楽観的に考えていたさっきまでの自分とは打って変わって、恐怖に冷や汗が溢れ出す。
背後に何かが居る。
獣?魔物?化け物?
分かっている事は、ここは安全な日本ではないという事実のみ。
自衛の手段を持たない(或いは自覚無く何かに覚醒している望みは捨てたくはないが)俺に、アッサリ死ぬかもしれないという恐怖が重くのしかかる。
振り向けない俺の背後に立つナニかは、突如咆哮を上げた。
「ッンバァァ!!」
「ひいっ!?」
驚いた俺は、喉を枯らしたテノール歌手の叫び声のような咆哮に、反射的に振り向く。
目の前には、なんと言えば良いのか。
やや猿よりの人。うん、これが一番シックリくる。
目の前に現れたのは、まさに原人と言うに相応しい出で立ちの、腰に葉っぱを一枚つけた、筋肉モリモリの男だった。
その男の右手には、ウサギが握られている。
そして左手には、粗末な石の、武器?なのだろうか。
ちょっと尖った石と形容出来るソレを持った男が、鬼の形相で俺を見ていた。
まさか。
俺の胸を絶望が包む。
かつて夢見た異世界の数々は、世界観を問わず必ず文化は存在した。
そして今見るこの世界は、目の前の男から察するに、文化どころか言葉さえ存在しないことが伺い知れる。
広大な自然。
半裸の狩人。
粗末な石器。
ああ、分かった。確定では無いが確信はした。
俺は確かに異世界に飛ばされたんだ。
これはきっとタイムスリップもので、過去に戻った俺が現代知識で無双する。そんな物語なのだろう。
ありがとう神様。そしてふざけんな。
ああ、ちくしょう。分かっちまったからには叫ばせて貰うぜ。
よりにもよって、どうして...
「なんで転生先が縄文時代なんだよーー!!!!!」