05 暴風龍
第2章です。
「……い…。…な…い」
誰かが俺に声を掛けている気がする。女性の声なのだろうか…。
「…なさい。…きなさい」
きなさい?何を言っているんだ?
「…きなさい。起きなさい」
起きろって言っているのか。でも体が動かない。しかも凄く眠いし寒い。
「起きなさいって言ってるでしょ!」
「ボハァ!」
その女性が大きな声を出したすぐ後に俺の腹に重たい衝撃が加わった。
その衝撃によって俺は飛び起きた。
「ようやく起きたわね。あんたなんでこんな所にいんの?アホなの?馬鹿なの?死ぬの?」
「?何言ってーーーー」
振り返ってみて、顔の近くにあったものは……龍の顔だった。
「GYAaaaaaaa!!!!!」
「キャアアアアアア!何よいきなり!」
俺はその顔を見て、叫びながら気絶した。
「何よコイツ。人の顔見て急に叫ぶんだから。尻尾で攻撃するところだったじゃない。もう!」
その龍、彼女は和樹を爪で掴み、背中に放り投げ、空高く飛んだ。
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「ん…あ?何処だここ」
俺は寝っ転がりながら周りの景色を見た。…右の方に森があって、左の方に泉があった。
ーーー綺麗だ。俺は泉を見てすぐに思った。森の木々が太陽の光を遮っていて、その隙間から漏れる光が水面に照らされている。
俺は森の中で寝っ転がっていると何かに踏み潰されそうな気がしたから、起き上がった。
「痛ゥ!なんで腹が痛いんだ!?誰かに何かされたのか!?」
一旦記憶を整理しよう。
まず俺はレイスティア王国の闘技場で、吉崎 涼平と試合をしていた筈だ。
涼平が寝っ転がっているところを俺がメイスで攻撃しようとしたところ、空中に転移したんだっけ。
それから地面に激突して…。それから記憶がない。あと激突した筈なのに体が全然痛くない。何故だ?
「やっと起きたわね」
森の方から女性の声が聞こえた。振り返ってみると、150cmくらいの少女がいた。しかも裸で。
「お前なんで裸なんだ!?服着ろよ!」
「服?嗚呼、人間が身に付けている布の事かしら」
その裸の彼女は服という言葉に疑問を抱いた。
そして何故人間?何故この少女は自分自身も人間なのにそんな事を言うのだろう。もしかして…人外か?
人外だとしたらここまで完璧に擬態する事が出来るのだろうか?この世界にはそんな魔法も存在していたのか?俺は考えにふけていた。
「何ちゃっかり無視してくれてんの?あんたを死にかけの状態からここまで治したの私だからね?感謝の一言もないのかしら。これだから人間は…」
「ああ、すまん。君が俺を助けてくれたのか?」
「だからそう言ってるじゃない。部下があんたが森でぶっ倒れていることを伝えてきて、私が直々に出向いてやって助けたわけ」
直々をもの凄く強調してた気がする。だけど助けてくれたからにはちゃんとお礼しなくてはいけない。
「そうだったのか、ありがとう。君のお陰で助かった。感謝してもしきれないぐらいに」
「な、何よ。い、意外と素直じゃない…。そんな事言ったって私からは何も出ないわよ…」
何故か顔を赤らめて返事をした。なんで顔を赤らめるんだろう。あ…裸だからか。俺はこの世界に召喚される前までに着込んでいる学ランを少女に近づき差し出した。
「いつまでも裸だと寒いだろ。これ貸すから前を隠せ。見ているこっちが恥ずかしい」
少女は自分の体を見て、なんで恥ずかしいの?と首を傾げてきた。そしてーーー
「ああ!この姿じゃ落ち着かない!元の姿に戻るから、次はびっくりしないでよ!こっちだってびっくりするんだから!」
「?」
次はびっくりしないでよ?俺は何処かでびっくりしていたのか?あ…彼女に会った時、裸だったからびっくりしたな。でも彼女はそれ程びっくりしていなかったが。
そう考えてた瞬間、彼女が光り出し、彼女の体の形がどんどん変わっていった。
そして俺は戦慄した。彼女の元の姿は…
「龍…だと…!?」
濃くも薄くもない緑色のその体は鱗が生えており、背中には大きな翼が付いていた。
正しく本物の龍だった。体は想像以上に大きく、迫力があった。
「そう。これが私の本当の姿。今度は驚かなかったわね。普通私の姿を見たら人間は走って逃げていくんだけどね。あんたは違うようね。その場から動いていない。そんなのはあんたが初めてよ」
違う。動いてないんじゃない。動けないのだ。彼女から発せられる威圧が尋常じゃないのだ。
「まあ話は置いといて。自己紹介といこうかしら。私の名前は…ない」
ズコッ!
「どうしたの?」
「名前ないんかい!」
なんで名前ないんだよ…。自分で考えろよ。
「でも暴風龍 テンペストって呼ばれているわ。私は風を操る龍なんだけど、テンペストって名前ダサいじゃない?だから名前はない」
ちゃんと理由があった訳だ。暴風龍 テンペスト。格好良い名前だが、彼女には似合わない名前だ。女性にテンペストって…あり得ないな。まあ龍だからそう言われてるんだと思うけど。
「で、あんたの名前は?」
「ああ、俺は和樹。相良 和樹だ。よろしく」
「サガラカズキ?珍しい名前ね。何処生まれかしら」
変なところに食いつくな。此処では珍しい名前だが、生まれた場所まで聞くとは。
「俺はこの世界に勇者として召喚されたんだ。あと生まれは元の世界の日本ってところだ」
「へぇ〜。勇者ねぇ〜。召喚されたのってあんただけ?」
「いや、違う。俺の他に30人くらい勇者がいる」
正確にはクラスの人全員+俺の義妹なんだけどな。別にそのことは今は関係ない。
「で、その残り30人は何処にいるのかしら」
「レイスティア王国で訓練でもしているんじゃないのか?」
俺が転移されてパニクっていると思うが多分今まで通りに訓練に励んでいるだろう。
でもなんで彼女はこの話に食いついてくるんだ?勇者が気になるのだろうか。
「ふぅ〜ん。それでなんでカズキは此処にいるのかしら?疑問に思うんだけど」
確かに気になるよなぁ。此処に来るまでの事を全部話そう。そしたら納得してくれる筈だ。
「俺がこの森に来たのはよく分からないんだ。同じ勇者と御前試合見たいなのをしてたら急に空に移動しててな、それで目が覚めたら裸のお前がいた訳だ」
でもなんで空中に移動していたんだろう。空間魔法か?あれは膨大な魔力を使わなければ俺のことを転移させることができない筈だ。
「空間魔法ね。多分空間魔法を使ったのは30人の中の勇者ね。そいつは此処のこと知らないでしょ?」
「絶対知らない筈だ」
同じ勇者、か。確かに一理あるかもしれない。確か俺は天職を1人必ず持っていて、魔法の中に空間魔法ってのがあった筈だ。だとすれば天職は空間魔導師って事になる。だがどうして此処まで飛ばされたんだ?膨大の魔力がなければ此処まで飛ばせない筈なんだがな。そこが疑問だ。
「遠いとこと高いとこをイメージしたんでしょ。そしたら此処に落ちたって訳ね。その魔導師はあんたに恨みでもあったんじゃない?」
「まさか。そんな筈は………あった気がする」
「それはなにかしら」
「義妹の映姫だ。いつも映姫が側にくっ付いていたから、映姫に惚れた男子の誰かが俺を転移させて俺を殺そうとしたんだ。でも俺を殺してどうするんだ?」
何故なんだ?俺を殺したところでなにがあるってんだ?よく分からん。
「カズキを殺して自分のものにでもしたいんでしょ?そのエイキとやらはカズキにべったりで」
そこで区切り彼女は俺に近づき、耳元で、
「もし急にカズキが目の前から消えたらどうなると思う?」
「!」
俺は目を見開いた。
映姫は俺が修学旅行の時、俺が居なくて泣き、俺が帰ってくるまで学校を休んでいたことがあった…らしい。
母さんの証言によるとだが。その時は寝込むだけで済んだが、今さっきの様に目の前で急に消えたりしたら…。
「心を閉ざす…」
「そうね。私の予想ではこの後、数ヶ月はその王国にいる筈だと思うけど、王国から出たら誰かがエイキの心に漬け込んでくるでしょう、魔法でね。多分だけど闇魔法の洗脳を使うのだと思うわ」
「でもなんであの場所で俺を転移させたんだ?」
それがどうも腑に落ちない。映姫は俺がどう消えても余り変わらない筈だが。
「心に大きな傷をつけたかったからかしら。私だったら影でカズキを消すより、エイキの目の前で消したほうが心に漬け込みやすいじゃない」
「…そういうことか。なら早速王国に行かなければ」
俺はそう口にしてから森に入ろうとした。しかしーーー
「やめときなさい」
彼女は俺の前に出て、道を塞いだ。
「なんでだ?今から行かないと王国に辿りつけないだろ!映姫は見た感じは元気だけど心は本当に脆いんだ。なら早く映姫のところに…」
「転移させた相手も分からないのに?」
「え?」
「あんたが戻ったってまた同じことをされるかもしれないわよ?もしかしたらエイキの真ん前で転移されるかもよ?そうなったらどれだけエイキが苦しむことか」
一理あった。なんでそんな事を考えられなかったんだ。俺が戻ったところでまた転移されるかもしれない。
しかももしかしたら映姫の真ん前で転移したらあいつは自殺をするかもしれない。
畜生。馬鹿だ。馬鹿だな俺は。機嫌を直そうとしたって俺が消えたら元も子もないじゃんか。
よく自分の義妹の気持ちを考えてやれないでなにが兄だ。これじゃ兄貴失格じゃないか。
「分かったみたいね。妹を思う気持ちは分からなくもないわ。私だって部下が消えたりしたら悲しむわ。血が繋がってないとしても家族だもの。あんたはその勇者が動くまでじっとしてなさい」
「ああ…分かった。でも俺はなにをすればいいんだ?天職が召喚士なのになにも召喚できないんじゃただの役立たずじゃんか」
俺はこの世界に召喚されてから2週間で分かったことがある。それは召喚士のくせして召喚魔法が使えないからだ。何故か強化魔法が異常にできるんだけどな。
「召喚士?ああ天職ね。それはその王国にいたからじゃない?ここで試してみればなにかしらと契約できる筈よ」
確かに王国以外のところで召喚魔法を使った事がない。やってみるか…召喚魔法。できるかどうか分からないが。
「私は少し離れておくわね。詠唱恥ずかしいものね。背中が痒くなるわ。今の姿じゃかけないけど」
そう言って彼女は翼を動かし、飛んでいった。
自身は余り無いがここでくよくよしててはなにも始まらない。
ここは元気よく、
「Let,s try だぜ!」
そう叫んで俺は魔法陣を描き始めた。
「うし!描けた。これで詠唱をすれば召喚出来るんだよな…」
期待半分不安半分ってところか。確か詠唱は…
「『…我が盟約に従いて、来たれ我が盟友よ。汝、我の呼びかけに応じ、我が元に姿を現せ!』」
バァーン!
そんな効果音が流れてきそうなほど魔法陣が光った。今まで以上に光が強かった様な気がする。
そして現れたのは…
「なんで私が召喚されるのよ!」
今さっきまで話していた、濃くも薄くもない緑の鱗を生やした龍、暴風龍 テンペストだった。
「知らないよそんな事。騎士の話によるとランダムならしいんだから」
「それは嘘よ!その発動した人の魔力に応じて召喚される者が違うわ!私は風龍の王よ!?」
そうなんか。だとしたら俺の魔力は相当多いのかな?
しかし彼女は風龍の王だったのか。だったら王じゃなくて女王じゃね?
俺は心の中でツッこんだ。
「で、俺と契約するの?しないの?どっちだ?」
一応聞いてみた。だって気になるじゃん、最初に契約するのが風龍の王だぜ?誰だってそうなるだろう。
「ああもう仕方ないわね!契約するわよ。少しカズキの事、心配だからね」
「おう。そうかいそうかいそれは嬉しいこった」
「べ、別にあんたに惚れたってわけじゃないからね!これは本当のことなんだから!」
こいつツンデレかよ…。龍の姿のまま言われたら恐ろしいが、人化になった時に言われたら……
(あんたのことなんて全然好きじゃないだからね!)
「くっ!」
俺は鼻を押さえた。ヤバいこれはなんて破壊力だ。彼女は人化したら完璧すぎるほどの美少女。その彼女があんな事を言ったら俺、死ぬんじゃないのか?
「なんか鼻から血が出てるけど…どうした?顔も赤いし…なんかあった?」
「いやなんでもない。それで本当に契約するのか?」
「何度言わせるのよ。この私があんたを主として契約してあげるんだからね!」
主か…。いい響きだな。
「それじゃいくぞ?」
「早くして」
彼女に言われ、俺はナイフを取り出した。そして手の平を切ろうとしたら、
「別にそんなことしなくたって契約出来るわよ」
そう言って彼女は俺の前に額を突き出した。
え…そうなの?あの騎士の野郎ェ…。俺に恥ずかしい思いをさせやがって、許すまじ。
俺は彼女の額に手を付き、
「『汝、我を主とし、盟約を結ぶことを誓うか』」
「ええ、誓うわ」
そう彼女が言った瞬間、彼女の体が光り始めた。
「うわっ。眩し!」
そう口に出したがすぐに光は収まった。
そして彼女が、
「契約したんだから名前をつけてよ」
と言い出した。確か名前がないんだったよな、彼女。
俺は彼女がの体、鱗の色が濃くもなく、薄いこともないことからある色の名前がひとつ浮かんだ。
俺が最初に見た時からすぐに思いついた名前。
ーーー翡翠。
「お前の名前は、翡翠だ。これからよろしく」
「ヒスイね。いい名前じゃない。気に入ったわ」
そう彼女、翡翠は人間の姿になり、笑顔で、
「これからよろしくね!私の主様!」
俺は鼻血を出し、ぶっ倒れた。
「どうしたの?カズキ!?なにがあったの!?」
こうして俺は暴風龍 テンペストこと翡翠と契約したのだった。
ツンデレキターーーー!!!
龍なのに女の子でしかも人間に変身できて尚且つツンデレとは…。
我ながらちょっとヤバいキャラを作ってしまったかもしれない。
次の投稿は不定期です。
次も読んでくれると嬉しいです!