深夜の訪問者
暗闇の中、俺は幼馴染が自分の部屋に窓から入って来た事に息をのむ。
あれは沙奈では無い。
絶対にあり得ない。
他人の空似だ。
そんな事を頭の中で繰り返す、
すると、目の前の”幼馴染に似た人物”は
こっちに近づいて来る。
慌ててしっかりと眼を閉じ、どうか気付かれない様にと祈る。
「今日は早く寝てるね…甲君…」
今、俺の名を呼んだのか?
ひょっとしたらそう聞こえただけかも知れない。
「起こさない様に慎重にやらなきゃ…」
目の前の女性はそう言いながら、俺の
衣類が入っているタンスの方へと向かう。
そしてタンスを開け中を探る、一体何をしているのだ、俺はあのタンスの中に金品を入れた覚えなんて無い。
そうしている内に彼女は何かを掴み、
自身のポケットへと入れる。
そうして入って来た窓の方へと行き、
窓枠に足を掛け、部屋から出て行く。
そして窓が閉まる、それから俺はベットから
這って出てベットに腰掛ける。
一体、さっきのは何だったのか。
頬をつねってみるが痛みは感じる、
つまりは夢では無い。
あの沙奈に似た、沙奈と同じ声をしていた、
俺の事を知っていた、あれは本当に沙奈なのか?
少なくとも、沙奈には人の家に窓から入って
タンスを漁って帰るなんて趣味は無い筈だ。
じゃああれは何なんだ?
考えれば考える程、頭の中がごちゃごちゃに
なる。
「明日…沙奈に聞いてみるしか無いか…」
やはりそれが一番手っ取り早い。
沙奈じゃなければ、聞いても「知らない」の一言で片がつく。
ふと壁掛け時計を見ると短針は2の数字を指し、長針は1の数字を指している。
「こんな時間か…もう寝るか…」
再び布団に潜り、眼を瞑る。
そして、さっきの人物の事を考えながら
意識は消える。