一時の休息
誰も居ない筈の我が家のドアを開け、
誰も居ないとは分かっているが、一応、帰って来た時の挨拶はしてみる。
「ただいま…って言っても誰も居ないか」
何かを言っても、何も返事が帰って来ないこの状況にも大分、慣れてきた。
今、この家に居るのは自分ただ一人だけ、
それが後、一ヶ月くらい続く。
そんな事を思いながらテレビの電源を入れようとしたが、直前で手を止める。
そう言えば沙奈に帰ったらキチンと課題をやれと言われていた様な気がする。
これでもしも明日、「課題を忘れた」と
沙奈に言ったとしたら、何が起こるだろう、
取り敢えず無事では済まないのは確かだ。
そう思った俺は鞄を持ち、二階の自室へと向かう。
決して沙奈が怖い訳ではない。
怖い訳では無い。
やっとの思いで課題を終わらせた。
窓から外を見ると、もう外は暗闇に包まれている、時計に目をやると、七時を回った所らしい。
もうそんな時間か、道理で腹も空くわけだ。
階段を降り、一階のキッチンへと向かう。
キッチンの戸棚を開けると、そこには大量のカップラーメンが置いてある。
これらは全て、両親が買って置いてくれている物である。
ただ両親の謎のチョイスにより、「納豆キムチ味」だの「アボカド味」や、
「サバじゃねぇ!マグロ味」などがある。
意外と美味いからいいが。
今日はどれにするか、悩んでいると、
インターホンの音が家中に鳴り響く。
「誰だよ…俺の晩飯を邪魔するのは…」
渋々、玄関へと向かう。
「どちら様ですか〜?」
ドアを開けながらそう言うと、見覚えのある
人物が立っている。
「ふふっ、私だよ甲くん」
ドアを前に居たのは沙奈だった、
インターホンのボタンを押したのも、間違いなく沙奈だろう。
「ん?どうしたんだ?沙奈」
「甲くん、お夕飯はまだでしょ?」
確かに夕飯はまだだ、カップラーメンを選んでいた所で沙奈が来たからだ。
「おう、まだだけど…何でだ?」
「多分、甲くんは今日もお夕飯はカップラーメンでしょ?」
その通りだ、よく沙奈は分かるものだ。
「だから、甲くんにお夕飯のおかずを持って来たの」
沙奈の手元を見るとタッパーを二つ持っている。
「あぁ…わざわざ悪いな」
「大丈夫!平気だよ」
わざわざおかずを持って来てくれるとは、
やはり沙奈はいい奴だ。
「少しでも健康に良いものを食べないとね、
甲くんには長生きしてもらいたいからね」
「ははは…努力するよ…」
今日は沙奈に感謝しっぱなしだ、
これでは沙奈に足を向けて寝られないな。
「じゃあ、また明日ね、バイバイ」
「ん、サンキュ」
沙奈は手を振りながら、自分の家の方に帰って行く。
俺も手を振って、沙奈を見送る、と言っても
すぐ隣だが。
早速、キッチンに戻り、カップラーメンに
お湯を注ぎ、テーブルに二つのタッパーと
カップラーメンを置く。
因みに選んだのは「サバじゃねぇ!マグロ味」だ。
取り敢えずは一つ目のタッパーを開けてみる、その中には人参、じゃがいも、玉ねぎ、
糸こんにゃく、牛肉、サヤエンドウが入った煮物、「肉じゃが」が入っている。
これも沙奈が作ったのだろうか、
次のタッパーも開けてみるとしよう。
蓋を開けて見ると、一尾丸々の鯖と目があった、味噌の香りがする事から「鯖の味噌煮」と見た。
危ない所だった、もしもカップ麺がサバ味だったら、サバとサバで被っていた。
でも、味噌煮と肉じゃが、どっちも煮物料理とは……沙奈は少し、抜けている所があるのかもしれない。
そんな事を思いながら、タッパーに入った、
鯖と肉じゃが、後カップ麺を食べる。
やっぱり美味かった。