放課後と夕焼けと帰り道と
日が暮れ、空は紅く染まり、烏と蝉の
鳴声が合わさり、子供たちのはしゃぐ声が
何処からか聞こえる。
そんな中を俺と沙奈は並んで歩いている。
「あ〜暑い、夕方になっても暑い」
手で顔を扇ぎながら、教科書なんかが詰まった、それなりに重い鞄を持ちながら歩く、
これはかなりの拷問なのではないだろうか。
「でも、明日は少しだけ気温が低いみたいだよ甲くん」
俺の誰に言ったでもない言葉にもちゃんと
答えてくれる沙奈は結構真面目な部分が
あるのかもしれない。
「明日は〜って、何度くらい低いんだ?」
「……1度くらいかな」
「そんなんじゃ全然足りねぇよぉ……」
声を上げたつもりが暑さのせいか、
そんなに大声にならなかった。
そこでふと、沙奈が昼に渡してくれた弁当の事を思い出す。
「あぁ、そう言えば弁当ありがとな」
「ちゃんと食べてくれたの?嬉しい!」
なんだかオーバーな反応だが、喜んでくれたようで何よりだ。
「って弁当を貰ったのはこっちなのに、
何で沙奈が喜ぶんだよ」
少し笑いながら沙奈に向かって言う。
「だって…甲くんが私の作ったご飯を
食べてくれたのって久しぶりだから…」
言われてみればそうだ、沙奈の料理を食べたのは何年ぶりになるだろうか。
「それでそれで!どうだった!?美味しかった!?」
沙奈は柄にも無く、はしゃぎながら聞いてくる。
「あぁ、全部美味かったよ、マジで美味かった、サンキューな」
「やったぁ!甲くんに褒めて貰ったぁ!
嬉しい!」
沙奈は笑顔になって随分嬉しがっている、
こうして見ると結構、可愛いもんだ。
「そう言えばさ、あのゆかりご飯にさ…」
「甲くんが"ゼンブオイシクタベテクレタ"」
あの事について聞いてみようと思ったが、
途中で遮られてしまった、まぁ良いか。
そこから数分くらい、他愛も無い事を話しながら歩き、ようやく家の前に辿り着く。
「じゃあ、また明日な」
そう言って自分の家の方へと歩こうとした時。
「ねぇ甲くん、少し聞きたい事があるんだけど、ちょっと良いかな?」
沙奈の呼び止めに反応し、沙奈の方へ向く。
「ん?どうしたんだ?沙奈」
「甲くん、さっき教室で女の人と話してたよね?あれはだぁれ?」
「女の人…?ああ!古谷さんの事か?」
先程、帰りの時に話した女性は古谷さん以外にはいない、つまり沙奈が言っているのは
古谷さんの事だろう。
「あの人と甲くんはどんな関係なぁの?」
「どんな関係って…唯の隣の席の人ってだけだよ」
どうしてそんな事を聞くのか、俺には
さっぱり分からないが、沙奈は何を気にしているのか。
「本当にそうなの?」
「そうだよ、どうしたんだよいきなり」
沙奈の表情を伺うが、夕陽のせいか、影になっていて、表情が伺えない。
「ううん…何でもないよ」
「何なんだ?何かあるのか?」
「大丈夫、"ナンデモナイヨ"」
沙奈はそう言って、何時もの笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、また明日!ちゃんと課題は
早い内に済ますんだよ!」
「はいはい、じゃ、また明日な」
そう言って、扉を開け自分の家の中に入る。
扉を開け、閉めるまでの間、沙奈はずっと
こちらを見ていた。