思い出せない夢。
やはり夢と言うものは、起きたら即書きとめるに限る。
今朝観た夢をいまさら書き起こそうとしているのだが、ほんの断片しか思い出せない。
わたしは宇宙飛行士のようだ。
といっても、どこぞの国のごとく、空軍に属した正規のそれではなく、なにかの使命を帯びて召集された集団の一員。
集められた人々は老若男女、人種もバラバラならば、外見、言動に共通点は見られない。
もう目覚めて大分たつので、わたしを含めた彼らが何故集められたのかは、解らない。
ただ、召集し、我らを宇宙に送り出すためにかかる資金を提供しているのが、スイスの……あぁ、夢の中でそこの神経質そうな黒縁めがねの担当者二人はなんと呼んでいただろうか……財団だかシンクタンクだかであり、進行役の女性もどこか大きな機関の所属だったので、国家を超えたプロジェクトだったようだ。
わたし自身が宇宙にまだ行っていないせいか、はたまた呼吸できないあの空間にさして興味がないせいか、「わたし達」は夢の中で、まだ出発していない。
ただスペースシャトル発射を待つまでの、あの腹がちりちりと焼かれるような焦燥感と、妙な高揚感のなかで、準備する過程が、夢の中では描かれている。
宇宙に出発する仲間はたくさんいたようだが、その中に困った奴がいたようで。
一番記憶に残っているのは、その困った奴のために、わたしは夢の中で腹を立てながら東奔西走していた事である。
彼の外見は、良く覚えていない。
ただ苛立ったわたしが片腕で海の中から持ち上げられたのだから、浮力があったとしても、わたしと同じくらいの身長で、わたしよりも軽い体重の持ち主だろう。
つまりは青びょうたん君だ。
宇宙へ出発するまで間もないというのに、その困った彼は逃げまくる。
いや、逃げているのかどうかは、夢の中のわたしも、観ているわたしも解らなかった、と思う。
とにかく、彼は出発に向けてあれこれ忙しく準備する皆から離れ、何故か沖縄の海に行き、ダイビングをするのである。
しかも夜に。
「へっ俺は訓練なんてかたっくるしい事は嫌いでねっ」
なんてうそぶいて、遊んでいるなら良い。
いやまぁ良くはないけれど、集団行動のできない、義務を果たさない奴だと認識して、遠慮なく制裁を加えることができる。
なのに彼はひどく苦しそうな表情で、怯えてすらいるような顔をして、海に潜るのだ。
そして理由を言わない。
「もうあんた、ほんとに何してんの」
彼を追いかけるためにアクアラングを背負い、夜の海に飛び込む羽目になったわたしは、海から彼を港の船着き場のような場所に引きずり上げながら怒鳴るのであるが……。
それでも彼は理由を言わず、連れ戻した後も目を盗んで抜け出し、また潜るのである。
わけがわからない。そこら辺が夢と言ってしまえばそれまでだが。
そしてその海が実際にダイビングを楽しんだことのある、あの美しい紺碧の海ではなく、暗い、そう美しくも透明度もない海だったのがまた……嫌である。
そうこうするうち、出発の刻限は迫り、しかし準備が間に合わず、進行役の女性(50代くらい、癖のある金髪をショートカットにしたいつも地味なスーツ姿の)がキレて、泣きながら職場放棄をするなんて事件も発生する。
それを皆で宥めながらなんとか出発にこぎつけようと―――しているところで、目が覚めた。