ハードボイルド・ストーリー 運び屋トム
寝る前に読んだ物語がよかったのか、悪かったのか。
ハードボイルドな、夢を見た。
主演は最初ト○・クル○スであったのに、途中からヴル○ス・ウィ○スに変わった。
まぁ夢ですから。
主演の彼は、どうやら運び屋らしい。
運ぶものは、頼まれたものは何でも。
ただし彼の足がハーレーのようなバイクなので、大きさ重さが少々限られる。
彼は背に背負うか、麻に包まれ荒縄で縛られたソレを手に持っていた。
夢の中でもトムと呼ばれた彼は、不可能な依頼を華麗に成し遂げて行く映画の時よりは
長めのウルフカット。無造作にとき流しただけのそれを風になびかせながら、荒野を走っている。
風景からしてそこは、アリゾナ砂漠かメキシコか。
いずれにせよ運んでいるのブツはやばいモノらしく、真っ赤なルージュがコケティッシュなベリーショートのお姐さんに無線で「トム、検問があるわよ、突っ切って」なんて言われていた。
その物を受け取る側、もしくは引き継ぎ係?
黒い筋骨隆々とした素肌に革のベスト(もちろん鋲付き)をはおった兄ちゃんが、荒野の道っぱたで待ち構え、走りすぎる運び屋トムから
片手で受け取っていた。
トムの速度は眼視できるものの、髪が真横になびくほどだから、受け取るというよりもぎ取るといったふうであったが。
その兄ちゃんはきちんと木の陰(といっても幹は細く、ちりちりの葉が申し訳程度にしかなかったけれど)、で待っていたのが、笑えた。
非合法の取引らしく、妨害にも合う。
依頼人と対立している「組織」の「連中」や、商売敵と思われる奴ら。
荒くれ者ぞろいらしく、トムは途中で拉致られ、他数名の男とともに柱に括りつけられ、磔にされてしまう。
おやおやテンプレだなと思って観ているうちに、迷彩服を着込んだ男たちの乗るアパッチヘリが助けに来る。
わたしの知識が映画とドラマに偏っているので、救い手は、米軍のように見える。
つまり、磔にされて下に牧の束が置かれていたりするトムをヘリから見下ろし、ジョークを飛ばしたりするような連中である。
当然激昂して「早く下せ」と喚くトムを、「へっ、分かったぜ兄弟」なんて笑いながら。ヘリの先頭についている長い鉤爪のようなもので、トム達を縛っていた縄を切り、地上にぶん投げた。
トム君ごと。
実に荒っぽい助け方である。お陰でトム右足首を折ってしまいました。
ほんとうに助けだったのだろうか。
地面に叩きつけられた痛みで悶絶し、感覚のおかしい右足に手を伸ばしながら、「ちょっこれ折れてるって」と呟くトム君が哀れである。
医者はどこだ。そこのアーミー、はい仕事終~了~ってビール飲んでる暇があったら、彼を助けてやれ。
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はい。ここで配役変更です。
トム君からウィルス君に。
舞台も砂漠の荒野から、夜の雰囲気漂う、ショーを売り物にしたホテルに。
あれから何があったのか。ウィルス君たら右足はギプスで固めてるは、左頬に傷、左下腕に包帯と、ズタボロである。
まぁ演じるのがダイでハードな彼なのだから、仕方がないか。
今度は運び屋ではなく、何かを盗み出すために、そこにいるらしい。
相棒は女。ここでわたしの視点が俯瞰するものから、その女のものへと替わる。
と言っても彼女の姿も見えるので、映画を見ているようなのは、変わらないが。
彼女の外見はアジア系である。
最初はハニーブラウンのウェイビーヘアを胸元まで垂らしたゴージャス美女だったはずなのに、「わたし」に合わないと判断されたのか、アジア系に変わった。
黒髪ストレート。厚めのパッツン前髪に、襟足は刈り上げ気味のショートスタイル。横髪は前に行くほど長い。
顔も平たい顔族にふさわしく、凹凸の少ない童顔。ただし手足が長く、背も高い。これがわたしの理想なのだろうか。
彼女とウィルス君は、夫婦としてそのホテルに二、三日前から泊まっているようだ。
ウィルス君の増えた傷は、その間のお仕事でこさえたものらしい。
ショーを売り物にしている割には、彼らが泊っている部屋に場末間が漂っている。
部屋数のそう多くなさそうなホテルの、わたし達の部屋は3階。ショーは1階のホール。2階には後で知ったが礼拝堂があった。
なにしろウィルス君は利き足をギプスで固定されているので、ほとんど部屋から出ない。
他の傷も痛むのか、不機嫌そうな顔で一人掛けのソファ―に埋まり、テレビを見ている。
そのソファは窓の近くに置かれ、部屋の幅いっぱいにある窓はカーテンを開け放っているから、向かいのホテルのネオンが良く見える。
つまり彼は、命を狙われてもおらず、お尋ね者なわけでもないのだろう。
夢の中のわたしとウィルス君の関係性は、よくわからない。
対外的にはともかく、二人っきりの時には色めいた話をしていないから、単なる仕事仲間か。
何を盗もうとしているのか、仕事の詳細も良く分からない。
ただわたしは、部屋にカンヅメの彼に代わり、ホテル内で情報収集に勤しんでいるから、ターゲットはこのホテル内にあるようだ。
そして決行の時が近づいている、らしい。
わたし達の滞在中にも何度かショーがあったようだが、明日のそれは大掛かりなものだとか。
レセプションを務めるドラッグクィーンの様な盛り髪とメイクのオネエサマ二人に、「今からでも席を取れるかしら」
なんて聞いている。
「夫があんな状態だから、観光にもいけないしね。ショーを楽しもうと思って」なんて言い、オネエサマ達の同情を買っていた。
無事チケットをゲットし、部屋に戻ろうとしたところで、ホテルのフロントマンとその後ろにいたFBIの捜査官に呼び止められる。
そう、FBIである。合衆国の広域捜査を受け持つ彼ら。といっても、その男達はトレンチコートを着込んでもいなければ、スーツ姿ですら
なかった。
リーダーと思しき青いポロシャツにチノパンの男が説明するには、この一帯で盗難事件か何かがあったらしい。
それだけでFBIが出張ってくるのはおかしな話だが、裏に何かあるなど、彼らが言うわけもなく。
「あらそうなんですか、えぇ市民の義務ですもの喜んでご協力します」
なんて言いながら、部屋に案内し、身分証明書としてわたしとウィルス君のパスポートを提示する。
彼と夫婦として泊っているはずのわたしのパスポートが菊の御紋の赤い表紙なのは、夢を見ているわたしが、合衆国のソレを知らないからだろう。
ウィルス君は相変わらずソファに座ったまま、上げた右眉だけで、何事だと問いただしてくる。
彼に状況を説明している間、捜査員たちは狭い部屋の中を見て回り。リーダー格のポロシャツの男が、土足のままわたしのベッドに背中から飛び込んだのを怒っている時に、目が覚めた。




