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眠れる龍を起こすな。もしくは、虎の尾を踏むな。

雨の降る音を聴きながら、猫達と寝ていたら、こんな夢を見ました。

 中学校か高校の教室。

 生徒たちの体格から考えると、高校だろうか。


  「わたし」はどうやらそのクラスの担任もしくは授業中らしい。

 性別はわからないが、話し方、目線の高さ、視界の端によぎる白いそっけないシャツや濃い色のパンツ、黒い革靴をみると、男と思われる。




 場面はなんどか移り変わる。


 教室で授業をしていたはずなのだが、話がすすむうち、机が取りさらわれ、まるで椅子取りゲームかテーブルトークをしているように、教室の壁にそって椅子がいびつな円形に並べられ、みんなで内向きに座るシーンもあった。


 


 その間机はどこにあるかといえば、廊下に積み上げられているのだが、机の部分を背中合わせにして積み上げられ、上になった足の部分や、廊下の天井に奇妙なオブジェがぶら下がっている。


 そのオブジェの細部だが、夢の中の「わたし」はあまり注視していなかったらしく、流れるように書かれた漢字やなにかの紋章? 入りの、長方形の紙であることしか憶えていない。


 紙の質は、蛍光灯のあかりを透かせる程度で、真っ白。半紙のような織りはなかったと思う。お札か、カシュガルでみた風の墓の飾りのようだった。


 


 


 そう。ホラーテイストだと、夢見ている最中にも思ったのが、そのオブジェや、場面転換の前に発覚した教室の四隅に隠されていたお札のようなもの、そして生徒の皆が座る椅子の座面したに貼り付けられていた、メモ? である。


  教室に漂う「ナニカ」を、教師であるわたしや女生徒達、ついで男子生徒も感じる。


  ジャパニーズホラーである「呪○」や「リ○グ」、「着信○リ」などを観たことのある方ならばおなじみの、夜なわけでも、雨が降っているわけでもないのに、妙なほの暗さを感じさせる、あの空気が漂う。


 


「ナニカ」あると感じたわたしが指示して、授業を中断(もしくはやめて?)し、教室内の探索をすれば、でてくるでてくる怪しげなメモやお札。


 このあたりで場面が切り替わり、椅子をサークル状にして、みんなが向きあう。ちなみに机を廊下にだすシーンなどはカットされていた。


 


 わたしはなぜか教卓ではなく、普段はお知らせなどが貼ってある教室の後ろ側の黒板前に陣取り、生徒達が椅子の下から見つけたメモを読み上げるのを聞いている。


 残念ながら、メモの内容をよく覚えていないのだが、意味不明ながらも不穏な内容なのは確かのようで、聴く間に自分の顔がしかめっ面になり、生徒たちがざわざわ不安そうに囁き合うのも、それを助長していた。


 


 そしてメモを読み始めるまでには確かに教室に全員居たはずなのに、生徒がひとり、かけていたのだ。


 


 


 さぁホラーショーのはじまりだ。メモに書かれたように、これからひとり、ふたりと生徒がいなくなり、もしかしたら死体で見つかるのかもしれない。


「犯人」がどこにいるのか、それは果たして何者なのか。………生きている、ものなのか。


 


 そんな始まりを予感させるその瞬間、わたしは、自分が立つ正面、教室の前側の壁につけられた、スピーカーをにらみつけて言う。


「佐藤、遊んでんじゃねえぞ」と。


 


 生徒たちの半分くらいはわたしを見、半分くらいは、わたしが睨みつけているスピーカーを見、何人かは、いなくなった生徒の椅子を見ている。その顔にはどれも、「驚愕」の色がある。


 

 しかし、一番驚いているのは、夢を観ているわたしである。もしかしたら、「うぇえぇぇ―――」とくらい、寝言でつぶやいていたかもしれない。それぐらいの驚きっぷりである。


 だってこれから、物語が展開していくはずじゃないか。


 おそらく「探偵役」もしくは「ヒーロー役」である「わたし」が、生徒たちをめんどくさがりつつ守り、時に懊悩し、時に焦りながらも「犯人」もしくは「敵」を追い詰めていくんじゃないのか。


 その間には、生徒たちのうち何人かは犠牲になったり、「わたし」も傷ついたりして、ハラハラドキドキさせるんじゃないのか。


 


 そんな視聴者である「わたし」の期待なぞ、夢の中のわたしは、知ったこっちゃなかったらしい。


 彼は、だたひたすら不機嫌に声と顔に怒りをのせて、スピーカーの向こう、放送室にいるらしい「佐藤」に話しかけている。


 

「この馬鹿が、くだらないことしやがって」


「相手の力を読み間違えればどうなるか、教えてやる」


 


 と。


 そして「視聴者」の懊悩や突っ込みに答えるように、こう言うのだ。


 

「俺はあらかた人が死んでから現れるようなへぼ探偵じゃねぇ。だいたいそこまで、気が長くねぇ」


 


 で、そんな短気な探偵さんは、スピーカーの向こうから得々とした声で答える少年の言葉をぶったぎるのだ。


 


「よく、僕だって解りましたね、先」


「うるせえ。ここに居ないのはお前だけだ。だったら、お前しかいねぇだろうが」


「って、乱暴な。犯人だか幽霊だかに襲われて」


「うるせぇ。理屈なんざどうでもいいだよ。俺がお前を犯人だとわかった。それで十分だろ。理由ややり方はお前を押さえてから聞きゃいいじゃねぇか」


 


 あまりな理屈に余裕をこいていた佐藤君もしばし絶句。それでもなにか言おうとしたらしく、スピーカーからは息を吸い込む音がした、が。


 


「なにを勘違いして逃げられると思ったか知らないが。こんな面倒なことに巻き込みやがって」


 


 もんのすごく不機嫌にわたしがそう呟き、指をぱちんとならしたらば。

 スピーカーの向こうからは、悲鳴が。


 

「お前らっトラウマになりたくなけりゃ、耳塞いどけっ」


 


 眉間にしわをよせたまま、ぼうっと成り行きを見ていた生徒たちに、不吉なことを言い放つ。


 よくよく考えれば、他の教室にいる生徒も聞いているんじゃないのか、彼らはいいのかなんて「視聴者」としては思うのだけれど、彼にとってはどうでもいいらしい。


 

 慌てて、一部女生徒はなにを想像したか恐怖に顔を強張らせながら、耳を両手でふさぎ、ついでに床にうずくまる。

 その様を見届けながら、スラックスのポケットに手をつっこみ、むすっとした顔で、スピーカーから流れてくる悲鳴を聞いている「わたし」。


 


 


 ここら辺で、わたしは目が覚める一歩手前だったらしく、なんか、いろいろ悟った。


 


 ミステリーやらホラーを書くには、忍耐が必要であること。


 つまりは、小説をまず結末を確認してから読み進めるようなわたしには、中々難しいこと。


 

 学校やなにかの組織で、内部犯行に対する場合。もしくは、相手も同じ人間である時。つまりは広義の「仲間」である場合。攻撃を逡巡したり、疑うこと自体を恐れたりするのは、あくまで探偵やヒーロー/ヒロインが「善い人」であるからなのだな、と。


 

 今回の「わたし」は、先生であるのに、一瞬もためらわない。


 一人も傷つけられたり死んでいないことを考えれば、「事件」がまだ起こっていないのに、「犯人」を名指ししている。しかも激怒しながら断罪し、攻撃する。


 


 怒りポイントは、「自分を巻き込んだから」と、授業(生物)でもさんざん教えてやっていたのに、「明らかに相手の実力を読み間違えた大馬鹿野郎」が犯人だから。


 


 目覚めの少し前、薄れていく映像を見れば、犯人役の佐藤君は殺されてはいないらしい。


 トンデモ展開、いままでのサスペンスホラー調はなんだったのかと自分でも突っ込みたいが、「わたし」はサイキックというよりも、魔術師かなにかのたぐいで。佐藤君を襲わせているのは、淫花というか、触手というか、そんなたぐいのもので。


 スピーカーから流れてくる悲鳴に、だいぶ色がついてしまっていた。


 


 確かにこれを聞けば、トラウマになるだろう。女子も、男子も。

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