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壁ドン 粘着王子編

本編との繋がりは一切ありません。

攻略キャラとお姉ちゃんが恋人設定。

篠谷、真梨香ともに3年生。季節未定。(たぶん夏)

糖分過剰。

お姉ちゃんがデレ。

キャラ崩壊。

本編との繋がりは一切ありません。(大事な事なので以下略)

 夕暮れ迫る南校舎、この時間ともなれば人の気配も殆どない。そんな廊下の片隅で、私は壁を背に手を後ろに回して肩で息をしていた。目の前には同じく肩で息をする金髪碧眼の男。壁際に追い詰めた私を腕で囲うように壁に押し付けている。


「…っ…はぁ…いい、かげんに、渡しなさい」

「いや…です…っ…は…」


 二人して息が上がっている理由は、先ほどまで南校舎内を全力疾走で追いかけっこしていたからである。高校生にもなって、と思いはするが、追いかけてこられたのだから逃げるしかなかったのだ。結果、追い詰められて、校舎の端で壁ドンされている訳である。

 ちなみに追いかけっこの原因はというと…。


「いいですか、真梨香まりかさん、この世には肖像権というものがありまして、その写真について僕には返還を求め、処分する権利があります」

「処分するなんてダメですよ。一応父の遺品なんですから。絶対渡しません!」


 先日、父の遺品を整理していたら、幼い頃に篠谷しのやと出会った時の写真が出てきたのだ。ふわふわの金髪に碧の瞳が愛らしい、宗教画の天使がそのまま具現化したようなその少年は、妹の桃香ももかによってピンクのリボンを付けられていた。

 その写真を持ってきて、委員会が終わった後、「こんなの見つけちゃった~!」と見せてみたところ、取り上げられそうになり、そのまま校舎内横断追いかけっこがスタートしてしまったのだ。たかが写真一枚に本気過ぎるだろ。

 確かにピンクのリボンの写真なんて恥ずかしいのはわかるが、私としてもこの写真は渡せない。


「お父様の遺品は他にもあるでしょう? その写真は渡しなさい」

「い~や~で~す~!! ぜっっっったい渡しません!!」


 背中に回した手に力を込める、あんまり力みすぎると写真を握りつぶしてしまうので、そこは慎重に。そのままキッと睨み上げると、氷のように冷ややかな双眸に見降ろされ、少し負けそうになる。そんなに怒ることないじゃない?


「写真の一枚くらいいいじゃない~。篠谷君のケチ~」


 思わず悲しくなって目が熱くなる。途端に篠谷の顔に動揺が走る。慌てたように目を逸らしたかと思うと、ちらりと横目でこちらを見下ろし、何かに気づいたように再び目を逸らす。その首筋を汗が伝うのが見えて、どきりと心臓が音を立てた。

 落ち着いてみると、走り回っていた所為で、篠谷の白い頬は上気し、息は乱れ、汗ばんだ肌も扇情的な状態になっていた。普段は爽やかに整えられている髪も乱れている。

 途端に、ほとんど密着しているような今の状況がいたたまれなくなる。


「あ、あの、篠谷君ちょっと離れてほしい…んだけど…」


 片手でその体を押し返そうとするけれどびくともしない。細身に見えるくせに、制服越しに感じる胸板は無駄なく引き締まった筋肉の存在を掌に伝えてくる。動揺して離そうとした手を掴まれた。熱情を孕んだ碧の瞳に捉えられる。


「…真梨香さん」

「ちょ…あの、離して……」

「嫌です」


 何故か更に距離を詰められる。これは良くない兆候だ。必死に頭を巡らせるけれど、逃げる隙が見当たらない。そうこうするうちに掴まれた手に篠谷が唇を寄せる。騎士が姫君にするような清廉なものじゃなく、何て言うか…酷く淫靡で、官能的な口づけだった。どうも完全にスイッチが入ってしまったらしい。


「あの…篠谷君…ここ、学校だよ? 誰か来るかもしれないし…こんなところで風紀委員長が風紀を乱してるのは拙いんじゃないかしら…?」

「……そうですね…誰も来ないことを祈りましょうか…」

「いやいやいや、来なくても駄目でしょう?! なにそのばれなきゃいいみたいな理屈!」


 慌てて手を振りほどこうとしても、無駄だった。痛くはないのに全く動かないのだ。完全にホールドされている。このままでは学園の廊下で風紀委員長と監査委員長が不純異性交遊なんて懲戒処分ものの展開になってしまう。


「落ち着こう? 篠谷君、ちょっと落ち着こう??」


 いや、私も落ち着かないと…! ええっと、相手を気絶させる人体急所はどこだっけ?! …ってさすがにそれも拙いか…。焦っているうちに篠谷の顔が近付いてきて……。


「……流石にこんなところで盛ったりしませんよ。…僕を何だと思っているんですか?」


 耳元で低く囁かれた。え…?と見上げた先にはピンクリボンの写真を手に微笑む腹黒貴公子がいた。


「ああ~~~~!! 私の写真!!!」

「僕が被写体なんですから僕の写真です。…まったく…こんなものを後生大事に持ってどうするつもりなんですか」


 忌々しげに呟いて、今にも破り捨てそうな勢いに、思わずしがみついて取り返そうとする。しかし腕をまっすぐ上げられてしまえば身長の差はどうしようもなかった。


「返してよ!!」

「嫌ですよ。何でまたそんなにこの写真にこだわるんですか? …ちょ…しがみつかないでください…あなたは慎みというものが無いんですか…?! 本当に襲いますよ?」


 気が付けば篠谷に抱き付くようにしてピョンピョンと飛び跳ねていた。はっとして距離を取ると呆れた視線とため息を浴びせられた。


「…嘘ですよ。どれだけがっついていると思われているんですか? 僕は」

「え、いや、だってさっきの迫り方とかすごくいやらしかったし…。目とか本気っぽかったし…」

「あなたに日々焦がれていることは否定しませんけれど、節度くらいは弁えているつもりですよ。…まあ、あなたは僕の理性を試すかのごとく煽るのがお好きなようですけれど…」

「は? 煽ってない、煽ってないよ?!」


 前から思っていたけど、篠谷は絶対目が悪いと思う。私のどこをどう見たらそんな風に見えるのか…これはあれだろうか、小さい頃に池に突き落としたせいで視力に変調をきたしてしまっているのかもしれない。


「そんな珍獣を見る様な目をしないでください。僕は至って正常です。あなたが鈍すぎるんですよ。……それより、この写真、なぜそんなに手離したくないんですか?」

「………だって……篠谷君映ってる写真、他に持ってないんだもの」

「……は…………?」


 篠谷の目が真ん丸に見開かれる。そりゃあそうだろう。私だって今恥ずかしさで顔から火が出そうだ。恋人の写真を持ち歩きたいとかどこの乙女だっつーの。軽く死ねそうな気分の私に追い打ちをかけるように篠谷が盛大に溜息を吐いた。


「……写真くらい、いくらでも撮ればいいでしょう。何でしたら今からでも……」

「今の篠谷君の写真も欲しいけど…その写真も持っておきたいのよ…今より可愛いし」

「ほう…まあこの年齢になって恋人の女性から可愛いと言われても素直には喜べませんので構いませんが……よもやあなたが幼児趣味と走りませんでした」

「違うわよ! …そうじゃなくて……小さい頃の写真も、今の写真も、篠谷君に関わるものなら何でも欲しいって………~~~~嘘! も、もうその写真いい! 私帰るわ…!!!」


 いたたまれなさに逃げ出そうとしてあっさりと手を掴まれた。恥ずかしくて顔が見られない。


「ああ、もう! 本当にあなたは人の理性を何だと思っているんですか!!」


 苛立ったような声で言われ、怒らせてしまったのかと恐る恐る顔を上げると、悔しそうな表情で首まで真っ赤にした篠谷が目に入って、また顔を伏せる。見るんじゃなかった。なにその顔。そっちこそ私の心を何だと思っているんだ。イケメンずるい。照れ顔までイケメンとかほんとずるい。


「……行きますよ」

「え…? どこに……?」


 急に手を引かれてつんのめりそうになりながらついていく。


「僕の家です。写真ならいくらでも差し上げます。それこそ赤ん坊のころから現在まで、好きなだけ」

「え! 本当?!」


 思わず弾んだ声が出てしまう。だって赤ん坊から現在までってことは再会するまでの成長記録全部見せてもらえるってことで…しかも貰えるの? 何枚でも??

 そんな私を振り返って、篠谷はその美貌のかんばせに凄絶な色気を乗せて微笑んできた。


「ええ、ただしなにぶん大量にありますので、じっくり時間をかけてお見せします。なに、明日は土曜日ですし、一晩くらい問題ありませんよね? ああ、ご自宅には連絡を入れてください。帰宅は明後日になりそうだ、と」


 抗議はもちろん却下された。

篠谷は本編でヘタレ街道まっしぐらですが、恋人になった途端ぐいぐい来るタイプだと思っています。

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