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金色の狐

 左手に握った携帯用のライト。

 そこから伸びる小さく頼りない明り。だがそれは闇の中にはっきりと道を浮かび上がらせる。

 光に照らされた道を踏み進む俺たちの足。雫が床を叩く音すらしないここでは、半ば忍び足の足音ですらうるさく感じられる。

 あれから俺たちは枯れた下水道跡の奥へと進んでいた。

 崩落地点から差し込んでいた細い光もすぐに絶えた。

 だが幸いなことにライトの入った荷物を持ってきたままだったので明りには不自由がない。

 さらにもう一つ。この静かさなら侵入と追跡が有れば嫌でも耳につく。

 もちろん、かかれば“派手な音”の鳴る鳴子は後ろに仕掛けておいてある。

 ちなみに主な材料はエリスが盗賊からくすねておいた手りゅう弾だ。

 ともかく今のところは追跡の気配はない。その状態で俺とエリスは縦に並んで下水道跡の出口を探し歩いている。

 後ろのエリスが小ぶりのオートマチックを。

 俺がライトとは逆の手に使い慣れたナイフを構えて進む。

 殺し損ないの足音を重ねて進む俺たち。

「分かれ道?」

 エリスの言うとおり、進み続けていた俺たちの前に分かれ道が現れる。

 右と左。

 今までの道を合わせて、真上から見ればおそらくY字型になる分岐。

 その分岐の奥へ交互にライトを向ける。

「どうする、シバ?」

 背中を合わせてくるエリス。

 銃を後方に向けて、今来た道を警戒しながらの質問。

 俺は後方を担当してくれている連れと目を合わせると、正面に目を戻してもう一度ライトを奥へ向ける。

 さて、どちらに進むか。

 奥に続く道はどちらも深い。光を向けても道を選ぶ材料までは届かない。

 だが、正面からは微かに空気の流れを感じる。

 耳を澄ませて音の反響に集中。

 それから見るに、恐らく外へ続いているのは右手の道だ。

 少なくとも外気の流れ込む隙間はあるだろう。最悪、その隙間をこじ開けて出ればいい。

 そう判断した俺は体ごと光を右斜めに伸びる通路へ向ける。そしてエリスに向かってあごをしゃくって先を促す。

 エリスが頷いたのを確かめて、進むと決めた道へ足を進める。

 分かれ道に入った所でまた爆弾のトラップ。

 それを残して、俺たちはか細い光を頼りに下水道跡を奥へ、奥へと進む。

 どれほど進んだだろうか。

 いい加減この静かな闇に飽きてきたところで、通路の奥から明りが見える。

 いきなり現れた妖しい光。それに俺は足を止めてライトの光を足の甲に落とす。

「むぎゅ?」

 すると背中に追い付いてきたエリスがぶつかる。

「ちょっとシバぁ? どうしたっての?」

 後ろからのむっとした声に、俺は体を少しばかり脇に避けて前を見るように促す。

「なにあの光? 誰かいるの?」

 多分そう言う事だろう。

 その誰かとやらが敵ではないとは限らない。

 気取られない様に明りを前には伸ばさず、足音を立てない様に忍び足で光の出所へ近付く。

 そろり、そろりと息を殺して距離を詰める。

 どうやら適当な空間を利用した隠れ家らしい。

 壁に開いた横道。そこから伸びて闇を切り裂く人工的な光をそう判断する。

 その入口となった壁の切れ目に体を寄せ、聞き耳を立てる。

 刹那。不意に何か硬い物の割れるような硬質な高音が響く。

「あん? 客ならさっさと入れよ」

 それに続いて隠れ家から投げかけられる声。

 失敗した。

 気付かれた以上奇襲をかけることは不可能だ。警戒して銃ぐらいは向けているだろう。いまさら仕掛けた所で迎え撃たれるのがオチだ。

 だが踏みこむべきかと脚に力を込めた所で、再びの金属音。

「きゃああッ!?」

 直後、後ろから響く悲鳴。

 それに引っ張られる様に振り返る。するとエリスと、その体を羽交い絞めにする黒いフード男の姿があった。

「ヒヒ! なんだなんだよさっきのデカブツじゃねえかよ。ここまでよくこれたもんだなぁ!?」

 フードの下からのぞく薄く広く開かれた口。

 間違いない。俺たちを余計な面倒に巻きこんだ元凶だ。

 その姿に思わずナイフを握る手に力がこもる。

 だが、エリスを盾にする様に前に出されては仕掛けようが無い。

 ナイフを握った手を体の後ろに隠したまま、黒フードの出方を見る。

 警戒する俺。対する黒フードはにやけツラのままエリスの腕を持ち上げる。

「この! はなせ、はなせよ!」

 それにエリスも身じろぎして抵抗する。だがいくら男が細身でも、それ以上に小柄なエリスでは抵抗もむなしく腕を頭の上に組まされる。

「ぼ、ボクなんか捕まえてもムダだぞ!? 相棒はボクごと貫くのをためらったりしないんだから!」

 体を左右にねじりながらハッタリをかますエリス。 さすがに今この場で渉外役のエリスを切り捨てる気はない。

「へーへーへー、そうかいそうかい。そいつは怖いねえ」

 黒フードはそれを見抜いているのか、まるで本気にしていない棒読みを返す。

 そして左手でエリスを抑えたまま、自由にした右手を俺に見えるようにする。

 何も握っていない素手。それで何をするつもりなのか。

 黒フードはそれを二度、三度と空握りさせる。

「ヒヒッ」

 そして短い笑みを引き金にその手が動く。

「ひぃ!?」

「あーあーあー……こりゃ見事なまでに洗濯板ダワ」

 だがその手は俺の予想を斜め四十五度にぶち破って、エリスの胸へと真直ぐに着地していた。

「ちょ!? ヤメッ! 勝手に乙女の胸をいじくりまわしてんじゃないッ!!」

 自身の平原をまさぐる手に身震いし、身をよじるエリス。

 だが地主の抗議をどこ吹く風と、黒フードの男は右から左へと侵略の指を伸ばす。

「オォイ、オーイ、オォオイ!? これが乙女の胸たぁ笑わせるじゃねぇか? こんなアバラの浮いたまったいらは洗濯板っつーンだよ小娘が!」

 抵抗できないエリスの横顔に頬を寄せる黒フード。その口から出た侮辱の言葉にエリスは悔しげに唇を噛む。

「う、ぐうぅ……!」

「だぁが触り続けてみたらこれはこれで! あばら骨のでこぼこにかぶさった薄く、しかし弾力のある柔らかさ! これはアリじゃね!?」

「へ、変態だぁあああッ!?」

 力強く力説する黒フード。その腕の中でエリスが身震いのままに悲鳴を上げる。

「ありがとよ。最高のほめ言葉だ」

 黒フードはそう返して胸をまさぐっていた手を下へずらしていく。

「ひぃう!?」

 みぞおちから腹へと這い降りる手。それはさらに小さなへそをなぞって降りていく。

「ひぃ!? そ、そこはダメ! ボクの体に触っていいのは相棒だけなんだから!?」

 おいバカやめろ。

 いきなり始まった痴漢に俺はあっけに取られていた。が、エリスの吐き出した嘘には心の内でつっこまずにはいられなかった。

「へえ、へー、へぇえ? なんだデカブツオメーロリコン!? うっわー引くわぁあ」

 ほら来た。

 そのちんちくりんの体をまさぐりながら、ニヤニヤと口の端を歪める黒フード。

 目の前の変態のにやけ面には正直イラついた。だが、このふざけた痴漢野郎にナイフを突き刺す気は失せた。

 毒気を抜かれた俺は右手のナイフを鞘に納めて、フード男に押し付けられた小箱を掴む。

 そんな俺をよそに、黒フードはエリスの腰を包むズボンに指をかける。

「フヒヒハハハ! さぁ~ていよいよ行くぞォ~! 俺の下もスタンドアップ!」

「いやぁあああああッ!?」

 目の前で起こる下品な高笑いと悲鳴の合唱。

 その片方の出所へ俺は握った小箱を投げつけた。

「とげうぉおッ!?」

 俺の投げつけた小箱は吸い込まれる様に元の持ち主の顔面に帰る。

 そうして黒フードが奇妙な声と鼻血を上げて仰け反った隙に、さんざんまさぐられていたエリスをかっさらう。

「お、遅いよぉ! ボクとはあんなに熱くとろけるほどに求め合ったパートナーだっていうのにぃ!?」

 おいコラやめろ。

 腕を振りまわしながら乱された衣装を整えるエリス。そのでたらめを塞ぐため、バンダナに包まれた脳天に軽いチョップを落とす。

「あいたぁ!? なにすんの! 今さら照れる仲でもないじゃん!?」

 続く抗議の声にもう一発チョップ。

「わぷっ!?」

 黙れ。一方的に寝床に潜り込んで勝手を抜かすな。

 確かに……据え膳として平らげてはいるが。

「ヒヒャハハハハハ!? 何だマァジでマジ、マージなのかよ!? ヒヒヒハハハハッ!!」

 投げつけた小箱を片手に、ゲラゲラと笑い転げる黒フードの男。

 いや。顔面へのビーンボールでフードが外れて、男の長い金色の髪が闇に流れる。

 首のあたりで一つに束ねられたそれは、微かな光を照り返して光る。

 その光に彩られた、全体的に線の細い鋭角で構成された顔。

 顔そのものは整っていて相当な美男の部類に入るだろう。だが薄開きに開いて人を嘲笑う唇や眼からはどこか狐を連想する。

「ブヒャハハハハハハ、ヒヒーヒャッハハハハハッ!? そんな洗濯板取り戻すのにマジになっちまってチョー受けるんですケドォ!?」

 だが酷い勢いで笑い転げているせいで、整っている筈の顔も崩れに崩れていたが。

「あら? あらあらン? どうしたどおした? どーしちゃったのよロリコンデカブツちゃんよぉ~!? こんだけ言われて無反応ォ~?」

 金髪の狐面はバカ笑いを区切って身を起こす。すると、片手で小箱を弄びながらぎょろりと見開いた左目を向けて身を乗り出してくる。

「おや、おやおや~? このデクノボウちゃんは耳が聞こえねーのかなぁ~? それともたっちはできてもおしゃべりができないんでちゅかねぇ~? ギャハ!」

 狐面は空いた片手で俺を指さしながら立ち上がる。そのまま前のめりに体を揺さぶりながらにじり寄ってくる。

 だがそんな狐面の挑発に俺は乗るつもりはない。というよりは俺の口に返すべき言葉を投げつける能力は無い。

「チッ! ダンマリかよ!? マジでしゃべれねーのかよこのデクノボーがよぉッ!?」

 しかし俺が一言も喋らないのがカンにさわったのか、狐面は歯を剥いて俺を下から突き上げるように睨みつける。

「そこまで! 相棒を本気で怒らせたら知らないよッ!? アンタだって、前大戦の超戦士の噂くらい知ってんでしょ!?」

「……ああッ!?」

 俺たちの間に割って入ったエリス。それを金髪の狐面が睨み返す。

 余計な事をぬかしてくれる。

 痴漢された意趣返しの脅しだとしても質の悪いハッタリだ。

「……コイツがだぁ……?」

 さっきまでのふざけ半分のものとは違う、深く座った目で値踏みしてくる狐面。

 明らかな殺意を込めた射抜く様な視線。突き上げてくるそれを俺は真っ向から見下ろして睨み返す。

 互いに引かぬメンチ切りの応酬。

 だがそこで遠くから爆発音が響く。

「なんだぁッ!?」

「ここまでにしかけてきた爆弾ッ!? あいつら追っかけて来たんだ!!」

 多分エリスの言うとおりだろう。

 厄介なことになった。

「チッ! めんどくせぇーなぁオイ!!」

 狐面はしかめっ面のまま舌打ち。そして金色の髪に包まれた頭をかきむしると、俺の右脇をすり抜ける。

「ボクらも逃げよう!」

 光を吐きだす通路の切れ目。そこに滑り込んだ金色の尻尾。

 光を弾く金髪を追いかけながらのエリスからの提案。

 言われるまでもない。

 俺はエリスに頷いて見せると、金髪の狐が滑り込んだ通路の隙間へ駆け込む。

 硬い床を蹴り鳴らしながら転がり込む俺とエリス。

 直後、何か銀色に光輝く物が俺たちの横をすり抜けて飛ぶ。

 その光を目で追いかける。

 だがその正体を見極める間もなく、その銀色は甲高い金属音を立てて破裂。

 そしてその残りかすが散らばり消えるや否や、俺たちの通り抜けた通路が壁になって埋まる。

「入口がッ!?」

 驚きの声を上げるエリス。

 それと揃って俺も背後へ向けていた視線を正面へ戻す。

 すると立ち止まり笑っていた金の狐と目が合う。

「ヒャハッ」

 俺たちが足を止めると、狐面は一つ声に出して笑う。

 そして後ろに置いてあったボロボロのソファーに身を投げ出すようにして座る。

「あら? あらあら? なーにヒトン家に勝手に入って来ちゃってるワケェ~?」

 片手で小箱を弾ませて弄びながら、ソファーにふんぞり返る狐面。

 天井に埋め込まれた明かりに照らされた空間。

 狐男の腰掛ける所々の破れたソファー。

 それを中心に散乱する空のボトルやら何やらのゴミ。

 部屋の奥には下り階段に続く通路と、さらに奥へ続く道が見える。

「あーあーあー……一応奥の通路は外に続いてるぜ。ケドよぉ、タダで通してやるわけにはいかねーな。いかねーよぉ?」

 椅子にふんぞり返ったまま通行料をせびる金狐。

「自分も勝手に使ってるくせして……」

 顔をしかめて鼻を鳴らすエリス。

 対する狐面は薄く開いた唇の笑みを深くして笑い飛ばす。

「ハッ! 元が誰のモンだろうが今は俺が使ってんだ。今さら何言っちゃってんの? 洗濯板ちゃんよぉ~!?」

「チッ」

 舌打ちするエリス。

 だがこの金狐の言うとおり。それが今の世の中の道理だ。

 何もかもが捨てられている。価値を認めて拾ったモン勝ちという奴だ。

「アンタの投げてよこしたモンでこっちは大迷惑したんだから! しかもこっちはそれを捨てずにとどけてやったんだからタダで通すのが筋じゃない!?」

 狐の手元に戻った小箱を指さしながら食ってかかるエリス。

「あぁ~……そうそうそーだっけなぁ~。ケドよ、得意になって条件にしてきたのに悪いけどよぉ~。俺様ちゃんにはコイツは別に戻って来なくても良かったワケ」

「はぁ!?」

 目をむくエリスの前で、小箱を開けて逆さにする狐。

 その中から吐き出されたのは、色取り取りの女物の下着だった。

「そんなモンのために……ボク達、あんなに逃げ回って……」

 力を失ってがくりと膝を突くエリス。

 同感だ。

 囮だろうとは薄々感じてはいたが、よりにも寄って女物の下着だったとは。

 隣のエリスと同じ脱力感に襲われて、足から力が抜けそうになる。

 そんな俺の隣でエリスは顔を上げて狐面の変態を睨みつける。

「この……変態! 変態ッ! 変態ィイッ!!」

「ヒハ! さっきも言っただろーがよー。それはサイコーの褒め言葉だってよぉ~お~!? ヒヒャハハハハハ!」

 前のめりに腹を抱えて俺たちを笑い飛ばす金髪男。

「く、うぅぅ……」

 笑われて悔しげに呻くエリス。

 その肩に俺は軽く左手を弾ませて、緩く握った右手を前に倒す。

「え!? マジで!?」

 俺たちの間で取り決めたサイン。

 そのサインの意味にエリスは信じられないものを見る様な目で見返してくる。

 俺はそのエリスの目に頷いて、もう一度重ねて同じサインを送る。

 するとエリスは深々と溜息をついて立ち上がる。

「……アンタさっき。客だの何だのと言ってたけど、なんか商売でもしてんの?」

 するとそれまで大笑いしていた狐面は笑いの勢いを緩めて背もたれに体重を預ける。そして燻ぶる様な笑いに肩を震わせながら口を開く。

「おーおーおー。そういや言って無かったけな~。俺はミア。恥ずかしい秘密からお宝の場所まで、売るの探るのなんでもござれな情報屋ってぇ奴よ」

 ヒヒッと漏れ出た笑いを添えて名乗るミア。

 情報屋か。

 多少面倒はあったが、ここでかち合えたのは好都合だ。

 俺が喉から手が出るほどに知りたい情報を売ってもらうとしよう。

 俺はそう決めて、エリスに目配せする。

 するとエリスは顔をしかめて言外に抗議。だがしかめ面のまま頷いてミアへ顔を向ける。

「アンタが情報屋なら都合がいいや。ドクター・ウィロウ……コイツがドコにいるか、情報はある?」

 ドクター・ウィロウ。

 その名を反復した俺の内で黒いモノが煮え立つ。

 許すことの出来ない仇。拭いきれない憎しみの根源。そうだ、一日でも早くヤツを殺すために俺は生き続けている。

 その憎い仇の情報をこの狐面が持っているのか。はやる気持ちのままに、俺はミアを睨んでいた。

 だが俺と顔を会わせたミアの顔に浮かんだのは不快感ではなかった。

 にやりと口の両端を引いた薄い笑み。ミアの顔に浮かんだのはそんないやらしい笑みだ。

 焦りを気取られたか。

 足下を見て出し惜しんでくるかもしれない。

 だが関係ない。

 このはらわたに渦巻く恨みが晴らせるのなら、なんだろうと構いはしない。

「あー、あーあー! 確かに、それらしいヤツの居場所は知ってるぜ?」

 にやにやとこちらを眺めながら言うミア。

「だがこっちもロハって訳にはいかねーなぁ。こっちが本業だしな、おわかり? ヒャハ!」

 またも言葉じりに笑いを添えてミアが身を乗り出す。

 その乗り出し迫る嘲笑に、エリスが俺の顔を見上げてくる。

 「本当にいいの?」と尋ねるその視線。それに俺は是非も無く頷く。

「分かった……けどこっちは旅人なんだから、これが限界一杯だよ」

 再びのため息。

 それに続いてエリスは指三本を立てた右手を出す。

「オーイオイオイ!? 何そのはした金、ナニそのはした金? 俺をなめてんの? ナメてくれちゃってるワケェ? ナメられるのはいきりたった股ぐら以外ノーサンキューなんですけどぉ!?」

 エリスの示した金額に対する予想通りの答え。その余りにも予想通りな答えを投げ放ちながら立ち上がるミア。

 だがミアは乗り出した狐面を笑みに歪めると、ソファーへ飛び込むように腰かける。

「ま、イイワ。それと、お前らが町の前でツブしたアーパーどもの報奨金全部で手を打ってヤルヨ。どーせ金持ってねーのはマジだろーしな」

「なっ!?」

 ミアのその言葉に、エリスは大きな目を溢れそうなくらいに見開く。

 すでに知られていた、ということか。

 さすがに情報屋というだけあって、ミアは交渉相手としては数段上手だ。

 俺たちの反応に口の端に浮かぶ笑みを深めるミア。そしてにやけ面のまま目だけを動かして俺を一瞥。

 その一瞬にミアの目をよぎった漆黒の輝き。

 馴染み深いそれに、俺は目の前の男に奇妙な共感の様なものを感じていた。

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