戦友
タクトはユウナと分かれた後、一度宿に戻って就寝した。
そして、次の日の朝になると街を出た。
次の街へ向かうために。
だが、運悪くいきなりどしゃぶりの雨が降り注いだ。
タクトはできるだけ急ぎながら次の街まで向かった。
街までの距離は5キロほどあった。
「どっかで雨宿りしないと体が持たないぞ」
と、丁度小屋を発見した。
人がいるかもしれない。
タクトは小屋まで向かい、ドアを叩いた。
「はいはい、どなたですかい」
ドアが開くと、おじいさんが出てきた。
髭と眉毛ま真っ白なのが特徴だった。
「すみません。急に大雨にうたれて。ご迷惑じゃなければ少しの間雨宿りさせてもらってもいいですか?」
「ふぉっふぉっふぉ、何もないところでよければ」
「いえ、助かります」
タクトは中に入る。
中には必要最低限のものしか置いてなかった。
おじいさんはタクトにタオルを渡してきた。
それでぬれた体を拭いていく。
その間にお茶まで用意してくれた。
ものすごく気が利くおじいさんだ。
「お一人で暮らしているんですか?」
「そうじゃよ」
おじいさんは椅子に腰を下ろしてタクトを見つめる。
ふと、おじいさんがつぶやいた。
「おぬしを見ていると友を思い出すわい」
「お友達ですか?」
「戦友じゃがな。懐かしいのう。どれ、少し老いぼれの話を聞いてはくれんかの」
「はい」
タクトは椅子に座る。
おじいさんは話を始めた。
「アレはワシが王国騎士団第3師団長だったころ。当時は64歳だったかのう」
「おじいさん王国騎士団の人だったんですか!?」
「昔のことじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」
王国騎士団は選びぬかれた精鋭のみにしかなれない。
それは今の三大ギルドクラスの人間しかなれないものだ。
昔だとしてもすごいことだ。
「その時に若いやつがおってのう。わずか18歳で入団した天才じゃった。最初はワシとその者は互いに反発しあい、時には剣を交えたものじゃ」
茶をすすって話を続ける。
「じゃが、剣を交えるごとに互いを理解していった。奴の目ははるか高みを写しておるように澄んでおった。丁度君みたいにのう」
おじいさんがにっこりと笑う。
そしてなぜかしょんぼりした。
「だが、聖戦で死んでしまったんじゃ。皆を守るために」
聖戦とは10年前ごろにあった戦争だ。
詳しい内容は記されていないが、絶望的な戦争だったらしい。
「奴は皆を助けるために一人で城門を守りに行ったのじゃ。見事に城門を守ることはでき、敵のボスに深手を追わせたのじゃが、奴は死んでしまった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「惜しい男をなくしてしもうた」
「そうだったんですか」
「おや?長話をしている間に雨があがったようじゃの」
外を見てみるとさきほどの大雨が嘘のようだった。
雲ひとつない晴天だ。
タクトは武器を装備しておじいさんにお礼を言った。
「ありがとうございます」
「ふぉっふぉっふぉ。礼には及ばんよ。少年、ひとついいかの?」
「なんですか?」
「名前を教えてくれんか?」
「タクトです」
「タクト?・・・・・父の名は?」
「父はユキトです。それでは」
タクトは走って街に向かう。
予定より遅くなったので急いだ。
おじいさんは目を見開いていた。
「ユキト・・・・。あ奴息子がおったんか。ふぉっふぉっふぉ」
おじいさんは小屋に戻った。
部屋の襖を開いた。
そこには一本の日本刀があった。
それを手にとってつぶやく。
「これが帰るべきところに帰る時がきたかのう」
おじいさんはそれをメールに乗せてどこかに送った。
それはどこに送ったのかはまだ語らないでおこう。