救世主
二人は村を出てしばらく歩いたところで右の草むらに入った。
そこには草を踏んだ後があった。
どうやらここを通った形跡がある。
しばらくまっすぐ進むと、メサイアが立ち止まった。
タクトは姿勢を低くする。
少し先に明かりが見えた。
盗賊の焚き火だ。
二人はゆっくりとだが、回りこんでいく。
しばらくして盗賊の会話が聞こえてきた。
「がははは!もっと喰いもんもってこいよ!」
「へい!」
「なくなっちまいますぜ親分」
「なーに、なくなったらまたうばえばいいのさ」
「そうでゲスね!」
4人組の盗賊だ。
親分と呼ばれるでかくて太ったやつは背中に大斧を携えていた。
斧は主に一撃を重要視されるもの。
つまり、一撃必殺の武器になりえる。
「まぁ、あの女もそろそろ飽きたし別の女を用意するか」
その言葉を聞いた瞬間、二人に嫌な予感がした。
「まぁ、アレだけ殴れば気を失いますって」
「でもまぁ、さすが親分でゲス。尊敬するでゲス」
「そうだろそうだろ。がははははは!」
その時だった。
我慢できなくなったメサイアが飛び出した。
そして、その勢いのまま一人の背中を斬った。
背後からのバックアタックに不意打ちにクリティカルヒットが重なって一撃HPを1にした。
その男は倒れて動かなくなった。
「俺の母さんを返せ!」
「なんだこの餓鬼」
「あのバカ!」
タクトも飛び出した。
「な、こんな近くに隠れてやがったのか!」
「おとなしくメサイアの母親を返せ。さもないと」
「さもないとどうする?がはははは」
親分の子分二人がタクトをメサイアとの間に入り、親分とメサイアの二人の空間を作った。
タクトは刀を抜いて間合いを測る。
2対1の場合の戦闘方法はあまりわからない。
だが、間合いにさえ入らなければ攻撃を喰らうことはない。
「あの女の息子か。がははははは。残念だったな。あの女なら当分は目を覚まさないぞ」
「どういうことだ!」
「ここ数日気を失っているからなぁ。もしかしたら死ぬかもな」
「てめぇ!」
メサイアが剣を抜いて攻撃を仕掛ける。
親分はそれを大斧で受け止める。
メサイアは持ち前の速さを生かして連続で攻撃を仕掛ける。
だが、攻撃が単調すぎる。
同じ場所、同じタイミングで攻撃し続けても簡単に止められる。
「そんなものか!うらぁ!」
親分が大斧を振るう。
メサイアは後ろに跳ぶと同時にガードした。
後ろに跳ぶことによって衝撃を和らげたのだ。
しかし、衝撃ダメージによってHPが多少削られる。
「くそっ!邪魔なんだよ!」
タクトは子分二人を相手に苦戦していた。
近づこうとすれば二人固まって阻止してくる。
なんともめんどくさい敵だ。
「おらおらおら!」
「ぐっ!」
親分の乱撃をギリギリでかわしていく。
しかし、それほどまでにメサイアの体に疲労が溜まっているのだろう。
そして、ついにメサイアが方膝をついた。
その隙を親分は逃さなかった。
大斧を大きく振りかぶった。
だが、それこそが隙だった。
「やぁ!」
「ぐぁあああ!」
大きく振りかぶった隙を突いて腹部を切りつけた。
親分のHPが四分の三まで減った。
「よし!ナイスだメサイア!」
思わずガッツポーズをした。
そんなタクトはいつの間にか子分二人組みをのしていた。
殺さずに気絶させて縄で縛る途中だ。
「この餓鬼!動くな!この女がどうなってもいいのか!」
親分は左手に一人の女性を握っていた。
それがメサイアの母親だということは言うまでもない。
メサイアの動きが止まる。
「この女を生きて帰してほしければ動くな」
従うしかなかった。
メサイアは剣を地面に投げた。
それをいいことに親分はメサイアを蹴り上げる。
それも何度も何度も蹴り、殴りを繰り返した。
メサイアの体力が赤色になった。
親分が大斧を振りかぶった。
そして、振り下ろした。
だが、そこにはメサイアは居なかった。
「馬鹿野郎!お前が死んだらお前の母ちゃんは悲しむだろう!」
「タクト・・・・お前・・・・」
「いいか、誰も死なさずに生きて返す。必ずだ」
タクトは刀を構える。
メサイアはニッと笑みを浮かべてナイフを取り出した。
と、ナイフをみて何か思いついたようだ。
タクトはメサイアに耳打ちをする。
そして、行動に移した。
「こっちだデブ!」
タクトが親分を挑発する。
親分はその挑発に乗り、タクトをターゲットに変えた。
タクトは親分の大斧の届くか届かないかの範囲にいた。
間合いを支配した。
後は作戦通りになればいいだけだ。
「やーい、デーブ!のろま~」
「このクソ餓鬼!調子にのるなー!」
親分が右腕を大きく振り上げた。
タクトはニィッと笑う。
その瞬間、左手に向かってナイフが突き刺さる。
親分はいきなりのことに左手の母親を離した。
その母親を下でキャッチして遠くに逃げる。
その際に脇腹を斬っておいた。
親分の体力が四分の一になった。
「救出成功!やっちまえメサイア!」
メサイアは剣を構えた。
親分との一騎打ち。
じりじりと間合いを取る。
回復アイテムを使う暇などない。
使おうとした瞬間、どちらかが斬られて終わりだ。
「この俺様がお前たち雑魚にやられるわけない!」
「雑魚舐めてんじゃねぇぞ。雑魚は雑魚なりの戦い方があるんだ」
メサイアは体勢を低くする。
限界まで体勢を低くすることで初撃の速度を上げようとしている。
剣を逆手に持って最終臨戦体勢に入った。
「うがぁああああああ!」
親分が振り上げようとした瞬間、メサイアが動き出した。
「行けメサイア。お前ならできる。お前は村の救世主だ」
剣が光る。
その光はスキル発動の光だ。
スキルを発動する時は武器が光り、発動可能となる。
「ラージアクルセイド!」
親分が完全に大斧を振り上げる前に高速の一撃が親分を捕らえた。
親分はその場に倒れた。
死んではいない。
メサイアがラストキルストッパーをかけていたのだ。
ラストキルストッパーとは通常0になる体力を1だけ残す機能だ。
残された敵はバインド状態となり、動けなくなる。
「勝負ありだな」
タクトはいつの間にか親分を縛っていた。
合計四人をたった二人で制圧した。
二人はこうして無事、村に戻り、数日後にやってきた警士団に引き渡した。
あとでたっぷりと尋問されるらしい。
タクトは警士団が来たということで、先に進めるようになったと認識した。
村のアイテムショップで回復薬やテントを買い、村を出ようとした。
「タクト!」
メサイアが呼び止めた。
タクトが振り返ると、そこには母親と一緒に居るメサイアがいた。
「ありがとな!」
「本当にありがとうございます」
二人は感謝の言葉を述べる。
その姿がものすごくうらやましかった。
そして、うれしかった。
誰かの大切な者を守ることができて。
「村をしっかり守れよ。なんたってお前は救世主なんだからな」
そう言ってタクトは歩いて行った。
「母さん、俺が救世主ってどういう意味だ?」
「メサイアの本当の意味よ」
二人は小さくなる背中を見送る。
小さくも大きな少年の背中を。
名前:メサイア
武器:片刃片手剣=サイドワインダー
防具:胸当て
備考:村と同じ名前の少年。村の救世主。