事件
タクトは馬車の中に仰向けになっていた。
途中で丁度メサイアを通るという牧場主に会い、乗せてもらったのだ。
メサイアにたどり着くまでの間にタクトは調べものをしていた。
調べものの内容は『死神』と『アイザック』についてだ。
あたりまえだったが、まったく情報が載ってなかった。
タクトはため息をついて画面を切った。
「あんれまぁ~」
馬車が止まった。
何かあったかと起き上がって見ると、土砂崩れで道がふさがれていた。
「どうやらここまでしか行けんようじゃのう」
「ありがとうございます。ここからは歩いていきますので」
「気ぃ~つけるのじゃぞ~」
タクトは馬車を降りて土砂の上を歩いていく。
しばらく土砂の上を歩いていくと、村が見えてきた。
看板にメサイアと書かれていた。
村の中に入るとタクトはすぐにおかしいと感じた。
なぜなら外に村人が誰一人いないからだ。
今はまだ昼過ぎだ。
寝るには早すぎる。
しばらくあたりを観察していた。
家の中には人が居るのはわかった。
室内のカーテンがゆらゆらと動いているのはカーテンの近くに人が居て、歩いたりする時に起きる風の流れでゆらゆらとゆれているのだろう。
仕方がないのでまずは宿に向かうことにした。
タクトは宿のドアを開ける。
誰も居なかった。
「すみませーん。誰か居ませんかー?」
呼んでみたが誰も返事は来ない。
タクトはこの村で一体何が起きたのかわからなかった。
と、その時だった。
近くのクローゼットから何かが飛び出してきた。
急なことに反応が遅れて体当たりを喰らう。
ただの体当たりじゃなかった。
HPが減った。
ということは武器によるダメージだ。
タクトは転がりながら距離をとった。
体当たりしてきた者はボロボロの布を纏って顔がよく見えなかった。
「お前、何者だ」
タクトが問う。
だが、その者は答えなかった。
それどころか持っていたナイフを投げてきた。
とっさに刀ではじく。
男は一気に詰め寄って腰から剣を抜いた。
幅広の片刃の片手剣。
サイドワインダーだ。
タクトは刀を抜いて防ぐ。
「やめろ!」
「・・・・・」
何も言葉を発さない。
その者は素早い動きでタクトに連続で攻撃を仕掛ける。
それを刀で受け止めるのではなく、流していく。
相手の隙を伺う。
ふとした拍子にバランスを崩した。
その隙は逃さない。
受け流した後、回転斬りを繰り出す。
見事に命中しHPを削った。
「ぐっ!」
壁に衝突した。
タクトは刀を突きつける。
「お前は何者だ。なぜ俺の命を狙う」
「・・・・・・・・」
「答えろ。さもなくばここで斬る」
「お待ちくだされ」
背後から老婆の声が聞こえた。
目線だけそちらに向けるとたくさんの村人がいた。
真ん中には杖をついた老婆が立っていた。
タクトは刀を鞘に戻した。
そして、老婆のもとへ歩いた。
「俺はタクト。一つ前の町からやってきました」
「もうしわけないのぉ。ちょっと皆警戒しとったんじゃ」
「警戒?何に?」
「盗賊じゃ」
「盗賊?」
盗賊。
物を盗む外道な輩。
弱いものから金品を奪う人たち。
「本当なら警士団の方が来てくれるはずなんじゃが、最近土砂崩れで通れなくなっとるんじゃ」
タクトが通った道の反対側も同じように土砂崩れが起きていることを知った。
「その子も本来はやさしい子じゃったんじゃが」
老婆が目線をずらす。
それを追うとさっきのぼろい布をかぶった奴がいた。
そいつはゆっくりと立ち上がるとドアを開けてどこかへ行ってしまった。
「やれやれ、どうしてこうなったんじゃろうか」
「何かあったのか?」
「あの子の母親は盗賊にさらわれたのじゃ。父親は早くに亡くなってのう」
タクトは頭を掻いた。
あまり、時間をかけてはられないが、ほっとくわけにもいかない。
とりあえず宿のチェックインを済ませたタクトは夜になるまで休んだ。
そして、その日の夜。
タクトは宿を出た。
その時、何かが奥のほうを横切って行った。
それを追う。
すると、今日のボロ布の者を発見した。
「何しているんだ?」
「なんだ、旅人か」
「俺はタクトって言うんだ。お前は?」
「メサイア。11歳だ」
初めてボロ布を取った。
髪の毛は短くスポーツ少年のような感じだ。
「メサイアってこの村と同じ」
「そう、母さんがこの村を守れるような男になれってことでつけてくれた」
「そうか。お前、今から盗賊のところに行こうとしてただろ?」
「だったらどうだって言うんだ」
「俺もついていく。邪魔はしないさ」
「好きにしろ」
二人は歩き出した。
盗賊を倒すために。
メサイアの母親を助けるために。