第三話 真相
「えっ……ヒース様?」
クラリスは不思議そうに首を傾げた。その仕草も可愛いし、美しい。
「あ……えっと……」
6年ぶりに見るクラリスの容姿に、俺はたじろぐ。彼女の瞳に俺が映るのは大変嬉しいことだ。だが、6年ぶりの再会で、恥ずかしいという気持ちもある。クラリスは美しくなったが、俺は平凡で特に変わりがないのだ。あまり、見られたくない。
「今、婚約破棄をしないと聞こえたのですが?」
「そ、そうだ! クラリスに恋人ができても、絶対に婚約破棄をしない! クラリスを一番に……あ、愛しているのは俺だ!!」
クラリスの言葉で俺は慌てて本心を告げる。
オリバーにより、俺は心の整理をする前に押し出された。本来ならば、こういうことは慎重に話し合うべきだ。だが、俺にその様な余裕はない。
クラリスが俺以外の男と笑っているだけで嫉妬してしまう。器の小さい男なのだ。クラリスが護衛騎士を愛していても、俺は絶対に引けない。こちらは5歳の時に一目惚れをして、クラリス一筋である。クラリスと護衛騎士が結婚するならば、俺には気持ちを整理する時間が必要だ。残りの人生を掛けても、気持の整理ができるとは思えない程にクラリスのことが好きである。
加えてクラリスが他の男と結婚するなんて考えたくないが、心から祝えないのも事実である。彼女が選択した結果ならば受け入れるつもりだが、俺は狭量な男なのだ。6年間放置していた俺に責める権利などないが、婚約者として主張はするべきである。
「……っ! ヒース様……」
「……? ク、クラリス?」
俺の言葉を聞くと、クラリスは顔を真っ赤に染めると微笑んだ。その反応に俺は戸惑う。普通はここで、『何年間も放置していたくせに!婚約破棄よ!』とか『何より今更!!』と罵声を浴びせられる筈だ。少なくともオリバーから渡された本には、そういう展開が書いてあった。クラリスの反応が分からない。
「嗚呼。盛大に勘違いされているようなので……彼女は私の婚約者です」
「……へ……? こ、婚約者?」
オリバーが俺に並ぶと、護衛騎士に手を向けた。その内容に思わず俺は間抜けな声を上げる。
「お初にお目にかかります、オリバーの婚約者である。イリア・ジャノンと申します」
「……っ……え、ヒース・カロン……です……」
凛としてした声で護衛騎士が、丁寧なお辞儀と挨拶を口にした。確かに、オリバーに婚約者がいるのは知っていたが、まさかクラリスの護衛騎士をしているとは夢にも思わなかった。更に言えば、オリバーの婚約者であるからイリアは女性である。男性に見えるが実は女性の護衛騎士というのが、完全に俺の想定外だった。王都にも女性騎士を見かけたことはあったが、イリアのパターンは初めてである。いや、もしかすると俺が知らないだけで多く存在するのかもしれない。
俺はぎこちなく挨拶を口にする。
「矢張り、クラリス様の予想が当たりましたね」
「ええ! ヒース様を一番知っているのは私ですもの!」
「……え、えっと? どういうこと?」
イリアとクラリスが楽しそうに会話をする。俺にはこの状況が一切分からない。仮にも俺はクラリスに恋人が出来たと、クラリスの誠実さを疑ったのだ。文句を言われる筈なのだが、何故楽しそうになのか分からない。俺は疑問を尋ねた。
「私の容姿がこれなので、ヒース様が目にしたら勘違いをなさって嫉妬してくれのでは?とクラリス様がお考えになられました」
「……え?」
俺の疑問にイリアが迅速に答えた。仕事が出来る人のようだ。オリバーと違い嫌味が無いのも嬉しい。
「だって! ヒース様は大変恥ずかしがり屋ですもの! お手紙の中でも『好き』とか『愛している』とか書いてくださらないから……イリアに協力してもらったのです!」
少し頬を膨らませると、クラリスは俺への不満を口にした。如何やら、俺が恥ずかしがっていたのが原因のようだ。だから護衛騎士であるイリアに、そう見える様に振る舞ってもらったということのようである。
「な、なるほど……。ということは……クラリスに好きな人は……」
「それは、勿論! ヒース様だけです!」
納得しながらも、念のためにクラリスに確認をする。すると、裏庭に彼女の大きな声が響いた。
「はぁぁ……」
クラリスの言葉を聞くと、俺はその場に座り込んだ。




