第二話 裏庭
「……はぁぁ……」
両親の歓迎を受けた後に、俺は溜息を吐く。一応、無事に実家に到着した。一応というのは、肉体的にはという意味である。精神面はボロボロだ。
あの後も、クラリスが俺と再会した反応を考えたが絶望的な反応しか想像出来なかった。全てはオリバーに渡された本の所為である。『婚約破棄』という言葉が頭から離れないのだ。
「クラリス様は裏庭にいらっしゃるそうです」
「お……おぅ……」
項垂れる俺に、クラリスがどこに居るのかオリバーが告げた。その情報は嬉しいが、俺の心境は複雑である。ぎこちない動きで、裏庭へと足を運ぶ。
クラリスには会いたいが、クラリスが俺を目にした際の反応が怖いのだ。婚約者としてなんとも情けない話である。
「ヒース様? どうなさいました?」
「い……いや、大丈夫だ……」
館の角を曲がれば、裏庭だというタイミングで俺は足を止めた。するとオリバーが振り返ると、不思議そうに首を傾げた。俺は不安な気持ちを抱えつつも、虚勢を張る。色々と考えていても、仕方がない。6年間会えなかったから俺が弱気になり、変な予想をしている可能性もある。早くクラリスと顔を合わせて話をするべきだろう。
俺は意を決すると、角を曲がった。
「……クラリス……」
裏庭に広がる花畑の中央には、二人の人物が立っていた。一人は美しい女性と、もう一人は騎士である。6年前よりも一段と美しくなったクラリスが目に映る。6年間は少女であり可愛かったが、今は可愛さよりも美しさが勝っているのだ。大切な婚約者を目にした俺は思わず、彼女の名前を呼ぶ。
「ふふっ……!」
弾む様な声が響く、それは俺が聞きたく仕方がなかったクラリスの声だ。だがその声と笑顔が向けられたのは、俺ではない。隣の騎士だった。
「うぅっ……!!」
俺はその場で蹲る。如何やら、俺の心配は的中したようだ。6年間会いに戻らなかった冷たい婚約者よりも、傍で守ってくれた騎士の事が好きになってしまったようだ。それは仕方がないことである。クラリスの、あの温かな笑顔は本当に好きな相手にしか見せない笑顔だからだ。6年前までは、俺に向けられていた笑顔であるから間違いない。
「ヒース様? どうしました? お金でも落ちていましたか?」
「……っ、オリバー。……俺のことをなんだと……」
オリバーが心底不思議そうな顔で、俺を見下ろす。本当に優秀な従者なのか疑問が湧く。オリバーは俺のことをちゃんと主だと思っているのだろうか?だが、今はそれどころではない。クラリスに好きな人ができたことだ。恐らく、クラリスと騎士の雰囲気からして、恋人なのだろう。そうでなければ、あんな至近距離で楽しそうにしている訳がない。
「なんで……護衛騎士あんな美形なんだよ……」
「え? ヒース様が『砲弾からも可愛いクラリスを守れる騎士』というご要望にお応えした結果ですが?」
俺は不満に口にする。クラリスの隣にいる護衛騎士は大変美形だ。6年間会いに戻らない平凡な容姿の俺と、付き従う美男子ならば気持ちが傾いても仕方がないことである。
クラリスと護衛騎士は美男美女で大変絵になる。お似合いだ。
「戦犯は……俺か……」
如何やら、美形の護衛騎士に決まった原因は俺にあるようだ。自傷気味に笑う。確かに、オリバーの言うような要望を出した覚えがある。可愛いクラリスに悪い虫がつかないようにしたかったのだ。
「そんなことよりも、ほら行きますよ」
「えっ!? ちょっ……」
オリバーは項垂れる俺の腕を掴むと引き上げる。そして、クラリスたちが居る方向へと押し出した。
「ヒース様!?」
クラリスは突然現れた俺に驚きの声を上げた。
「……っ! こ、婚約破棄は絶対にしないからな!!」
オリバーに押し出された俺は思いの丈を叫んだ。




