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故郷に戻ったら婚約者に恋人が出来たらしいが、俺は婚約破棄したくない  作者: 星雷はやと@『論破してみたら~』第一巻発売中!


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第一話 不安な帰路

 


「はぁ……早く着かないかな? 待ち遠しいなぁ……」


 俺は馬車に揺られながら、外の景色を眺める。左右には青々とした麦畑が広がり、遠くには山々が見える。俺の実家であるカロン伯爵家は田舎だ。それも国境に近い辺鄙で、大自然が唯一の特長である。国境沿いを険しい山々に囲まれているため、他国から侵攻される心配はない。


「ヒース様。45秒前にも同じ発言をなさっていますよ」


 向かい側に座った従者であるオリバーが、読んでいる本から顔を上げずに指摘をした。先程から俺が同じ発言を繰り返している自覚はある。面倒なのだろうがオリバーは、俺の発言を無視しない。そいうところは真面目だ。俺の発言を記憶し、時間にも数秒単位で細かいところも優秀な従者である。長年にわたり俺を支えてくれているのだ。王都の学院に入学する際にも付き添ってくれた。今はその王都からの帰りである。


「仕方がないだろう、オリバー。クラリスに会えるのは6年ぶりなんだぞ?」


 故郷へ帰るのを焦る理由を俺は口にした。そう俺は家督を継ぐため、王都の学院で6年間を学んだ。そしてその間、故郷の婚約者のクラリスとは会えていない。その理由は学院での勉学に集中すること、王都と実家の距離が離れていることである。学院の休暇中も戻ることはなく、ひたすら勉強していた。

 大切な婚約者であるクラリスと会えない代わりに、文通だけは行っていた。毎週手紙を書き、日持ちするお菓子やクラリスに似合いそうなプレゼントを送っていたのだ。

 それが唯一の俺の楽しみであった。


 クラリスはとても可愛い。俺が居ない間、可愛いクラリスに危険が及ばないように騎士を手配してもらっている。


「そうですね。ですが……気持ちが焦ったからと言って、馬車が早く到着するわけではありませんよ?」


 オリバーは本から視線を外さずに頷く。そして正論を口にした。


「ぐぅ……正論ばかり……」

「何かをしていれば気が紛れる筈ですよ。読書でも、お読みなられたどうですか? 最近の流行りの本ですよ?」


 俺はオリバーの言葉に、口を詰まらせた。オリバーは一冊の本を俺に差し出した。


「……こっ、こ……婚約破棄……。クラリスが……お、おれっ……俺に愛想を尽かしていたらどうしょう……」


 読書をする気分にはならないが、差し出された本を受け取る。勧められた手前、試しに本のページを捲った。すると『婚約破棄』という文字があった。俺にはその言葉が心に刺さる。クラリスに一刻も早く会いたい気持ちと、相反する気持ちが湧き上がる。

 俺は6年間も故郷に戻らなかった婚約者だ。王都の学院で学ぶことは、クラリスも承知の上である。俺が学院で学ぶことを応援してくれて、俺の手紙にも返事をくれている。心優しく良い婚約者だ。俺との仲は良好だとは思いたい。だが俺には不安がある。

 それはクラリスが、俺に愛想を尽かしている可能性だ。魅力的な彼女に俺という婚約者は不釣り合いかもしれない。この6年間一度も故郷に戻らなかった理由は、彼女も知っていることだが不安である。故郷を近付くにつれて不安が増していく。

 オリバーが勧めた本の所為で、俺の不安な気持ちが刺激された。折角、王都を出発する前に覚悟を決めたというのに、蓋を閉じた筈の気持ちが湧き上がる。早く着いてほしい気持ちと、着いてほしくない気持ちが拮抗する。


「大丈夫ですよ」

「そういうのは、ちゃんと人の目を見てから言ってくれよ……」


 不安を口にすると、オリバーは俺を励ます言葉を告げた。だが仮にも人を励ますならば、本から視線を外してほしい。

 更にいえば、仮にも主が不安にする要素を与えないでもらいものだ。オリバーは優秀な従者なのだが、時々俺への配慮が足らない時がある。

 そんなオリバーにも婚約者が存在するらしいが、俺は会ったことがない。女性に対しても塩対応で婚約破棄をされた可能性もある。


 俺は不安を抱えながら、実家へと馬車に揺られた。




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