逢える日まで、笑っていて…妻からの手紙…
僕がそちらに行った時にまた君と会えるかな?
はい…あちらでは貴方が望む私の姿で、貴方が望む場所に私は現れますから。
この別れは永遠ではありませんよ!
だから貴方は悲しみの中で過ごさず、この先もその朗らかな笑顔を絶やさず過ごして下さいね。
ねえ、旦那様。
あなたが泣く顔を、私は最後まで見たくなかったの。
病室の天井は白くて、
窓の向こうの空は、どうしてあんなに青いんだろう。
あなたの手はあたたかくて、
それだけで私は、もう充分に幸せだった。
「まだ、早いよ」
そう言ってくれた声が、私の胸を締めつける。
早いね。わかってる。
ふたりで見るはずだった季節が、まだ、こんなに残ってる。
でもね。
だからこそ、お願いがあるの。
私のいない朝に、あなたが負けないように。
私のいない夜に、あなたが壊れないように。
——笑って。
無理にじゃなくていい。
上手じゃなくていい。
ただ、あなたがあなたでいられる形で。
私が好きだった、あの朗らかな笑顔を、
自分から奪わないで。
あなたは優しいから、きっと自分を責める。
もっと何かできたんじゃないかって、
あの日ああしていればって、
答えのない場所で、何度も足を止める。
けれど、旦那様。
私はあなたに、何一つ悔いなんて残していないよ。
だって、私を見つけてくれた。
選んでくれた。
手を離さずにいてくれた。
それは奇跡みたいに充分で、
それ以上を望んだら、私は欲張りになってしまう。
私はね、あなたのこれからを、奪いたくない。
私のために笑えなくなるあなたを、
私のせいで色を失う世界を、
私は見たくない。
……だから、約束をするね。
私が“あちら”に先に着いても、迷わないように。
あなたが来た時、すぐ見つけられるように。
あちらではね、
あなたが望む私の姿で、
あなたが望む場所に、私は現れる。
初めて出会った日の私でもいい。
泣きながら笑っていた、あの夜の私でもいい。
あなたが「きれいだ」と言ってくれた、
照れくさいあの瞬間の私でもいい。
あなたがいちばん救われた私で、
あなたがいちばん安らげる場所で、
私はあなたを迎えるから。
そして、その時——
あなたに叱られるの。
「なんで、先に行ったんだ」って。
「ずるい」って。
「会いたかった」って。
その全部を、私は受け止める。
抱きしめて、受け止める。
だからそれまで、旦那様。
どうか、自分を置き去りにしないで。
私を想って泣く日があっていい。
胸が痛くて、食べられない日があっていい。
何もできない日があっていい。
でも、泣き終えたら。
あなたの暮らしを、あなたの手で戻して。
コーヒーを淹れて。
シャツにアイロンをかけて。
窓を開けて。
空を見て。
私が大好きだった日常の続きを、
あなたの足で、もう一度歩いて。
その足音が、私には祈りに聴こえるから。
最後にもう一つ。
どうしても言いたいことがあるの。
——私は、幸せでした。
短いって、思わないで。
若いって、悔しがらないで。
ふたりが重ねた時間の密度は、
誰にも負けない。
あなたに愛された記憶は、
私の永遠です。
だから、旦那様。
悲しみに沈まないで。
私のせいで、あなたの人生を小さくしないで。
笑って。
歩いて。
生きて。
私がいちばん愛したあなたのままで。
そして、いつか。
あなたがこちらに来た時、
私は必ず、あなたの前に現れる。
あなたが望む、私の姿で。
あなたが望む、場所で。
「おかえり」って言って、
もう一度、はじめての恋みたいに笑うから。
——この別れは、永遠ではありませんよ。




