月とオリオン座
昔々、小さな森の中に、二人の男の子がいました。一人は人間の子。もう一人は魔族の子でした。二人はとても仲良しで、毎日一緒に遊んでいました。秘密基地を作ったり、川で水遊びしたり、絵本を読んだりしていました。
ある日の寒い夜、二人は秘密基地で絵本を読んでいました。すると魔族の子がポツリと言いました。
「僕はいつか、君に倒されるのかな?」
人間の子は、首を傾けて魔族の子の方を見ました。
「どうしてそう思うの?」
魔族の子はじっと絵本を見たまま答えました。
「そういう物語だからだよ。僕は大人になったら魔王になる。君は大人になったら勇者になる。今仲が良くても、そんなこと忘れて、君は僕を倒すんだ」
「どうしてそんなことが分かるの?」
魔族の子は絵本の一ページを指差しました。そこには魔王を倒す勇者の姿が描かれていました。
「僕たちがいるこの世界は、絵本の世界なんだよ。二人の『最初』なんてどうでもいい。『最後』は必ず、魔王は勇者に倒される」
人間の子は、よく分からないというようにまた首を傾けました。けれど、魔族の子の言っていることが本当なら、それはとても悲しいことだということだけは分かりました。
「最初から決められている人生なんてあるものか!」
鼻の奥が痛いほどの冷たさ。頬は寒さで真っ赤。人間の子は白い息を吐きながら必死に叫びました。
「でもそれが真実だ。僕は君との時間を忘れないけれど、君は僕との時間を忘れる。勇者は魔王を倒さないといけないから」
「じゃあ教えてくれ!大人になって、僕が君を忘れたら、君が僕に、君を教えてくれ!」
魔族の子はびっくりして、目を大きく見開きました。けれどすぐにニコリと笑って頷きました。
「分かったよ。たとえ倒された後だとしても、君に僕を教えるよ」
二人だけの約束をした。空には月とオリオン座が輝いていた。
「何だろう、これ」
魔王を倒した勇者の元に、一通の手紙が届いた。




