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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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第45話 別れの予感 ― ロベルトとリース

別れの予感 ― ロベルトとリース


 ◇


 ある日の午後、騎士団の門前がざわめいた。

 銀の髪を風に揺らす少女が、馬から降り立ったのだ。その顔は、リースと瓜二つだった。


 団員たちは息をのむ。二人を見比べて、誰もが言葉を失っていた。


「……アリータ」

 リースは声を震わせた。


 影武者としてギリータ王国に残っていた彼女が、父――グラスゴー公爵の遺言を口伝で伝えるために現れた。


 ――その瞬間、リースは悟った。

 もう逃げられない。

 本当の自分を明かし、王城へ向かうときが来たのだ。



 その夜。

 リースは中庭に出て、ひとり石のベンチに腰を下ろした。

 月明かりが銀の髪を淡く照らす。


(私は……彼に、言わなきゃ)


 ロベルト。

 不器用で真面目で、だけどいつも優しかった彼。

 騎士団で過ごした日々、どれほど彼に支えられてきたことか。


 けれど、もうここで終わりだ。

 王城に行けば、やがてギリータに戻ることになる。

 騎士団の見習い騎士の青年と、公爵令嬢。

 結ばれる未来など、ありえない。


 それでも――。


「リース?」


 背後から声がして、振り返るとロベルトが立っていた。

 月の光を浴びた彼の横顔は、少し不安げに見えた。


「こんな時間に……」

「ロベルトこそ」

「団長に呼ばれてな。明日からの護衛について……。お前も、王城に行くんだろ?」


 リースは小さく頷いた。

「うん」

「そうか……」


 沈黙。

 夜風が二人の間を通り抜けていった。



「ロベルト……私、隠してたことがあるの」

 リースは勇気をふり絞った。

「私は……本当はグラスゴー公爵の娘なの」


「……え?」


「ずっと黙っていたの。学院を追放されて、行く場所がなくて……騎士団の下働きの仕事に入るしかなかった。だから年齢も偽って……ただのリースとして生きてきたの」


 言葉は途切れがちだった。けれどロベルトは、驚きながらも真剣に耳を傾けてくれていた。


「本当は、もっと早く伝えたかった。でも……怖かったの。身分を知ったら、きっとあなたは――」


「――俺が離れるとでも思ったのか?」


 リースははっと顔を上げた。

 ロベルトの瞳には、強い光が宿っていた。


「俺にとっては、公爵令嬢とかどうでもいい。お前は……ずっとリースだ」

「ロベルト……」

「一緒に過ごした日々は、全部俺の宝物なんだ」


 胸が熱くなる。

 リースは思わず涙をこぼしそうになった。



「ありがとう……でもね、やっぱり私たちは――」

「未来のことは、今決めなくていい」

 ロベルトはまっすぐに言った。

「大事なのは、今お前がどう思ってるかだ」


 その言葉に、心の堰が切れた。

「……好き。ロベルトが好き」


 月明かりの下、リースは震える声で告げた。

「一緒にはいられないって分かってても、どうしても伝えたかった」


 ロベルトの目が驚きに見開かれ、次の瞬間、柔らかく笑った。

「……俺もだ。リース」



 気づけば二人の距離は、自然と近づいていた。

 リースは胸の鼓動がうるさいほどに高鳴るのを感じる。

 逃げたいのに、もう逃げられない。


 そっと瞳を閉じると――ロベルトの温かな唇が触れた。


 それは短くて、けれど永遠にも感じられる口づけだった。

 互いの想いを確かめ合い、明日の別れを思って胸が痛んでも、今だけは一つになれた。



 夜空に星が瞬いている。

 二人は唇を離すと、言葉もなく肩を寄せ合った。


 やがて夜は明ける。

 リースは王城へ向かい、ロベルトと離れる。

 それでも、この一瞬があれば、きっと歩いていける――そう信じながら。

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