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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話2 アリータ編 エイダ―王国を目指して危険な冬の峠越え

危険な冬の峠越え



 夜明けの空は灰色に沈み、吹きつける風が容赦なく頬を刺した。

 私はマントの裾を握りしめ、凍える指先を必死にこすった。

 背後には調査員たちが黙々とついてきている。

 峠道の入り口に立ったとき、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


「……ここからが本当の試練ね」


 思わず声に出してしまう。

 リバプールが振り返り、短くうなずいた。

「足を止めるな。止まれば身体が冷えて、二度と動けなくなる」


 その言葉に、私は唾を飲み込み、雪深い峠道へと足を踏み入れた。



 道は細く、片側は切り立った崖、もう片方は雪に覆われた森だった。

 風が吹くたびに枝がしなる音がして、雪が頭上からばさりと落ちてくる。

 歩くだけで体力を削られ、靴の中はすぐにびしょ濡れになった。


「アリータさん、大丈夫ですか?」

 カレンが気遣うように声をかけてくれる。

「ええ……大丈夫。少なくとも、今はまだ」

 強がって答えたけれど、呼吸は荒く、足は重い。

 けれど止まれば命を落とすと分かっていたから、一歩一歩を必死に進めた。


 やがて雪雲が厚みを増し、空が暗くなっていく。

 嫌な予感が胸をよぎった。

「……雪が、強くなってきてる」


 リバプールが険しい表情で空をにらんだ。

「吹雪になる。急げ」


 彼の声に背中を押され、私たちは必死に進んだ。

 しかし、足跡はすぐに雪で埋まり、道さえも分からなくなりそうだった。

 体力の限界が近づき、頭がぼんやりしてきたとき――


 突然、空気が震えた。

 山肌から「ドォォン」という低い轟音が響き、地面が揺れた。


「雪崩だ!」

 エリオットが叫んだ。


 目を見開いた瞬間、白い壁のような雪が音を立てて迫ってくるのが見えた。

 私は息を呑み、必死に足を動かした。

 リバプールが腕を掴み、雪庇の陰に引き寄せてくれる。

 その直後、轟音とともに雪が道を飲み込み、目の前が真っ白になった。


 息ができない。

 体が雪に埋まりそうになる。

 必死に腕を振り、リバプールの手を離さないようにしがみついた。


 どれほどの時間が過ぎたのか分からない。

 気づけば、雪崩は峠の下へと流れ去っていた。

 全身は雪まみれで震えが止まらない。


「……助かった……」

 私の声はかすれていた。

 リバプールは息を整えながら、険しい顔で言った。

「ここからが本当の地獄だ。雪崩で道は完全に消えた。もう後戻りはできん」



 雪の壁をかき分けながら、私たちは進み続けた。

 何度も転び、膝を打ち、手袋の中の指が感覚を失っていく。

 けれど、誰も弱音を吐かなかった。

 言葉を発すれば、その瞬間に気力が途切れてしまいそうだったから。


 ようやく、峠の向こうに小さな山小屋が見えたとき、私は涙が出そうになった。

「……あれは……避難小屋?」


 ランスが頷く。

「運がいいな。峠を越える旅人のための小屋だ。今夜はそこで休む」


 私たちは雪を払いのけながら扉を開けた。

 中は薄暗いが、わずかな薪と毛布が残されていた。

 火を起こすと、凍えた身体にじんわりと熱が戻ってくる。


「これで少しは生き延びられるな」

 カレンがほっと息をついた。


 私は火の揺らめきを見つめながら、胸の奥で小さく呟いた。

「……リースお嬢様、待っていてください。必ず……必ず国王陛下に真実を伝えて、あなたを救ってみせます」


 その言葉に誰も返事をしなかった。

 けれど、皆の瞳に同じ決意が宿っているのを感じた。



 翌朝。吹雪は止み、澄んだ青空が広がっていた。

 山の向こうには、海のきらめきが遠くに見える。

 港はもうすぐだ――そう思った瞬間、胸の奥に熱いものが込み上げた。


「あと少し……」

 私は唇をかみしめ、足を踏み出した。


 影武者としてではなく、一人の少女アリータとして。

 公爵様の遺言を胸に抱き、リースお嬢様の未来を守るために。

 雪の峠を越えて、私は必ず港へたどり着くのだ。

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