閑話10 クローリー編 冬の修道院生活 ― 雪と飢えとの戦い
冬の修道院生活 ― 雪と飢えとの戦い
修道院に冬が訪れた。
ここは王都から遠く離れた山あいにあり、冷たい北風が容赦なく吹きつけてくる。高い石壁に囲まれた修道院も、雪の前では頼りなく、隙間風が廊下を駆け抜けて肌を刺した。
クローリー=ジリンガムは厚手の外套も持っていなかった。伯爵家から追放される際に、まともな持ち物は許されなかったのだ。与えられたのは修道女たちと同じ、質素な灰色の修道服だけ。麻の布はごわごわしていて、風を通す。王都にいた頃は毛皮のマントを羽織り、火の前で温められていたのに、今はわずかな藁を詰めた寝台に身を縮めて夜を越すしかなかった。
「さむい……」
吐く息が白い。朝起きても水は凍りつき、桶の氷を砕いて顔を洗わなければならない。最初の頃は「どうしてわたしがこんな目に……」と泣いていたが、修道院では泣いたからといって誰も慰めてはくれない。年長の修道女からは「泣く暇があるなら薪を割れ」と叱られるだけだった。
そして何より苦しかったのは、飢えだった。
王都では食卓に常に肉や菓子が並び、好きなだけ食べていた。けれど修道院では、一日の食事は黒パンと野菜のスープが少し。冬になれば畑は雪に覆われ、貯蔵していた根菜も底をついてくる。パンはどんどん薄くなり、スープの具はほとんど溶けた大根のかけらだけになる日もあった。
「これじゃ……おなかがすいて死んでしまうわ……」
夜、腹を抱えながらベッドに横たわる。寝返りを打つたびに骨が当たり痛む。かつてはふくよかだった身体が、数か月でやせ細っていくのを自分でも感じた。
雪の日の作業はさらに厳しかった。修道女たちは村の人々に食糧を分け与えるため、雪をかきわけて荷車を押し、薪を配りに出かける。その列にクローリーも加わらなければならない。足もとから冷気が染みこみ、指先の感覚がなくなる。立ち止まれば年長の修道女が厳しい目を向けてくる。
「ほら、伯爵令嬢さま。そんなに足が遅くては役に立ちませんよ」
「……っ」
笑われるたびに、心臓が痛んだ。
王都にいた頃は自分こそが上に立つ者だと信じていた。けれど今は、誰よりも役立たずで、足手まといと見られている。
ある日、雪嵐の日に外へ薪を取りに行かされた。
風は耳を切るように冷たく、雪は目の前を覆い隠す。薪小屋までの道はすぐそこなのに、歩くだけで息が苦しくなり、足がもつれた。
「いや……もう歩けない……」
その場に膝をつき、雪に倒れこんだ。冷たさが体に染みて、眠りに落ちそうになる。――このまま死んでしまうのか、と頭の隅で思った。
だが背後から手が伸び、腕をつかまれた。
「立ちなさい、クローリー。死にたいのですか」
厳しい声で引き起こしたのは、修道院長の老女だった。白髪で背は曲がっていたが、その手は驚くほど力強い。
「……わたしは……もう……」
「生きなさい。飢えも寒さも、あなたに与えられた罰です。それでも生きるのです」
その言葉が胸に突き刺さった。
生きることすら、今はこんなに苦しい。けれど、それを耐えなければならない。
夜、震える手で薄いパンを口に運びながら、クローリーは涙を流した。
「どうして……どうしてこんなことに……」
思い浮かぶのは、かつて憎んでいたリースの顔。彼女はきっと今ごろ、王都で暖かい部屋にいて、豊かな食事をしているだろう。あのときの嫉妬心が、自分をここまで落とした。
飢えと寒さの中で、ようやく気づく。
最後まで勝てなかった。リースに勝とうとした結果、自分は何もかも失い、凍える修道院で死にそうになっているのだ。
冬はまだ続く。雪は溶けず、食糧はさらに減っていく。
クローリーの苦難の日々は、終わりを見せることなく続いていった。




