表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/84

閑話9 クローリー編 修道院での初めての公開奉仕の日

修道院での初めての公開奉仕の日


 季節は秋に差し掛かっていた。

 修道院の鐘が、重く響き渡る。


「今日は年に一度の奉仕の日です」


 修道院長の言葉に、修道女たちが一斉に頭を垂れた。

 奉仕の日――それは修道院が村人に食事や薬草を分け与え、同時に修道女たちが雑務を手伝う行事だ。

 村の人々はそれを「聖なる施し」と呼ぶが、クローリーにとっては恐怖でしかなかった。


(まさか……村人たちの前に、わたしが出るというの……?)


 かつて伯爵家の娘として、高級馬車に乗り、貴族の視線を浴びていた自分。

 その自分が、村人たちの前で、修道服をまとい、下働きのように奉仕するなど――。


「ジリンガム嬢」

「は、はい……!」


 院長の視線が突き刺さる。

「あなたには特別に、人々へ食事を配る役を任せます。伯爵家で贅を尽くしてきたあなたが、粗末な麦粥を配る。これこそ神の試練です」


 周囲から小さな笑いが漏れた。

 クローリーは耳まで赤く染め、唇を噛んだ。


 広場には、すでに多くの村人たちが集まっていた。

 籠に入った野菜や、鍋で煮込まれた麦粥の匂いが漂う。

 クローリーは木の桶を抱え、列を作る村人たちに、ひとりずつ粥をよそっていく。


「ありがとう、修道女さま」


 小さな子どもが笑顔で受け取った。

 その無邪気な笑みに、一瞬だけ心が和らぎそうになる――が、すぐに現実が突きつけられた。


「あれ……お前、見たことあるぞ。ジリンガム伯爵家のお嬢さんじゃないか?」


 中年の男が声を上げた。

 その瞬間、周囲の視線が一斉に彼女に注がれる。


「本当だ、あのピンクの髪……間違いない」

「へえ、あれが噂の……リース嬢を陥れようとした伯爵令嬢か」

「こんなところで粥を配るなんて、落ちぶれたもんだな」


 ざわめきは広がり、好奇と嘲笑が入り混じった視線が突き刺さる。

 クローリーの手は震え、粥をよそう匙から熱い汁がこぼれてしまう。


「きゃっ……!」


 粥が修道服にかかり、布に染み込んでいく。

 それを見た村人たちは、堪えきれず笑い声をあげた。


「おいおい、お上品なお嬢様は粥すらまともに配れないのか!」

「やっぱり世間知らずだな!」


 笑いの渦。

 クローリーの頬に熱がこみあげ、視界が滲む。


(やめて……見ないで……! わたしは、こんな……!)


 さらに追い打ちをかける出来事が起こった。

 人混みの中から、見覚えのある顔が現れたのだ。


「……あなたは……」


 それはかつての学院の同級生だった。

 名はエリザベート。裕福な商家の娘で、かつてクローリーに散々見下された少女だ。


「あら……まあ! 本当にクローリー様? こんなところで奉仕をなさってるなんて、夢にも思いませんでしたわ」


 その声はわざと大きく、周囲に響き渡る。

 村人たちの視線がさらに集まり、笑いは一層強くなった。


「学院であんなに偉そうにしていたのに……」

「結局、修道院で粥配りか。ざまあみろだな」


 クローリーの胸に鋭い刃が突き刺さった。

 屈辱に耐えられず、目を伏せる。

 だが、匙を持つ手を止めるわけにはいかない。

 止めれば、院長の冷たい叱責が飛ぶだけだから。


 夕暮れ。

 奉仕が終わったころには、全身が疲労で震えていた。

 両手には粥の匂いが染みつき、背中は重く痛んでいる。

 けれど、それ以上に心が打ちのめされていた。


(わたしは……もう誰からも笑われる存在に……)


 石畳に落ちる夕日の赤は、まるで血のように見えた。

 涙が頬を伝う。

 誰も慰めてはくれない。


 ただひとつの事実が、胸を締め付ける。


――すべてはリースを妬んだ自分のせい。

――そして、最後までリースに勝てなかったということ。


 修道院の鐘が、また響いた。

 奉仕の日は終わった。

 だがクローリーの屈辱の日々は、これからも果てしなく続いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ