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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話5 クローリー視点 リースの終わり

倉庫街の午後 ― クローリー視点


 午後三時。

 運命の鐘が胸の奥で鳴り響く。


 リースは、まるで迷いを知らないように真っ直ぐ歩いてきて、小屋の前に立った。

 その姿を、わたしは廃材置き場の影から息を殺して見つめていた。


 ――本当に来たのね。

 信じられない気持ちと同時に、心の奥底から湧き上がる快感に、頬がじんわりと熱くなる。


 リースは扉の前で少し立ち止まり、あたりを見渡した。

 警戒しているのだろう。金色の髪が夕日に照らされ、柔らかな光をまとって輝いて見える。

 それは学院時代から変わらない、あの気高い姿。

 だけど、今からその輝きが汚されていくのだと思うと……胸の鼓動がどんどん速くなっていった。


 お願いだから、早く入って。

 わたしの心の声に応えるかのように、リースは小さく息を吐き、扉に手をかける。


 きぃ、と錆びた音を立てて扉が開いた。

 そして、彼女は中へと消えていった。


 その瞬間――わたしの視界は暗闇に閉ざされたように感じた。

 リースの姿が見えなくなってしまったからだ。

 けれどすぐに、小屋の中から声が漏れてきて、わたしの耳を支配した。



「あ、あなた……誰ですか?」


 リースの声だ。

 困惑と戸惑いが入り混じった、必死の問いかけ。

 その響きは、わたしの心臓を直接掴んで揺さぶった。


「メ、メアリーはどこですか?」


 さらに震えた声。

 裏切られたことにまだ気づけていない、愚かで純粋な声。


 ああ、これだ。

 わたしがずっと夢見ていた光景が、今ここで現実になっている。


 すぐに、荒々しい男の声が返ってきた。


「うるせえ。そんな奴は来ねえよ」


 低く、冷たく突き放すような響き。

 エックスの声だった。


 その言葉を聞いた瞬間、わたしは口元を押さえ、笑いをこらえた。

 ――最高。これ以上の舞台はない。


「え……な、なに……何をするつもりなの……?」


 リースの声が震えている。

 恐怖に押しつぶされそうになりながら、それでも何とか問い返す。

 今まで見たこともないような弱々しい声。


 あの気高いリースが、恐怖に縛られている。

 その事実が、甘い蜜のようにわたしの心を満たしていく。


「うるせえな、静かにしろ!」


 エックスの怒鳴り声が小屋の中に響いた。

 直後、何かが床に落ちるような音がして、リースの小さな悲鳴が重なる。


「やめて……!」


 必死の声。

 かすかに嗚咽混じりで、涙が混ざっているようにさえ感じられる。



 わたしは物陰で体を震わせた。

 怖さじゃない。興奮の震えだ。


 ――これで、終わる。

 どれだけ努力しても、どれだけ真っ直ぐ生きても、結局リースは汚れてしまう。

 あの女は二度と輝きを取り戻せない。


 そしてレスター様は、もうリースを振り返らない。

 代わりに隣に立つのは――このわたし。


 想像するだけで、胸の奥から笑いが込み上げてくる。

 けれど、声を出してはいけない。

 だから、口の中でそっと囁いた。


「ざまあ……」


 小屋の中からは、まだリースの声とエックスの荒い声が断続的に聞こえてくる。

 その全てが、わたしにとって最高の音楽だった。



 やがて、夕日の色が少しずつ赤みを帯びていく。

 小屋の中では、運命を決める出来事が進んでいる。


 わたしはただ、物陰に潜んだまま耳を澄ませ続けた。

 この瞬間を、一秒たりとも聞き逃すわけにはいかない。


 ――午後三時。

 世界は静かに、しかし確実にリースの運命を書き換えていく。

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