表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/84

閑話4 クローリー編 リースへの罠発動

騎士団の門前 ― クローリー視点


 午後二時。倉庫街の外れにある、薄汚れた煉瓦の壁の影に身を潜めた。

 目の前には、クローリー伯爵家が所有する古い物置小屋。

 木の扉は色あせて、蝶番は錆びついている。

 けれど、埃っぽい匂いを漂わせながらも、中はまだ使える程度には保たれていた。

 今日のために、わざわざ鍵を用意したのだ。


 胸が早鐘のように鳴っている。

 本当に来るのか。

 リースは、わたしの仕掛けた罠にまんまと引っかかって、一人で姿を現すのか。


「ふふ……」

 頬が自然と緩む。

 思い描くだけで、心臓の鼓動がさらに早まる。


 そのとき、靴音が近づいてきた。

 振り返ると、埃を蹴り上げるように歩いてきたのは――エックス。

 乱れた茶髪、肩に羽織った安っぽい革のジャケット、そして何より、人を舐めたような笑み。


「よう、待たせたな」


 低い声。

 けれど目だけは鋭く、わたしの表情を探るように見つめてくる。


「来ましたね」

 わたしはできるだけ冷静に返す。


 エックスは足を止め、わざとらしく肩をすくめると、吐き捨てるように言った。


「確認しておきてぇんだが……本当にやっていいんだな? お前の友達、リースとかいう嬢ちゃんをよ」


 一瞬、背筋に冷たいものが走る。

 けれど、怖気づいてはいけない。ここで怯んだら、全てが無駄になる。


 わたしはわざと唇を吊り上げ、楽しげに返した。

「今さら怖気づいたの? わたしは楽しみにしていたのに。ええ、あなたの好きなようにしてください。わたしはあくまで協力者ですもの」


 するとエックスの表情に、かすかな影が差した。

 ほんの刹那、悲しげな色を宿したように見えた。

 ……見た目によらず、気の弱い男なのかもしれない。


 ならば、さらに背中を押してやればいい。


「ねえ、あなたの大好きなあの娘が、あなたのものになるチャンスなのですよ。そんなに後ろめたいのなら、この後、責任をとってあの娘と結婚すればいいじゃないですか? そうすれば、あなたは幸せ、リースも結婚できて幸せ、そして……わたしもレスター様と二人きりの結婚生活が守れて幸せ。みんなが笑顔になれるじゃないですか」


 あえて軽やかに言葉を紡ぐと、エックスは嫌悪感を隠さずに顔を歪めた。


「……ま、後悔するなよ」


 吐き捨てるような声。

 けれど、その言葉すらも、わたしには蜜のように甘美に響いた。


 エックスは肩を回しながら物置小屋の方へ歩き、扉の前で振り返った。

「俺は中で待機してる。それじゃな」


 ひらひらと軽く手を振り、何でもないように小屋の中へ消えていった。

 扉が閉じる音が、やけに大きく耳に残る。



 そして――わたしは一人になった。

 小屋から少し離れた廃材置き場の影に身を隠し、時の流れを待つ。


 午後二時十五分。

 まだ早い。

 リースが現れるのは三時のはずだ。


 だが、胸の鼓動はすでに最高潮に近づいていた。

 わたしはスカートの裾を握りしめ、爪が食い込むほどに力を込めていた。


「ふふ……リース」

 思わず名前を口に出す。

 あの女がどんな顔でここに来るのか。

 どんな顔で裏切られるのか。想像するだけで、体が震える。


 午後二時半。

 遠くから馬車の音がかすかに響いた。

 通り過ぎただけだとわかっていても、鼓動が跳ね上がる。


 午後二時四十五分。

 汗が首筋を伝う。

 待ちきれない。

 早く来てほしい。

 早くその顔を、この目で見たい。


 そして――。


 午後三時直前。

 通りの奥に、人影が見えた。


 ゆっくりと、確かな足取りでこちらへ向かってくる。

 背筋を伸ばし、どこか決意に満ちた歩み。


 わたしの視界が一瞬、白く染まる。

 歓喜で頭が真っ白になったのだ。


「……来た」


 リースだ。

 間違いない。

 あの金の髪、真っ直ぐな瞳。

 どんなに落ちぶれても、どんなに貧しくなっても、あの女だけは自分の輝きを失わなかった。


 そのリースが今、罠に飛び込んでくる。

 まるで自ら奈落へ歩み寄るように。


 わたしは震える手で口元を押さえた。

 笑いを堪えるために。

 ――この瞬間を、逃すわけにはいかない。


 運命の午後三時。

 リース=グラスゴーの破滅が、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ