表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/84

閑話2 クローリー編 リースを陥れる策

騎士団の門前 ― クローリー視点


 夕闇の街に、灯りがひとつ、ふたつとともり始めていた。

 石畳の道は湿っていて、昼間の熱気を吸い込んだ空気が重くのしかかる。

 わたしは苛立ちを抱えながら歩いていた。


 どうすればリースを、この世から完全に追い出せるのか。

 学院時代に失敗したような中途半端ないたずらではダメだ。

 もっと確実で、立ち直れないほどの一撃を与えなければ。


 けれど、わたしひとりの力では限界がある。

 だから――誰かにやらせればいい。

 街には金さえ払えば動く連中がいるはずだ。

 薄汚れたチンピラでも盗賊崩れでも、誰でもいい。

 リースを痛い目に遭わせて、レスター様に「彼女はふさわしくない」と思わせればいいのだ。


 そう考えていた矢先――。


「あれ……?」


 騎士団の裏通りに差しかかったときだった。

 角の影から、ひとりの男がじっと遠くを見つめていた。

 年は二十代半ばくらいか。無精ひげを生やし、肩には擦り切れた外套。どこか場末の酒場の匂いがしそうな風体。


 その視線の先にいたのは、ほかならぬリースだった。

 彼女は買い物袋を抱えて歩いている。門の前で兵士に声をかけられ、笑顔で答えている姿。

 ――その笑顔が、男を釘付けにしていた。


 胸の奥がざわついた。これは……もしかして。


 わたしはためらわず声をかけた。

「こんばんは」


 男がびくりと肩を震わせ、振り返った。

 鋭い目が一瞬、わたしを値踏みするように走る。

「……なんだ?」


 わたしはにこやかに首を傾げた。

「先ほどから、あの女性を見ていましたよね。お知り合いですか?」


 男はわずかに戸惑った表情を浮かべ、目を泳がせる。

「……まあ、そんなところだ」


 わたしは確信した。この男はリースに関心がある。

 わざと口元に笑みを浮かべて、さらに踏み込む。

「もしかして……彼女のこと、好きなのですか?」


 その瞬間、男の目が大きく見開かれた。

 図星だった。

 しかし彼はすぐに誤魔化すように肩をすくめ、あいまいに答える。

「……まあ、そんなところだ」


 心臓が早鐘を打つ。

 これは、思いがけない好機。

 わたしはひそやかに微笑んだ。

「だったら――彼女をあなたのものにすればいいのではありませんか? “俺の女だ”って、はっきりと」


 男は初めて真剣にわたしの顔を見た。

 緑がかった瞳が、夕闇に光る。

 しばらく沈黙ののち、小さく笑った。

「……それは、いい話だな。だが、どうすればいいと思う?」


 わたしは喉の奥で笑いをかみ殺す。

 これで道は開けた。

「わたしが協力してあげます。彼女を呼び出して、あなたが手籠めにすればいいのです」


 男の口元がにやりと釣り上がった。

「なるほど。それはいいアイディアだ」


「でしょう?」

 わたしはすかさず畳みかける。

「学院時代の友人の名を使えば、彼女はきっと疑いません。手紙で待ち合わせ場所を指定すれば、簡単に呼び出せます」


 男は感心したように頷き、手を打った。

「素晴らしい提案だ。……いいだろう。あんたの言う通りにしよう」


 そう言って、外套の内ポケットから紙切れを取り出した。

「これが俺の連絡先だ。郵便局留めにしてある。あんたからの手紙なら必ず受け取る」


 わたしは紙を受け取り、胸元にしまった。

「わたしへの連絡は学院の女子寮宛に送ってくだされば大丈夫です」


 男は満足げに頷いた。

「わかった。……楽しみにしてるぜ。俺はエックスだ」

「わたしは、クローリーよ、期待してるわ」


 その顔は、獣のようにいやらしい笑みを浮かべていた。

 けれど、わたしにとっては願ってもないこと。

 リースが汚され、傷つき、二度と立ち直れない姿を思い浮かべるだけで胸がすっとした。


 ――これで勝てる。

 わたしは心の中でそう繰り返しながら、男と別れた。


 夜風が頬を撫でる。

 石畳を歩く足取りは、来たときよりもずっと軽やかだった。


 リース=グラスゴー。

 あなたがどれほど笑っていても、もうすぐ終わる。

 わたしが必ず、あなたをこの世界から追い出してやる。


 暗い路地に溶け込みながら、わたしは燃えるような誓いを胸に刻んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ