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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話1 クローリー編 騎士団の門前

騎士団の門前 ― クローリー視点


 ……信じられない。

 あの子――リース=グラスゴーの姿を、わたしは見てしまった。


 パンや野菜を抱えて、楽しそうに歩いていく金の髪の娘。

 落ちぶれて学院を追放されて、今や騎士団の下働きにまで成り下がったはずなのに……どうしてあんなに生き生きとして見えるの?


 門をくぐるとき、兵士と笑顔で挨拶していた。

 わたしよりもずっと自然に、まるでそこが自分の居場所だとでも言いたげに。

 胸の奥がぐつぐつと煮え立つ。

 悔しくて、情けなくて、叫び出しそう。


 わたしは正妻になるのよ。

 ブラッドフォード伯爵家とジリンガム伯爵家――両家の結びつきは盤石。

 誰もが羨む婚約者の立場。

 なのに、レスターはどうして、リースなんかを愛妾に迎えようだなんて言うの。


「……わたしがいるのに」

 思わず口から漏れた声に、レスターは気づきもしなかった。

 緑の瞳は、門の向こうのリースだけを追いかけていたから。


 心臓を鷲づかみにされたみたいに、息が詰まる。

 もし本当にあの子を囲うなんてことになったら……わたしは絶対に許さない。

 そんな男との婚約なんて、すぐにでも破棄してやる。



 思い返せば、学院にいた頃からリースは目障りだった。

 公爵令嬢というだけでも腹立たしいのに、性格も頭もよくて、しかも美しい。

 教室で彼女が発表するたび、舞踏会で微笑むたび、わたしの周囲の視線が

「リース様はやはり素晴らしい」

 と語っているのがわかった。


 ある日、つい口を滑らせてしまったのだ。

「……綺麗」って。

 わたし自身が呟いた言葉に、どれほど悔しさを覚えたか。

 絶対に勝てないと、無意識に認めてしまったようで。


 そして彼女の婚約者だったレスター様も、彼女と並んでいるときが一番輝いて見えた。

 羨ましくて、妬ましくて――胸が痛かった。


 けれど事態は一変した。

 グラスゴー公爵家が取り潰され、リースが一文無しになったとき、わたしは心の底から笑った。

 やっと終わった、って。


 学院の下働きとして、みじめに働く姿を見てやろうと思った。

 馬鹿にしてやろうと。

 でも、彼女は料理も事務仕事も、驚くほど器用にこなしていた。

 なによそれ。

 公爵令嬢らしい気取った態度なんて一つもなく、平民に落ちぶれた娘なのに誰からも頼られて。


 許せない。

 わたしより下の立場になったのに、どうしてあんなに評価されるの?


 だから、レスター様や取り巻きたちを誘って、リースが寝泊まりしている物置小屋にいたずらを仕掛けた。

 ちょっと困らせてやるつもりだった。

 なのに――火が出て、小屋ごと燃えてしまった。


 幸い、リースは無事だったけど、放火の罪を着せられて、学院を追放された。

 あの瞬間、心の奥で「勝った」と思った。

 もう二度と這い上がれないだろうと。



 ……なのに、なぜ。

 今の彼女は、前よりも綺麗になっていた。

 働いているはずなのに肌はつややかで、瞳は生き生きと輝いて。

 まるで学院で見ていた時よりもずっと眩しい。

 何か特別な化粧品でも使ったの?


「どうして……」

 声が震える。


 そして、レスター様まで――。

 「愛妾にすれば名誉になる」なんて、本気で思っているの?

 誰がそんな馬鹿げた話を受け入れるっていうの。


 彼女はわたしからレスターを奪おうとしている。

 その笑顔で、また周囲を味方にして、彼の心を奪っていく。

 ――それだけは、絶対に許せない。



 わたしはピンク色の髪をぎゅっと握りしめ、胸の奥に湧き上がる怒りを抑えきれなかった。

 リース=グラスゴー。

 あなたのことは、学院の時から大嫌い。


 今度こそ、絶対に負けない。

 レスター様を奪い取られるくらいなら――わたしが、あなたをこの世界から追い出してやる。


 夕闇に沈む石畳の道を歩きながら、心の中で固く誓った。

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