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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話4 レスター編 リースを愛妾という名誉で喜ばせよう

伯爵の返書を受けて ― 愛妾という名誉?


 春の陽気が学院を包み込み、寮の窓からは桜の花びらが舞い込んできていた。

 レスター=ブラッドフォードは机に広げた手紙を何度も読み返していた。

 銀色の髪が春の光を受けて淡く光る。


 父からの手紙。そこには冷徹な現実が記されていた。


リース=グラスゴーはもはや公爵令嬢ではない。

伯爵家の正妻にはふさわしくない。

どうしても気になるなら、側室か愛妾にすればよい。


 最初は胸がざわついた。

 けれど何度も読み返すうちに、レスターの中で妙な理屈が芽生え始めた。


(……平民に落ちたリースにとって、伯爵家との繋がりはむしろ名誉なのではないか?)


 彼女は今、騎士団の寮で働いているという。

 下働きの娘として雑務に追われる生活。

 華やかな舞踏会で微笑んでいたあの姿とは、きっと別人のように見えるだろう。


(そんな境遇にいるくらいなら、俺のもとで愛妾として暮らす方が、よほど幸せではないか?)


 自分の考えに、どこか酔うような感覚さえあった。

 伯爵家の後継ぎの愛妾――それは多くの平民女性にとっては夢のような立場だ。

 リースだって、失った名誉を少しでも取り戻せるはず。


「……そうだ、俺が救ってやればいいんだ」


 口にした瞬間、心が軽くなる。

 彼女にとっても、そして自分にとっても悪くない話だと本気で思えてきた。



 翌日。

 レスターは中庭でクローリー=ジリンガムと顔を合わせた。

 ピンク色の髪をきらびやかに結い上げた彼女は、春の光の中でもひときわ目立っていた。


「レスター、昨日の手紙……読んだわね?」

 クローリーは瞳を輝かせて問いかける。


「ああ。父上は……お前との婚約を支持している」

「当たり前でしょ。ブラッドフォード家とジリンガム家の結びつきは、学院でも一目置かれるんだから」


 彼女は得意げに笑った。

 だが、レスターは心の奥に別の考えを抱え込んでいた。


「でも……リースのことを、完全に切り捨てるのは惜しいと思うんだ」

「……は?」


 クローリーの笑顔が一瞬にして消えた。

 緑の目を見開き、レスターを睨みつける。


「まさか……まだあの女のことを考えてるの?」

「考えてるというより……俺が助けてやれる立場なんだ。平民に落ちた彼女にとって、伯爵家の庇護は必要だろう」


「……助ける? 愛妾として囲うってこと?」

「そうだ。俺の父上もそう仰っていた。正妻はお前だ。でも、リースを愛妾にすれば、彼女にとっても名誉になる」


 レスターは自信ありげに言った。

 だがクローリーの顔は嫉妬で赤く染まり、唇を噛みしめている。


「……あなた、正気? あの女を囲うなんて、私の婚約者として許さない!」

「クローリー、落ち着け。お前は正妻なんだ。立場は揺るがない。だが、愛妾を持つことは貴族の常識だ」


「っ……!」


 クローリーは言葉を失い、その場から駆け去ってしまった。

 レスターはひとり桜の下に残され、風に吹かれながら深く息をついた。



 その夜。

 レスターは机に向かい、新しい手紙を書き始めていた。


「リース……」


 羊皮紙にペン先を走らせながら、彼女の姿を思い浮かべる。

 春の光の中で、騎士団員たちに笑顔を向けていたリース。

 学院にいたときよりも生き生きとして、美しかった。


(あの笑顔を、俺だけのものにしたい。俺の庇護下に置きたい……)


 ペン先が紙を擦る音が静かに響く。

 書き連ねた言葉は、彼なりの誠意のつもりだった。


――君を再び守りたい。

――正妻にはできないが、愛妾として迎えたい。

――それは君にとっても名誉であり、安定した未来を約束する。


 最後に署名を書き、封をしたとき、レスターは満足げに微笑んでいた。


(これでいい。リースもきっとわかってくれる。俺が彼女の唯一の道なのだから)


 窓の外では、夜風に揺れる桜が淡く光っていた。

 レスターは自分の決意を疑わなかった。

 だがその考えが、リースの心を深く傷つけることになるとは、まだ知る由もなかった。

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