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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話3 レスター編 伯爵からの返書

伯爵からの返書 ― 春の葛藤


 春の陽射しが差し込む午後、ポーツマス魔法学院の学生寮。

 中庭では新入生たちが歓声を上げており、桜の花びらがはらはらと舞い落ちていた。


 レスター=ブラッドフォードは、食堂から戻ったばかりのところで寮監に呼び止められた。

「ブラッドフォード家からの書簡だ。君宛てだぞ」

 そう言って差し出された封筒には、見慣れた家紋――銀の鷹が刻まれていた。


 胸の奥がどくん、と波打つ。

 父、ブラッドフォード伯爵からの返事だ。

 先日、思い切って送ったあの手紙の答え。リースのこと、そして自分の未来についての。


 レスターはすぐには封を切れなかった。

 部屋に戻り、机の上に手紙を置いて、しばらくその封蝋を見つめ続ける。

 窓からは春風が吹き込み、机の端に積んだノートの紙をぱらぱらとめくっていく。

 ――開けなければ、父の言葉に縛られなくて済む。

 だが、開けなければ未来も決まらない。


 やがて、意を決して小刀で封を切った。



 羊皮紙には父の整った筆致が並んでいた。

 読み進めるにつれ、レスターの心はずしりと重くなる。


息子レスターへ


手紙を読んだ。

そなたがまだリース=グラスゴーの娘を気にかけているとは思わなかった。

だが、父として、当主として言わねばならぬ。


あの娘はもはや公爵令嬢ではない。

家は取り潰され、爵位も地位も失った。

伯爵家の嫡男であるそなたが、そのような娘を正室に迎えるなど断じて許されぬ。


どうしても忘れられぬならば――側室か、あるいは愛妾として囲えばよい。

それが現実というものだ。


しかし、我が家の未来を背負う正妻の座は、ジリンガム家のクローリー嬢に譲ることはできぬ。

あの家との縁は我が家にとって大きな力をもたらす。

そなたも伯爵家の後継ぎとして、この理を理解せねばならぬ。


以上だ。よく考え、己の感情に溺れることなく行動せよ。


父 ブラッドフォード伯爵


 ――側室か、愛妾に。


 その言葉が胸に突き刺さる。

 父にとってリースはただの「一女性」に過ぎないのだ。

 けれど、レスターにとっては……。


 彼女を見たあの日の衝撃が、鮮やかに甦る。

 陽光を浴びて仲間に笑いかける姿。真っ直ぐで、強くて、学院にいたころよりもずっと輝いていた。

 あんなリースを、「ただの側室」として片隅に押し込める?

 胸の奥が苦しくなり、思わず手紙を握りしめた。



 その時、扉が勢いよく開いた。

 クローリー=ジリンガムが、艶やかなピンクの髪を揺らして飛び込んできた。


「レスター! ねえ、今、伯爵家からの返事が届いたって聞いたわよ!」

 彼女は興奮気味に机の上の封筒をひったくり、内容をざっと目で追った。

 すると、ぱっと表情を明るくする。


「やっぱりそうよね! おじ様も、私との婚約を第一に考えてくださってるわ!」

 彼女は勝ち誇ったようにレスターを見つめる。

「これで、あなたが変な夢を見る必要はなくなったの。リースのことなんて忘れなさいな。だって、もう身分のない娘なのよ?」


「クローリー……」


 レスターは返す言葉を見つけられなかった。

 父の手紙と、クローリーの言葉――どちらも「正しい」のだ。

 貴族の子として、後継ぎとして、選ぶべき道は決まっている。

 けれど、その「正しさ」に従えば従うほど、胸の奥で叫ぶ声が強くなる。


(……あのリースを、そんな風に扱えるわけがない!)


 机に置かれた手紙が風に揺れ、かさりと音を立てた。

 春の光は穏やかに降り注いでいるのに、レスターの胸の中には嵐のような葛藤が渦巻いていた。



 夜、レスターはひとり窓辺に立ち尽くした。

 中庭には桜の花びらが積もり、月明かりに淡く照らされている。


 父の言葉に従うべきか。

 それとも、自分の心に従うべきか。


 答えはまだ出せなかった。

 ただ、ひとつだけ確かにわかっているのは――

 リースの輝く姿が、もう決して心から消えない、ということだった。

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