表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/84

閑話1 レスター編 リースを追跡する

騎士団の門前 ― 揺れる視線と閉ざされた門


 夕暮れ時。

 石畳を歩いていくリースの姿を、レスターとクローリーはこっそりと追っていた。


 ピンクの髪を揺らしながら、クローリーは小声で不満を漏らす。

「レスター様、本当に……こんなこと、意味があるんですの?」

「黙っていろ。少し見ればわかる」


 緑の瞳を細め、レスターは前を行くリースの背中を見つめる。

 両手に抱えた布袋からはパンや野菜が覗き、足取りは軽やかだ。

 学院にいた頃とは違い、どこか楽しげに見えるその姿に、彼は胸の奥がざわつくのを抑えられなかった。


「……生き生きしてやがる」

 自分でも気づかぬほど低い声が漏れる。


「え?」

 隣のクローリーが首を傾げる。

 レスターは慌てて首を振り、「何でもない」と言い直した。


 やがてリースは、大きな石造りの建物の前で立ち止まった。

 堂々と掲げられた紋章――それは王国騎士団の象徴。

 ここが騎士団の寮であることを、誰の目にも明らかに示していた。


「まさか……騎士団?」

 クローリーが目を丸くする。

 レスターは口を固く結んだ。

 彼女がただの下働きだと頭ではわかっている。だが、王国の精鋭たちが暮らす場に出入りしている事実が、妙に胸をざらつかせた。


◇ ◇ ◇


 リースは警備の兵士に軽く会釈し、門の中へと入っていった。

 その背中が扉の向こうへ消えるのを見届けた時、クローリーが腕を組む。


「……ふん、あの子が騎士団で働いているなんて、信じられませんわ」

「ただの下働きだろう」

「それでもよ! “騎士団の一員”のように見られるじゃありませんの。なんだか……悔しい」


 ぷいと顔を背けるクローリーの頬は赤く染まっていた。

 だがレスターの視線は依然として門の方へ釘付けだった。

 ――あんなに自然に兵士と挨拶を交わすなんて。

 学院にいた頃は、ただ冷ややかで近寄りがたい印象しかなかったのに。


 緑の瞳に映るリースの姿が、記憶の中の彼女と重ならない。

 その違和感が、彼の胸を締めつけていた。


◇ ◇ ◇


「止まれ」

 門の前に立った瞬間、鋭い声が響いた。

 屈強な兵士が二人、槍を交差させて道を塞ぐ。


「ここは王国騎士団の寮だ。関係者以外の立ち入りは禁じられている」

「わ、私は……レスター=ブラッドフォードだ。伯爵家の息子だぞ」


 胸を張るレスターの声には自信があった。

 だが兵士たちは微動だにしない。


「たとえ伯爵家の御子息でも、許可なき入場はできぬ」

「なっ……!」


 レスターの頬が赤く染まる。

 クローリーがすかさず横から口を挟んだ。


「わ、私たちはただ……中で働いている者に用があるだけですの」

「誰だ?」

「リース=グラスゴー。あの娘に会わせてほしいのです!」


 兵士は冷たい視線を二人に投げた。

「リース嬢はここで真面目に働いている。怪しい者を通すわけにはいかん」


「怪しい者だと!? 俺はブラッドフォード伯爵家の――」

「ここでは身分は通用せぬ。お引き取りを」


 槍の切っ先がわずかに近づき、空気がぴんと張り詰める。

 レスターは歯噛みしながらも、一歩下がらざるを得なかった。


 クローリーは憤然と声を上げる。

「ど、どうしてよ! あんな子に会わせるだけなのに!」

「二度は言わぬ。帰れ」


 門は固く閉ざされたまま、二人の前に立ちふさがっていた。


◇ ◇ ◇


 結局、レスターとクローリーは追い返される形で寮を後にした。

 夕闇に染まる石畳を歩きながら、クローリーは苛立ちを隠せずにいた。


「屈辱ですわ! どうして、あんな女を守るように扱うのよ!」

「……」


 レスターは黙り込んだまま。

 頭の中には、門の向こうで笑顔を見せるリースの姿がこびりついて離れなかった。


 なぜあんなに輝いて見えるのか――。

 自分は彼女を切り捨てたはずなのに。


 夜風が銀の髪を揺らす。

 緑の瞳に浮かぶ迷いを、クローリーは気づかないふりをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ