第38話 リース視点 ― 二人の優しさとリースの勘違い
リース視点 ― 二人の優しさとわたしの勘違い
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最近、妙なことが続いている。ロベルトと副団長――シュワーラ=エレメント。この二人が、やたらとわたしにかまってくるのだ。
たとえば先週。ロベルトが「春の新しいケーキが出たんだ!」と目を輝かせて誘ってくれた。王都のカフェで期間限定の桜ケーキ。甘さの中にほんのり塩気が効いていて、とてもおいしかった。可愛い弟に連れられて来たようで、心が和んだのを覚えている。
ところがその翌日。副団長が廊下でわたしを呼び止めた。 「君も甘いものが好きらしいな。なら、今度は俺とディナーに行こう」 そうして連れて行かれたのは、落ち着いた雰囲気のレストラン。料理はどれも繊細で、大人の味わいだった。副団長は終始穏やかで、仕事や世間話をしてくれる。前世で三十歳まで働いていたわたしにとっては、彼の会話は妙にしっくりきて、安心できる時間だった。
……でも、こういうのが続くのはどうしてだろう?
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ロベルトは弟のように可愛い。ちょっとした失敗をしては照れて笑い、そのくせ模擬戦になると目つきが鋭く変わる。そのギャップに、周りの女の子たちが騒ぐのもわかる。わたしからすると、まだ子犬みたいで守ってあげたい存在だ。
一方、副団長は落ち着き払っていて、誰にでも公平。口数は少ないけれど、一言一言に重みがある。だからだろうか。話していると、前世のわたしと同年代の大人と語り合っているようで、とても気が楽になる。気づけば余計な愚痴をこぼしてしまうこともあった。
二人はタイプがまるで違うのに、そろってわたしに親切にしてくれる。
……ああ、そうか。きっと、田舎から出てきて婚約破棄されたわたしを気遣ってくれているのだろう。寮母として慣れない仕事をしているから、励ましてくれているのだ。二人とも優しいなあ。
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ある日、食堂でロベルトと並んで昼食をとっていたら、副団長がすぐ近くにやってきた。 「ロベルト、お前は午後の訓練があるだろう。リース嬢は俺が送っていく」
「え、いや俺も行けますけど!」
ロベルトがむきになって言い返す。なんだか兄弟げんかのようで、わたしはつい笑ってしまった。
「二人とも、わたしなら一人で歩けますよ」
そう言ったのに、結局二人そろってついてきた。……そんなに心配してくれるなんて、ありがたいけれど、少し不思議だ。
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また別の日。街で生活用品を買って帰ると、重い荷物を抱えたわたしにロベルトが駆け寄った。 「貸して! こんなの俺が持つよ!」
と、その手から袋をひったくるように受け取る。すごく頼もしいけれど、少年らしい無理の仕方で、袋の角が破れそうになっていた。
そこへ現れたのが副団長だ。 「危なっかしいな。リース嬢、こっちに」
片手でひょいと荷物を持ち上げ、涼しい顔をして歩いていく。二人の背中を見ながら、なんだか可笑しくて、つい笑みがこぼれた。
「ありがとうございます。でも……二人とも本当に優しいですね」
そう言うと、ロベルトは真っ赤になって前を向き、副団長はほんの少しだけ笑った。
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夜、寮の部屋で一人になったとき、ふと考える。 どうして二人とも、こんなにわたしに構ってくれるのだろう。忙しいのに時間を割いてまで、声をかけてくれる理由は?
もしかして――やっぱりわたしが婚約破棄で田舎から出てきたから? かわいそうな境遇だから、慰めてくれている?
だとしたら、本当にありがたいことだ。二人は掛けがえのない友達だと思う。ロベルトは弟みたいで、見ていて微笑ましい。副団長は同世代の大人として、人生の先輩のような安心感がある。
……恋とか、そういうのはわたしにはよくわからない。前世でも仕事ばかりで、誰かと付き合うなんてなかった。だから、きっとこれは友情なのだろう。わたしがそう思うから、そうに違いない。
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翌日。桜並木の下を歩いていると、両隣にロベルトと副団長が並んで歩いていた。三人で歩くのはぎこちないけれど、不思議と楽しい時間だった。花びらが風に舞い、二人の笑顔がやけに眩しく見える。
(やっぱり、二人とも友達でいてくれるんだ。ありがたいなあ)
そう胸の奥でつぶやきながら、わたしは笑った。本人が気づかぬまま、二人の想いをはぐらかしながら――。
小さな春のすれ違い




