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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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第37話 シュワーラ視点 リースへの想い

銀髪の副団長 ― 芽吹く恋心(シュワーラ視点)


 春の風が、まだ少し冷たさを残して城下を吹き抜けていく。

 庭の桜がほころびはじめ、花の下を歩く騎士団の若い者たちの笑い声が響いていた。


 ――俺がリースに出会ったのは、あの冬の夜だった。


 吐く息が白く濁るほどの寒さのなか、騎士団寮の前にぽつんと立つ少女の姿があった。

 金色の髪は雪明かりに照らされて輝き、蒼い瞳はまっすぐに俺を見上げていた。


「……求人を見て、来ました」


 そう言って差し出された手は震えていたが、意志だけははっきりしていた。

 夜更けに女一人で訪ねてくるなど、普通なら怪しいと思うだろう。俺も最初は眉をひそめた。


 だが事情を聞けば、田舎で婚約破棄されて、行き場をなくして都会に出てきたらしい。

 その語り口は飾り気がなく、むしろ不器用で、どうしようもなく正直だった。


「採用していただけないなら……川に身を投げます」


 そう脅すように言ったときには思わず笑ってしまった。

 必死さのあまり、冗談にすら聞こえない。だがその真剣さに、心が動いたのも事実だった。


 ――採用を決めたのは、俺の気まぐれか、それともあの瞳に惹かれたからか。

 いまではもう、はっきりと区別できない。


 それからリースは、寮母の手伝いとして働きはじめた。

 雑務も掃除も、嫌な顔ひとつせずにこなす姿を見て、団員たちはすぐに彼女を気に入った。

 そして――ロベルト。


 あの若造が見習いとしてやって来てから、リースは急速に彼と仲良くなった。

 ロベルトは気さくで、人懐っこい笑顔を持っている。だが俺は知っていた。

 彼がただの若造ではなく、王族――第三王子であることを。


 平民の娘と王子。

 そんな恋が実るはずがない。だが正面から「禁止だ」とは言えない。

 なぜならその身分は秘密だからだ。


(なら、俺が二人の間に入るしかない)


 そう思った。リースがロベルトを好きにならないよう、さりげなく気を配った。

 ……だが皮肉なことに、彼女を見守るうち、俺自身の気持ちが彼女に傾いていったのだ。


 笑顔が眩しいと思った。

 真っ直ぐに「ありがとう」と言われるだけで胸が熱くなると気づいた。

 リースを好きになってしまった――愚かだと思いながらも、もう止められなかった。


 けれど同時に、自分に問いかけていた。


(俺が好きになってどうする? 年齢差は十もある。しかもリースには同年代のロベルトがいる)


 だが、逆に考えた。

 もしリースが望むのなら――それでいいのではないか、と。


 貴族社会では十歳差の結婚など珍しくもない。

 だが、彼女自身がどう考えているのかを知りたかった。


 だからある日の雑談のなかで、あえてさりげなく聞いたのだ。


「結婚相手の年齢……君は、どれくらいまでなら許容できる?」


 リースは少し考えてから、こう答えた。


「そうですね……三十歳くらいまでなら、普通かなって思います」


 ――その瞬間、俺は心の底から安堵した。

 二十八の俺は、まだ彼女の許容範囲に入っている。

 その事実が、どうしようもなく嬉しかった。


 夜、ベッドに横になりながら思わず笑ってしまったほどだ。

 彼女の答えは、俺にとって告白よりも重い意味を持っていた。


(リースは、俺の妻にする。ロベルト殿下には悪いが……あの可愛い笑顔を、俺だけに向けてほしい)


 そう強く思った。

 銀髪を後ろで束ねた俺の影は、月明かりの下で揺れていた。

 それは、芽吹いたばかりの恋心が、確かな決意へと変わっていく瞬間だった。


 春の風が窓を揺らす。

 外では桜が舞い、若い団員たちの声が響いている。


 その中で、俺はただ一人の少女のことを思っていた。

 ――リース。

 彼女を守り、彼女を笑わせ、そしていつか、彼女の隣に立ちたい。


 そう願わずにはいられなかった。

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