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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話5 アーセナル編 アーセナル断罪される

アーセナル視点 ― 鉱山送りの果てに


 俺の名はアーセナル=アストン。

 名門サンダーランド侯爵家の親族にして、王国最高峰の学び舎――ポーツマス学院の院長を務めていた。……そう、つい数日前までは。


 豪奢な椅子に腰を下ろし、愛人に贈る首飾りのカタログを眺めていたとき、突然近衛騎士が踏み込んできた。

 奴らは陛下の命令だと言い、俺を捕縛した。信じられなかった。俺は学院長だぞ? 侯爵家の血筋だぞ? なのに縄で縛られ、まるで犯罪者のように城へ引き立てられた。


 謁見の間で読み上げられた罪状は「資金横領」と「背任」。

 俺は必死に弁明した。「すべては部下が勝手にやったことだ!」と。だが陛下の目は冷たく、誰も信じようとはしなかった。


 ……そして、判決は下った。


「アーセナル=アストンを平民に降格し、鉱山で二十年の労役に処す」


 頭の中が真っ白になった。

 二十年? 俺が? 侯爵家の血を引くこの俺が、つるはしを振るって石を掘るだと? あり得ない。これは間違いだ。俺のような高貴な存在が、土にまみれて生きるはずがない。


 だが現実は無慈悲だった。



 俺は粗末な囚人服を着せられ、護送馬車に押し込まれた。

 窓の外には王都の人々が群がり、指を差し、口々に囁いた。


「学院長が横領だってよ」

「愛人に金をつぎ込んでたらしい」

「学生に飯も食わせなかったんだと」


 耳を塞ぎたかった。だが、彼らの視線が俺を突き刺す。あの学院で、俺こそが秩序を保っていたのに! 無能なのは下働きどもだ! キャンベルも、アトラスも、俺が見下ろしてやらなければまともに動けない存在だった!


 ……それなのに、どうして俺だけが罪人扱いされる?



 鉱山に着いたとき、俺はようやく自分の運命を理解した。

 山奥にある採掘場。硝煙と鉄の臭いが鼻を突き、汗と血で汚れた囚人たちが岩を砕いていた。監督官が鞭を鳴らし、怒号を飛ばす。


 俺もそこに放り込まれた。

 手には重いつるはし。柔らかな手のひらはすぐに血がにじみ、皮が剥がれる。背筋を伸ばすことすらできない暗い坑道で、ただ岩を砕き続ける。


「くそ……俺は学院長だぞ。侯爵家の血筋だぞ……」

 呻いても誰も耳を貸さない。ただ鞭が背を打ち、労働を強いるだけだ。



 坑道での生活は地獄だった。

 固いパンと冷たい水。眠るのは湿った藁の上。かつて金糸のシーツに眠り、絹の衣を纏っていた俺が、いまは泥にまみれ、囚人どもと同じ飯を食っている。


 どうしてこうなった?


 ……そうだ、思い出した。すべてはリースのせいだ。

 あの下働きの娘が、俺の学院を乱したのだ。


 キャンベルも、アトラスも、あの娘が騎士団に引き抜いた。あいつらが残っていれば、食堂は回っていた。生徒の不満も広がらなかった。俺が責められることもなかった。


 リース……あの悪魔め!


 俺は牢の中で歯ぎしりした。

 そうだ、全てはリースが仕組んだ罠だったに違いない。俺の地位を奪うために、キャンベルやアトラスを誘惑し、学院を混乱に陥れ、最終的に俺を陥れたのだ。



 だが……。


 つるはしを振るい続けるうちに、俺はふと思った。


 リースはただの下働きだった。

 俺が学院から追放した存在だ。あのとき「役立たず」と決めつけ、容赦なく切り捨てた。


 だが、考えてみれば――俺が追放したせいで、リースは騎士団に拾われたのだ。

 あそこで生き延びた彼女は、仲間を得て、信頼を得て、そして俺が失ったものを次々と手に入れていった。


 もし俺があのときリースを追放していなければ?

 もし彼女を雑用係としてでも手元に置いていたら?


 ……学院の混乱は防げていたのかもしれない。


 俺は思わず笑った。

 乾いた、惨めな笑いだった。


「そうか……ざまあ、か」


 リースにしてみれば、これ以上の「ざまあ」はないだろう。

 俺が彼女を追放した。その結果、俺自身が転落し、鉱山で二十年の労役に服する羽目になった。


 結局のところ、自分で自分の首を絞めたのだ。

 俺の傲慢が、俺をここまで堕としたのだ。



 暗い坑道の中で、俺はつるはしを振り続ける。

 かつて王都のサロンで笑い、愛人に宝石を贈っていた学院長アーセナルはもういない。

 いるのはただの囚人。背中を鞭で打たれ、石を砕き続けるだけの、哀れな男だ。


 だが、胸の奥には燃えるような執念が残っていた。

 ――リース。俺をここまで追い詰めた女。

 必ずいつか、思い知らせてやる。


 そう心の中で呟きながら、俺は血に濡れた手でつるはしを振り下ろした。

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