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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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第28話 冬の終わり リースの悩み

季節は冬から春へと移ろい始めていた。

 街路樹の枝にはまだ白い雪が残っているけれど、日差しにはどこかやわらかいぬくもりが混じり始めている。

 城下町の人々も少しずつ軽やかな服装になり、季節の移り変わりを感じさせていた。


 そんなある日の午後。

 騎士団の事務室では、書類の山を前にしてため息をつくわたし――リースの姿があった。

 ここ最近、人手不足が深刻化しているのだ。

 新しい人を募集しているものの、なかなか応募者は来ない。

 事務仕事は地味で大変だし、騎士団の勤務は規律も厳しい。

 誰だって気が進まないのだろう。


「はぁ……」

 思わず机に突っ伏しかけたところで、扉ががらりと開いた。


「リース、ちょっといいか?」


 赤髪を後ろで無造作に結んだ大柄な男――アレックス=ローレンス団長が姿を見せた。

 三十六歳にしてレスター騎士団を率いる豪放磊落な男。

 団員たちからの信頼も厚く、誰からも慕われている。


「団長、お疲れさまです」


「おう、リース。最近どうだ? 無理してないか?」


「えっと……まあ、なんとか……」


 笑ってごまかすしかなかった。

 実際には“なんとか”どころではない。

 休みなく働いて、気づけば机にうずくまってうたた寝することも増えていたのだから。


 アレックスは部屋に入るなり、机の上の書類をどさりと見下ろした。


「やっぱり人手が足りてねぇな……。新しい人を募集してるが、誰も来ねぇ」


「ですね……」


「誰か経験者で、手が早くて、真面目なやつ……そんなのが来てくれりゃ助かるんだがな」


「そんな都合のいい人、いたら苦労しませんよ」


 思わず苦笑すると、アレックスは「だよな!」と豪快に笑った。

 その笑い声に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなる。けれど、現実は厳しいままだ。


「もし心当たりがあれば、ぜひ紹介してくれよ。リースの紹介なら間違いねぇだろうからな」


「……はい。そのときはぜひ」


 そう返事をしつつも、頭の中で「そんな人いるかな」と考えてしまう。

 学院時代を思い出しても、周囲の子は勉強や魔法ばかりで、事務作業なんて器用にこなせる人はいなかった気がする。


 アレックスが部屋を出て行ったあと、再び書類に向き合いながら、心の中でぼやいた。


(この職場……ブラックすぎる……!)


 気づけば、ほとんど休みなく働いていた。

 朝から晩まで調理場を移動し、洗濯し、掃除し、帳簿を睨めっこ。

 休憩らしい休憩もとれず、気を抜けば倒れてしまいそうだ。

 副団長のシュワーラさんは「無理をするな」と声をかけてくれるけれど、現実問題、人手が足りない以上、休むわけにはいかない。だからこそ、余計に苦しい。


「……ちょっと散歩でもしてこようかな」


 机から立ち上がり、小さく伸びをする。

 気分転換くらいしなければ、ほんとうに倒れてしまいそうだった。

 そう決めて外に出ると、空気はまだひんやりしているのに、どこか春の香りが混ざっている。

 街道を歩けば、露店には苺や菜の花を使った菓子が並び、子どもたちがはしゃぎながら走り回っていた。


 公園に足を踏み入れると、枝先に小さな蕾が膨らんでいる桜の木が見えた。

 まだ花開くには少し早いけれど、その淡い色合いに心が和む。


「もうすぐ春かぁ……」


 ベンチに腰を下ろし、深呼吸をひとつ。

 書類の山から離れただけで、こんなにも心が軽くなるなんて。

 冷たい風に頬を撫でられながら、ほんの少しだけ自由を感じた。


(ほんとに、休みが欲しい……。このままじゃ、私もいずれ倒れちゃう)


 小さく呟き、空を見上げる。

 白い雲の切れ間から、やわらかな日差しがこぼれていた。

 騎士団での仕事は決して楽ではないけれど、ここで頑張るしかない。

 副団長や団長、仲間たちのためにも。


 それでも――もし新しい人が現れてくれるなら。

 もう少しだけ、心に余裕を持てるかもしれない。


 春風に揺れる蕾を眺めながら、わたしは小さな希望を胸に抱いた。

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