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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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閑話1 エリオット編 公爵令嬢リースを探して!

調査員たちの渡航 ― 公爵令嬢リースの行方を追って


 王都の空気は年を越し、さらに冬の寒気が体に響く頃、その寒さを打ち破るかのような話題が、宮廷の奥深くで囁かれていた。

 ――王妹の娘である公爵令嬢、リース=グラスゴー。

 その所在を突き止めるよう命を受けた者たちが、大陸を渡って内務調査員が送られると。

 その数三名。


 彼らは騎士団員でもなく、また表立って動くことも許されない。ゆえに、身分を隠し、目立たぬ私服に身を包んで王都を発った。


 先頭に立つのはリバプール=ブリステル、壮年の男であり元騎士団員。灰色がかった短髪に、どこか厳格な眼差しを持つ。

 その隣に、若い調査官カレン。赤茶の髪を後ろでまとめ、普段は事務局で帳簿を扱う才媛だが、今回は現地での交渉役を担う。

 最後に、紫髪の青年エリオット。まだ若いが鋭い勘を持ち、裏道に通じている。彼は庶民の中に溶け込むような自然な振る舞いで、仲間から重宝されていた。


 三人は王都の外れにある港町へと向かった。馬車を降りれば、潮の香りと船乗りたちの喧騒が彼らを包み込む。


「……ここから大陸へ渡るのか」

 エリオットが目を細め、並ぶ船を見渡す。

「そうだ。陸路は遠回りだし、検問が厳しい。今は交易の船に混じっていく方が得策だ」

 リバプールが低く答え、外套の襟を立てた。


 彼らが乗り込むのは、商人ギルドが運営する中型の商船。積み荷は主に織物や香辛料だが、同時に人の移動も扱っていた。調査員たちは一般の旅客を装い、静かに甲板へ上がる。


 船が港を離れると、波が船腹を叩き、帆が風を孕んで大きく膨らんだ。

 王都が遠ざかっていくのを眺めながら、カレンが小声で言った。

「まさか、公爵令嬢を探しに船旅をするなんてね……」

「本当にこの先に手がかりがあるのか?」

 エリオットが眉をひそめる。

「ない」

 リバプールの声は断言だった。

「だが、国王様の姪なのだ、探さねばなるまい」


 確かにそうだ、と三人とも思っていた。

 だが報告に記された調査対象者の特徴――その娘は金髪碧眼、年の頃は十六歳の公爵令嬢。

 リース=グラスゴーという名前。

 これだけである。


 カレンは日記帳を取り出し、調査記録を整理する。

「とりあえず、グラスゴー公爵領に行くしかないわね」

「公爵令嬢を知っている者、もしくは関係者を探すしかないな」

 リバプールがため息交じりに半分、あきらめた感じに言った。


 船旅は数日に及んだ。

 昼は甲板で他の乗客と混じり、世間話を装いながら情報を拾う。夜は船室に籠り、地図や記録を広げて次の手を練る。


 エリオットは船員たちの間にすぐに溶け込み、酒場めいた船室で聞き込みをしてきた。

「どうやら、向こうの国では最近、王族の無駄遣いが激しくなり、財政が圧迫されているらしい。国民が疲弊戦乱して大変なようだ」

「……それでグラスゴー公爵が国民のための政治をと国王を諫言したところ、不敬であるぞとなって、国家反逆罪が発動し、公爵家は取り潰し、公爵は見せしめに処刑となったわけだ」

 リバプールは顎に手をやる。

「酷い話だな。トップが腐ると、下の者たちが悲惨なことになるのはどの組織も一緒か」

 エリオットが目を細めると、カレンは眉を寄せた。

「……まあ、暗い顔しないで。公爵令嬢をわたしたちで助けましょう」


 波が荒れた夜もあった。

 船は大きく揺れ、甲板では荒れ狂う海水が吹き込む。エリオットは船縁につかまり、胃を押さえて呻いていたが、リバプールは平然と立ち、カレンは祈るように空を仰いでいた。

 でも船は進み続けた。


 そしてある朝。

 水平線の向こうに、次第に陸影が見えてきた。濃い緑と灰色の山並みが立ち上がり、海鳥が群れ飛んでいる。


「……大陸だ」

 リバプールが呟いた。

 船は港町へと滑り込み、彼らは人混みの中に紛れながら下船した。


 石畳の広場に足を踏み入れると、異国の喧騒が広がった。行き交う人々の衣装は王都とは微妙に異なり、香辛料の匂いや言葉の訛りが漂っている。

 カレンが深くフードを被り、小声で言った。

「ここからが本番ね。グラスゴー公爵の領地に潜り込むには、慎重に動く必要があるわ」

「お前の交渉力に期待するぞ」

 リバプールが頷く。


 エリオットは、街の奥を見やりながら心をざわつかせていた。

 公爵令嬢はどこに逃げているのか――。

 公爵領内にいるのか? それともギリーラ王国のどこかに潜んでいるのか?

 そして、彼女は今どんな顔で日々を過ごしているのか。


 三人の調査員の旅路は、ようやく目的の地に辿り着いた。

 真実が待ち受けているのは、もうすぐそこだった。

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