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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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第19話 メアリー視点 リースの冤罪を晴らす!

あの日の夜のことは、未だにありありと浮かんでくる。火の匂い、叫び声、慌ただしく行き交う足音。私は辺りを見回しながら、ただただ息が詰まるのを感じていた。物置小屋が炎にのまれ、黒い煙が空を裂くように立ち上る。生徒たちが集まり、教師たちが指示を飛ばす。だが、中心にいたのはリース――煤にまみれて、震えながら立っている彼女だった。


「リース!」と私は駆け寄った。抱きしめると、彼女の小さな体は冷たく、震えが止まらなかった。目の奥は真っ赤で、涙が乾かぬままだった。その顔を見れば、火を放つような人間にはとても思えない。リースはいつも優しくて、几帳面で、何より人のために尽くす子だった。自分の手で家を燃やすなんて、そんな馬鹿げたことをするはずがない。


 しかし、その場の空気は彼女を裁く方向へと動いていった。レスターたちの声はやけに大きくて、震えの入った私の声よりも、学院長の耳には届きやすかったのだろう。彼らの証言は揃っていた。四人の口裏合わせに合わせるように、レスターは「自分たちは見ていた」と言い切った。クローリーの声は高く、堂々としていた。カトリーヌもバーンズも、同調する。その演技は、巧妙で怖いほどだった。


 「嘘だ!」とリースは叫んだ。だが、それは空気に消えた。人々の目は、彼女を責めるように注がれる。学院長の表情は冷たく、「親の罪は子に及ぶ」という決まり文句が、まるで正義の詭弁きべんのように振るわれた。誰がそれを咎めることができただろうか。教師たちは顔色をうかがい、誰もが自分の身を案じて口を閉ざした。


 その瞬間、私の胸の中で何かが崩れた。正義はどこにあるのか。真実はどこにあるのか。リースの小さな手は、どうしてこんな目に遭わねばならないのか。私は声を振り絞って反論しようとした。だが、学院長のひと言で沈黙した大人たちの壁は厚かった。「逆らえばお前も追放だ」とでも言われたら、誰もが尻込みしてしまう。私だけが、できることならいくらでも盾になってやりたいのに。


 あの夜、門の外へと追い出されたリースを見送るとき、冷たい風が顔を切った。彼女の頬を伝う涙が、黒いすすと混ざって光った。どれほど震えていただろう。どれほど怯えていただろう。私は肩を貸したくて仕方がなかったが、手を伸ばすことすら許されなかった。リースは、ゆっくりと門の外へ歩いていった。振り向くことはなかった。私の心は張り裂けるようだった。


 その後、私は動いた。震えながらも、あの時の怒りと悔しさは私の行動力に変わった。誰かが黙って見過ごすなら、それでも私は声を上げる。他の誰かが真実を隠すなら、それでも私は明かす。図書館へ駆け込み、古い法典や条文を探した。夜な夜な羊皮紙をめくり、眠気で手が震えても読み続けた。リースに関する小さな手がかり、一つでも多く集めたかった。


 見つかったのは、古い条文の一節だった。「子の学徒資格は、本人の罪によらずして奪われるべからず」という言葉がそこにあった。時代遅れで、ほとんど使われることのない条文だという注釈がついていたが、文字は確かにそこにあった。私はそれを握りしめ、胸が高鳴るのを抑えられなかった。「これがあれば――」と、希望がほんの少し顔を出したのだ。


 けれど希望は簡単に現実へと押し潰された。教師会議に嘆願書を持っていき、署名を集めて託した。生徒たちの多くは賛成してくれた。だが、教師たちは恐れていた。学院長の圧力は重く、反発する勇気がなかった。声を上げることは、即ち自分の立場を危うくすることを意味したのだ。


 そして何より、レスターたちの立場は強かった。彼らは貴族の血筋で、私たちが持つものよりずっと大きな盾を持っていた。学院長はその盾を頼りにし、私の訴えを簡単に退けた。理不尽だ。理不尽でしかない。リースは、物置小屋に住むことが嫌で、自ら火をつけるような愚かな人間ではない。あの子はわたしの大切な友達で、誰よりも思慮深くて、誰よりも繊細だった。そんな彼女が、自分の手で自分を滅ぼすような真似をするはずがない。


 無力感が胸を締め付ける。何度も訴えた。何度も証拠を揃えようとした。けれど、力の差はあまりに大きかった。学院長の冷たい決断の前では、私の言葉は子どもの泣き声のようにかき消された。リースは追放され、私たちはただ手をこまねいて見送ることしかできなかったのだ。


 私は決めた。これ以上、黙ってはいられない。学院の中だけで叫んでも届かないのなら、外へ訴えようと。家族の手を借りるのだ。家の影響力というものを、この場に持ち込む。リースが本当に命を落としてしまう前に、誰かの目を動かさなければならない。


 そうして私は、夜中に便箋を取り出した。手が震える。書くべき言葉が、喉につかえて出てこない。だが、書かねば――と一行ずつ丁寧に綴った。


『父上、母上 お願いです。リース=グラスゴーという少女のことを、どうかお調べください。彼女は冤罪で学院より追放されました。私の親友です。物置小屋に火をつけるような愚かな子では決してありません。あの子は恐らく、助けがなければこの冬を越せません。どうか力を貸してください。学院長は彼女を信じようとしません。レスター達の証言がまかり通ってしまいました。どうか、あなた方の名前で学院に働きかけてください。お願いします、助けてください――メアリー・ファーンバラ』


 書き終えて、私は封をし、封蝋に家の紋を押した。手紙を出すことで何が変わるのか確証はなかった。でも、何もしなければ確実に何も変わらない。私にはリースの命を守るために、今できることはこれしかなかった。


 手紙を差し出す日は最も寒い日だった。父の眉は固く結ばれ、母の手は震えながらも私の願いを受け止めてくれた。二人は静かに頷き、すぐに動いてくれると言った。私はその言葉を聞いてしばらく、泣き崩れそうになった。誰かが動いてくれる。誰かが声を上げてくれる――その小さな希望で、夜を越せると思えた。


 だが、心の奥では分かっている。権力と見えない慣習が立ちはだかることを。どれほどの力があれば、学院長の判断を覆せるのかを。私はそれでも、諦めない。リースを取り戻すためにできることはすべてする。署名をもっと集めに行く。外の影響力を借りる。居場所を失ったあの子が、この冬に凍え死なぬように、必死で手を伸ばす。


 夜、再び小さな紙片に誓いの言葉を書いた。『絶対に、あなたを放っておかない』――リースの名前を心の底から呼ぶ。返事が来るかは分からない。しかし、私は行動する。たとえ世界が冷たくても、私一人の炎が小さくとも、誰かの胸を温められるなら、それでいい。リースを救うための戦いは、これからだ。

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