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冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


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第17話 レスター視点 ― 食堂の混乱と失われた味

レスター視点 ― 食堂の混乱と失われた味


 昼の鐘が鳴った瞬間、俺はため息をつきながら食堂へ向かった。

 普段なら食欲をそそる香りが漂い、生徒たちが笑い声を交わすはずの場所だ。

 だが、ここ最近は違う。

 重苦しいざわめきが、シャンデリアの下に並ぶ長テーブルを満たしていた。


 皿に盛られていたのは、薄すぎるスープと、黒ずんで硬いパン、香りのない煮野菜。

 到底、貴族の子弟が通う学院の食事とは思えない代物だった。


「……これで一日を乗り切れってのかよ」


 思わず口から愚痴が漏れた。

 隣の席でも同じように眉をひそめる生徒が多い。

 だが、誰も声を大にして文句を言うことはない。

 学院に楯突くような真似は、家の名誉を損なうと知っているからだ。


 けれど俺は違う。この状況を黙って受け入れる気はなかった。


 確かに、つい先日まで厨房で働いていた下働きの少女――リースがいなくなった。

 元は俺の婚約者だったが、公爵家の失脚とともに身を落とし、ついには学院から追放された。

 正直言って胸をなで下ろした部分もある。

 もしあの時、罪が俺たちにかかっていたら、退学になっていたのは俺やクローリー、バーンズ、カトリーヌの四人だっただろう。

 生徒四人の退学なんて、学院の大恥だ。だからこそ、下働き一人に罪を押しつけて終わったのだ。


 今思えば、あれは正しい判断だった。

 俺たちが生き残れたのだから。


 だが、料理の質が落ちたのはリースが消えたせいじゃない。

 下働きが一人減ったくらいで、ここまで変わるはずがない。問題はもっと別のところにある。


「学院長が食費をケチってんじゃないのか……」


 そんな考えが頭をよぎった。

 肉は減り、スープはほとんどお湯みたい。

 パンの質も落ちて、噛めば粉臭さが広がる。

 誰がどう見ても、節約の結果だ。


 俺はスプーンを皿に放り出し、椅子の背もたれに身を預けた。

 これが続けば、学院の評判に関わる。

 貴族の家柄を背負って通っている以上、粗末な食事を与えられるなど耐えられない。


「……仕方ねぇ。ここは俺が動くしかないな」


 食堂で不満を漏らすだけでは何も変わらない。

 けれど、親に伝えれば話は別だ。

 俺の家――ブラッドフォード伯爵家の名は、決して軽くはない。

 父が学院長に意見すれば、必ず改善に向かうだろう。


 食後すぐに寮の部屋へ戻り、机の上に紙とペンを広げた。

 深呼吸してから、一気に書き始める。


『父上へ。学院の食事について重大な問題があります。

 ここ最近、質が著しく低下し、到底貴族の子弟にふさわしいものではありません。

 下働きの人数がどうこうという問題ではなく、学院長が食費を削減しているのではないかと考えます。

 生徒一同、不満を抱えております。

 つきましては、学院に改善を求めていただきたく……』


 ペンを走らせるうちに、胸の奥に満足感が広がっていった。

 俺はただの一生徒じゃない。

 伯爵家の子息だ。

 俺の声は、父を通じて学院長へ届く。

 これで学院も動かざるを得ない。


 便箋を書き終え、封筒に収め、蝋で家紋を刻んで封をした。

 その瞬間、部屋の空気がきりりと引き締まった気がした。


「これで少しはマシになるはずだ」


 改善されるまで時間はかかるかもしれない。

 けれど、黙って腹を空かせるだけの日々に甘んじる気はなかった。

 俺の行動で学院の食事が元に戻れば、皆の不満も収まるし、家の影響力も示せる。


 窓の外を見ると、夕陽が学院の塔を赤く染めていた。

 俺は肘をつきながら、その光景をしばらく見つめる。

 結局、この学院で生き残れるのは、与えられたものを受け入れる奴じゃない。

 状況を見極め、行動を起こせる奴だけだ。


「俺がやるべきことはやった」


 そう呟いて立ち上がった。

 食堂の混乱は一時的なものだ。

 すぐに変わる。

 いや、変えさせてみせる。

 そう心に決め、俺は廊下へ歩き出した。

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