表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/71

第13話 騎士団の新しい朝 ― 感謝と驚きの中で

騎士団の新しい朝 ― 感謝と驚きの中で


 朝食の騒ぎが一段落したあとも、騎士団の寮はざわついていた。

 久しぶりに満腹になった団員たちは、食堂を立つときに一人残らずリースに声をかけていく。


「嬢ちゃん、あんなうまいパン、久しぶりだぜ!」

「スープのおかげで、体がぽかぽかするよ」

「これから毎朝頼むな!」


 褒められ慣れていないリースは、頬を赤くして「ありがとうございます」と頭を下げるしかなかった。


 その横で、アレックス団長は腕を組んでふんぞり返り、にやけ顔を隠そうともしない。

「見たか、シュワーラ。俺が大歓迎したのは正解だったろう? こんな逸材を見抜けるのは、この俺くらいのもんだ」


「……はいはい。団長の目利きがすばらしいということにしておきましょう」


 銀髪の副団長は肩をすくめるが、内心では驚いていた。

 十六の少女が三十人分の食事をこれほどの速さと味で作れるなど、常識では考えられない。

(本当に……彼女は何者なんだ?)


 だが、それを口に出すことはしなかった。団長がうれしそうに笑っている今、冷や水を浴びせるのは無粋だとわかっていたからだ。


 その日の午前、リースはさっそく次の仕事に取りかかっていた。


「寮の廊下の掃除、洗濯物、それに昼食の仕込み……できるところから全部やりますね」


 前任者が音を上げた理由がよくわかる。

 広い騎士団寮は石造りで、廊下は長いし部屋数も多い。団員三十人が毎日使うとなれば、ほこりや泥はあっという間に溜まる。


 リースはほうきを手に、歌うように鼻歌を響かせながら廊下を掃いていく。

 泥の塊も髪の毛も、彼女の手際の前では瞬く間に片づいていった。


 団員のひとりがその様子を目にし、感嘆の声を上げる。

「すげえな……前は二人がかりでも一時間かかってたのに」


「ふふ、やり方を工夫してるだけですよ」

 リースはにこりと笑って返す。


 昼近くになると、大鍋では煮込みがぐつぐつと音を立て、干し野菜と肉の香りが漂い始めた。

「午後の訓練に力を出せるように、ちょっと濃いめに味をつけてみました」

 彼女は鍋をかき回しながら説明する。


 その言葉通り、昼食を食べた団員たちは一様に満足げに腹を叩いた。

「うめえ! 腹の底から力が湧いてくるぞ!」

「おい団長! これなら戦でも勝てる!」


 アレックスは豪快に笑い声をあげる。

「だろう? 俺の見る目は間違ってなかった!」


 シュワーラもまた、椀を置いて静かにうなずいた。

「確かに、料理の腕だけでも大きな戦力だな。団員たちの士気がこれほど上がるのは、数年ぶりかもしれん」


 リースは少し照れながらも、黙々と片付けに取りかかっていた。


 午後は洗濯だ。

 寮の裏手にある大きな桶に水を張り、リースは騎士たちの汗臭いシャツや布をどんどん放り込んでいく。


「これ全部……?」

 山のように積まれた洗濯物を見て、さすがのリースも一瞬たじろぐ。


 だが彼女は気を取り直し、桶に腕を突っ込んで洗い始めた。

 ――ごしごし、ごしごし。


 指が赤くなるまでこすり続け、それでも口元には小さな笑みが浮かんでいる。


(ここで役に立てれば、私は追い出されない。私にはここしかないんだから)


 その必死な姿に、洗濯場を通りかかった若い騎士が思わず足を止める。

「……嬢ちゃん、ありがとな。俺たちの鎧下、汗で臭くてかなわなかったんだ」


「いえ、これも仕事ですから」


 リースは顔を上げず、黙々と洗い続けた。


 日が暮れるころ、寮の食堂は再び騒がしくなった。

 今度は夕食だ。


 テーブルに並んだのは、香草をまぶしたロースト肉、野菜の付け合わせ、温かいスープ、そして焼きたてのパン。

 昼よりもさらに豪華で、見た目にも鮮やかだった。


「おお……!」

 団員たちは目を輝かせ、次々に席についた。


 その光景を見て、アレックス団長は胸を張る。

「どうだ、みんな! これが新入りリースの腕前だ! 大いに食って、明日からの鍛錬に励め!」


「団長の言うとおりだ! 嬢ちゃん、ありがとう!」

「まさか騎士団でこんな食事ができるとは……」


 口々に感謝の言葉が飛び交う。


 シュワーラは静かに杯を持ち上げ、リースの方へ向けて軽く傾けた。

「……ご苦労だったな」


 それだけの言葉だったが、彼の無表情を見慣れている団員たちは、その一言がどれほどの賛辞であるかを理解していた。


 リースは小さく会釈し、また片付けに戻った。


 夜。

 ようやく全ての仕事を終え、管理人室に戻ったリースは、硬いベッドに身を投げた。

 体中が痛い。手もひどく荒れている。


 けれど、不思議と心は軽かった。

(……よかった。今日は、ちゃんと役に立てた)


 その頃、団長室ではアレックスとシュワーラが話し込んでいた。


「なあ、やっぱりすごいだろ? あの子は掘り出し物だ」


「……否定はしません。だが、団長。彼女の過去については何もわかっていないんですよ」


「そんなの関係ないさ! 団のために働いてくれる。それだけで十分だろう?」


「……」


 シュワーラは言葉を飲み込み、窓の外の夜空を見上げた。

 団員たちの笑顔。リースの必死な姿。それらが心に焼き付いて離れなかった。


(本当に……ただの少女なのか? それとも――)


 そうした疑念を抱えながらも、副団長の胸には、ほんの少しだけ温かいものが芽生え始めていた。


 こうしてリースは、感謝と驚きに包まれながら、騎士団での新たな一歩を踏み出したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いくらなんでも働かせすぎ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ