第8話:余命1年
「か〜わいい」
振り向くと、天月先輩がいた。
「あ、天月先輩!?」
まさかこんなタイミングで遥歩先輩に会うなんて……やっぱり、ほんとついてないな僕。さらに顔が赤くなった。耳まで熱い感覚になる。
「おめでとう!」
遥歩先輩が拍手した。全身が茹でダコのように赤くなっている僕に対して、さらに追い打ちをかけてきたようだ。周りがこちらを見て指をさし、嘲るように笑っている。嘲るようにというのは、あくまでも感覚の話だが。
もうここまで来たらどうなってもいいやと思えてしまった。恥ずかしさを通り越したのだ。周りなんて見えなくなってしまった。
「てか、どっちから告ったの?」
遥歩先輩は僕らに聞いた。
「さ、咲愛です……」
僕はミミズのような声で答えた。咲愛は笑う。
「もっとハッキリ喋りなよ〜」
咲愛はそう言いながら僕の背中をパン!と叩いた。
「ん゛!」
思ったより強いスナップに思わず変な声が出てしまった。美術部では到底使わない力に衝撃を受けた。柔らかい声と体に見合わない力だ。
「痛いなぁ……」
ボソっとつぶやくと、遥歩先輩と冥逢は爆笑した。咲愛は横でクスクス笑っている。
「そうか、瑛太告らなさそうだもんな」
「いじめすぎです!」
天月先輩が言うと冥逢がツッコミを入れた。冥逢はボケよりもツッコむほうが向いているタイプなのだ。意外と冷静に物事を考えていると感じている。
「あ、俺1限目体育だから先行くね!」
天月先輩がそう言った。
「はい!また放課後音楽室で!」
「うん、咲愛ちゃんだっけ。瑛太から早速色々聞いてるよ。こんなやつだけどよろしくね」
天月先輩は僕の髪をわしゃわしゃしながら咲愛に言った。
「は、はい」
咲愛はまたクスクス笑いながら言った。
「あの、ちょっといい?」
「え、なに?」
周りには誰もいない2人きりの状況。
僕は嫌な予感しかしなかった。その予感は的中したようで、咲愛は予想だにしない言葉を発した。
「実は私、来年の4月に死ぬんだよね」
「⋯…!」
僕は予想をはるかに超えてきたその言葉に驚き、声も出なかった。




