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ナイトメア・プロトコル!   作者: α星人
第二章 エルフの里とヤバい来訪者編
9/9

駆け抜けろ!! エルフの里へ!!!

 日が沈み始める静かな森の中。

 俺は、それはそれは美しい銀髪のエルフに肩を抱えられながら歩く。


 脚は再生中で全身も痛む。

 だが、そんな事はどうでもよくなる程に目の前の存在に意識を持っていかれる。


 エルフ………エルフだ!!


 何度夢に見たかわからない。

 何を隠そう! 俺が病を患った原因のバイブル(異世界系ラノベ)にでてくるヒロインがエルフだった。


 つまるところ原点だ。別人だとは分かっているが俺の原点の一端には間違いない。目の前にいるんだエルフが……!!


 申し訳ない気持ちが湧くが、興奮が冷めない。今にも叫びながら走り出してしまいそうな程に。

  

 だが憧れの前で───ベティさんの前では決して、決して! 醜態は晒せない! いやもう既に遅いか、今現在足手まといだ。


 ただ、せめて礼だけでもと思ったが、礼は要らないと、今は急ぐと言われてしまっては気が引ける。

 

 自分の事を優先してまた足を引っ張るのは嫌だし、ここは大人しくしておくべきだろう。


 そんな風に考えている俺にベティさんが声をかけてくる。


「少し速度を上げたいのですが足は大丈夫ですか?」


「え、ああ。あと数分もあれば完全に治ると思います」


 最低限身体を動かす為に使ってる魔力を回復にまわせばもっと早く治せるが、今動けなくなるのはまずいだろう。


「そうですか……陽が沈むまであまり時間がないのですが……」


 ベティさんが少し焦った表情を浮かべる。


「あの、陽が暮れると何かあるんですか?」


「えぇ、この森は夜になると危険なのです。普段なら問題はありませんが……今は少し事情違います」


「事情?」


「私は今、一時的ですが魔力が扱える状態ではありません。それに今日は蒼月が満ちる日。二層への門が開きます」


 一時的に魔力が使えない。これはまだわかる。さっきの森を消し飛ばした技による何らかのデメリットだろう。あんなのポンポン撃てたらこの世界はとっくに更地だろうし。あと俺が泣く。


 ただ、蒼月? 二層への門? こっちは完全に理解不能だぞ。あのクソガキの女神発言もそうだが。そもそもこの世界は何なんだ? うん、何にもわからん。とはいえ何事も一つずつだ。


「その門ってのはいったい?」


「何も知らないのですね。仕方ありません歩きながら初めから説明しましょう。この世界──《ナイトメア》は四つの層……いや四つの世界で構成されています」


「《ナイトメア》に四つの世界……?」


「はい。一層、二層と下に行くほどに危険度が跳ね上がります。私たちが今いるのは第一層【自然界】昼夜が安定していて凶暴な魔物も少ない。この世界でもっとも穏やかな場所と言えるでしょう」


 おっと〜? ここは第一層で穏やかな場所……? 聞き間違いか? このだだっ広い森に来てからもう10日ちょい。

 確かに俺が出会った魔物はスライムとか赤いデカゴブリンとか見た目だけならRPGの序盤だけどさ……クソ強かったんだが?? 何度死にかけたかわからない。


 それを凶暴じゃない? えっ? 


「なにか……?」


「い、いや何でもないです!!」


 あっぶねぇ。ここで「全然穏やかじゃねぇ!!」とか言ったらまた呆れられるわ。


「……そうですか。では第二層【魔法界】についてですが。二層は一層とは全く異なる世界です。魔法を動力とした文明があり。その外で一層とは比べ物にならない程強力な魔物が常に縄張り争いをしています」


「魔法文明……縄張り争い……?」


「はい。第二層の魔物は強大な力と自我を持つがゆえに、常に自らの領域を奪い合っています。そして陽が落ち蒼月が満ちる夜。数多の門が開くと──」


 ベティさんの顔が険しくなる。


 蒼月、それは俺の知る月とは違う遥か頭上で輝く蒼き星の事だろう。それが満ちる……つまり満月の時になんやかんやで下への門は開くって感じか?


「──門へと向かって一斉に押し寄せて来るのです。縄張りを奪われた彷徨う魔物達が新たな狩場を求めて」


「それって……!!」


「スタンピードです。日没、つまり門が開く瞬間。制御不能の魔物の波が一層に流れ込んでくる。それに合わせて一層の魔物も活発化し大移動を開始します」


 うわぁ……これめちゃくちゃヤバイやつじゃん。

 そりゃ先を急ぐわけだ……って他人事じゃねぇ! 魔力が扱えないベティさんと、普通に無能な俺じゃ魔物の軍勢に太刀打ち出来ない。てか俺が足手まといすぎるって!!


「普段なら番人である私たち森人と精霊の結界で抑え込めるのですが……先の転移者との戦闘による被害で戦力が足りません」


 ベティさんが悔しそうに自分の手を見つめる。


 大量の魔物に足りない戦力。まだ近くに潜んでるかもしれないあのクソガキ転移者か……。


 となるとやることは一つだな。


「なるほどわかりました。俺、もう歩けるので」


 俺はベティさんから離れて、自らの足で立つ。まだ少し違和感があるが走るのには問題ない。


「それとベティさんって身体能力を向上させる系の魔法もダメになってますよね?」

  

「えぇ、魔力自体が変質してる状態ですから……」


 やっぱり。あんなに急いでいたのに魔力強化ではなく素の身体能力で俺を抱えて運んで時点で確定だと思っていた。


 いや、本当にすみません。そしてありがとうございます……!!


「そこで提案なんですが、今度は俺がベティさんを抱えて走りますよ!」


 この体になってから異様に身体能力が上がった。魔力強化無しでも少女一人抱えて走るのなんて余裕だ。加えて短時間なら魔力強化もいける。それに俺は昔から走るのは得意だ。


「あなたが私を……?」


「こう見えてめちゃくちゃ速いですよ俺。逃げるのは得意なんです。どーんと任せてくださいよ!」


 ベティさんは若干不安そうな表情を浮かべる。


「本当に大丈夫なのですか?」


「はい! それに助けてもらった、お礼もできてませんしね!!」


「いや礼入らないと言った──」


「いや気が済みませんし! それに時間無いんですよね!」


「──きゃっ!?」


 俺は問答無用でベティさんをお姫様抱っこすると短い悲鳴が溢れた。クソッ! 推しに自ら触れるのはルール違反だが時間が惜しい。俺が足を引っ張った分は全力で取り返す!!


「で道案内任せますよ。では行きます!!」


「ちょっと待っ──!!」


 地面を蹴る。

 一瞬でトップスピードに乗った。視界の端で木々が残像のようにブレる。


「速い……!!」


 ベティさんの驚いた声が聞こえてくる。

 ふふん! それはそうだろう! なんといってもこの10日間俺は魔物たちから逃げ回っていたんだからな泣。


「どっちに向かえばいいですか!?」


「このまま真っ直ぐ進んでください!」


「了解!!」


 俺は全速力で森の奥へと奔る。


 ただもう時間がない。

 もう陽が落ちかけている。途端に視界が悪くなる。


 急げ───急げ!! 


 木々の合間を縫うようにただひたすらに全力で走る。

 陽が完全に落ちかかってる。


「あとどれくらいですか!?」


「この速度ならそうかかりません! そこを右に駆け抜けてください!」


「わかりました!!!」


 ベティさんの言葉を信じて俺は残り少ない魔力を解放する。後のことを考えれば身体強化は持って数分。


 踏み込みに魔力が乗る。速度が跳ね上がる。視界に映るもの全てを置き去りにする。


 そして、やがて。


「着きましたよ。止まってください!」


 ベティさんの声に俺は急ブレーキをかける。


「えっ、でもここには何も無いですよ?」


 目の前には森があるだけ。変わったものは何も無い。


「いえ、ここです。降ろしてください」


「はい、失礼しますた!!」


 ベティさんをゆっくりと地面に降ろす。


 そして降り立ったベティさんが何も無い森へと手を翳す。


 すると空間が揺らぎ始める。

 

 そして森のざわめきと共に景色溶け、視界が開ける。


「これは……!!」


 目一杯に広がる夢にまで見た幻想郷。まるで絵本の中に飛び込んだような鮮やかな花と草木の楽園。


「エルフの里へようこそ、東條刃」


「うぉぉぉ!!!! エルフの里だぁ!!!!」


 俺は感極まるあまり、耐えきれず爆発した。


 物静かな里に響く声にベティさんは深くため息をついていた。


 すみません……。


 

 ◇◇◇◇


「なるほどな、血に反応する精霊の結界か」


 誰もいない木の上から囁くように響く声。

 何もないはずの空間に一瞬ジリジリとノイズが奔る。


「ふーん、かなり楽しめそうだ」


 そう言い残し、木の上の気配は完全消失する。


長い間投稿が遅れてしまいすみませんでした。

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