六話
「ようこそ、異邦の旅人よ」
穏やかな声色を辿ると煌びやかな銀髪の男と目が合った。
一目ではわかった。この人は、ヤバい。
まるで空間に同化しているみたいに、この図書館そのものから感じる銀髪の男の存在、視線。
自然と背筋が伸びる。
恐怖とは違う。何か、踏み入れてはいけない領域を侵したような居心地の悪さを感じる。
「あなたは……?」
「ハハ、名乗るほどの者ではないが……あぁ、そうだな。強いていうならその子の祖父かな」
そう言って銀髪の男は俺、ではなく隣のベティさんへと微笑みかける。
するとベティさんが静かに一礼する。
「お久しぶりです、アルス祖父様」
ん……?
おかしくないか? 目の前の男は確かにエルフ同様の麗らかで人間離れした雰囲気を纏っているが、確かに顔はとてもいいが、この人はエルフじゃない。
「複雑そうな表情だね、無理もない。疑問は尽きないだろう。私も楽しくお喋りしたいところだけど、今は時間が惜しくてね。さっそくだけど君に頼みたいことがあるんだ、東條刃君」
「頼みたいこと? てか、なんで俺の名前を……?」
「五日」
穏やかな声とは裏腹なプレッシャーが乗った言葉。俺の疑問は簡単に掻き消されてしまった。
「今から五日以内に精霊の結界が限界を迎える」
断言。
まるですでに決まっている未来を語るような口ぶりだ。
「結界が消えれば……言うまでもないね?」
「……だから俺に頼みがあるんですか?」
「あぁ、さっき君がベティの前で口にした宣言。あれに偽りは無かったと、私は判断した。故に頼みたい」
銀髪の男。アルスさんの目がしっかりと俺を捉えた。
「試練を超えて、精霊王に謁見し霊装を手に入れて欲しい」
「は……?」
唐突にも程がある提案に思わず間抜けな声が出た。
「期限は結界崩壊まで。試練は三つ。君の心技体すべてが試される」
「いやいや、待ってください! 試練とは!? 霊装?! 説明! 説明ください!!」
ワードだけ切り取れば王道ファンタジーだけどさ!? 展開が速すぎて目ん玉が飛び出るわ!!
「あぁ、そうだったね。まず説明、手短に行こう」
アルスさんがコホンッと切り替えた。
「霊装とは、精霊王が見初めた者に与える鍵……それを手にした者は古の神秘を賜ることになる」
「???」
「説明は以上。詳しいことは試練の中で分かるはずさ」
「ちょ、全然説明にな──」
「待ってください!!!」
俺の言葉を遮るように、キュラスさんの声が響いた。
「長老様、本気なのですか!? この人間に霊装の試練を!?」
一歩前に出たキュラスさんの空気を震わせる咆哮。声に魔力が乗っているのかビシビシと皮膚が痺れる。
「霊装は我ら森人の長だけが代々賜り!! 守り抜いてきた!! 誇りそのものなのですよ!? それをこのような下賎な人間に──」
「キュラス」
ツッ……!!
またこの声だ。一瞬で空気が一変した。キュラスさんの発していた言葉も魔力も一瞬で霧散する。
「……申し訳ありません」
「気持ちはわかる。だが選ぶのは君ではない。ましてはや僕でもね。選ぶのは森と精霊。わかっているだろう? 森が彼に道を開いたんだ」
単体と語るアルスさんに、キュラスさんは歯を食いしばる。
「わかっています……しかしそれでも私!!」
「ふむ、ではこうしよう。キュラス、君も試練に同行しなさい」
「……!!」
「その目で確かめて来るといい。彼が口だけの人間か、力を証明し英雄となるか。君自身の目でね」
「……わかりました。それで構いません……」
キュラスさんが渋々納得したように頷く。
おっと〜? これは熱い展開だなぁ! 俺と俺の思考を置き去りにしてるって事を除いたらな!! 俺何もかも理解してないんだけど!? まず英雄ってなに!?
「ベティ、君が彼を連れてきたんだ。最後までしっかりと見届けて貰うよ」
「えぇ当然です」
ベティさんもまた頷いた。
「よし、じゃあさっそく始めようか」
「ちょ、待っ──」
パチン。
何もわからないまま、指の音と共に俺の意識は暗転した。




