五話
「は……?」
ありえない。
こんなバカデカい木が目の前に来るまで気づかないなんて、絶対におかしいだろ。
このデカさだぞ?? 見上げても見上げても天辺が見えない。幹の太さも普通の木の何十倍? いや百倍くらいある。そこら辺の落ち葉でさえ俺の事を軽く潰せるデカさだ。
なのに、さっきまでは何も見えなかった。
「これらは精霊の結界です」
俺の疑問を察したのかベティさんが答えてくれる。
「精霊……?」
1度ワードだけ出ていたが、精霊とは……? アニメとかではよく聞くが……この世界のはさっぱりだ。
「精霊とは自然──大地や木々が魔力を得る事によって昇華した。意志を持った魔力体のこと。私たち森人とは共存関係にあります」
ベティさんが細かく説明してくれる。が、俺とベティさんが喋るたびに、後ろから突き刺さる殺意の視線のせいで一割も理解できない。
「精霊は神に近しい存在。知識が豊富で魔法が得意。この神木を守る結界も精霊たちの力によるものです」
「ほへぇ……」
精霊ってすげぇ……! なんとか説明を噛み砕く。てかこのでかい木、神木って名前なのか……。
「ベティ様、そろそろ」
「そうですね、行きましょう」
話を切り上げエアリスさんが徐に神木の幹に手を翳す。
するとたちまち、陽翠色の魔法陣が展開される。
光を放つ魔法陣。
それも文字列や数式のような陣じゃない。
七色の花のリースが百合と似た花の蕾を囲んでいる。
そしてエアリスさんの魔力が流れ込んだ瞬間、陣は淡い光を放ち脈打った。
すると中心の蕾が震えだし、一枚、また一枚と美しい花弁がほどけていく。
「おぉ……!」
この世界に来て色々とあったし、見たりしたが、こんな綺麗な魔法陣があるなんて、美しすぎる!!
俺は、すかさず魔法陣の隅々まで脳内メモリに保存した。
てか一体なんの魔法陣だ、これ。
「では、ベティ様。上で長老がお待ちです」
「えぇ行きますよ、刃」
「えっ!? 行くってここには、何も!」
ベティさんが突然俺の手を引いて、そのまま魔法陣に触れた。
「眩しっ!!」
魔法陣の光がみるみるうちに増していき、そのまま体が光に飲み込まれる。
あまりの光の強さに耐え切れず、瞼を閉じる。
直後、足元が消えたような浮遊感、上下左右の感覚が無くなる。まるで空に放り出された気分だ。
でもそれは一瞬のことすぐに感覚は戻った。だが少し違和感があった。まるで別の場所に立っているかのような。
「着きましたよ、刃」
ベティさんの声に、瞼をあげる。
「これは……」
森の香りは消え、代わりに乾いた紙の匂いが鼻腔を突いた。視界いっぱいに広がるのは、数えきれないほどの本。
見上げるほど積み重なる本の塔の下で、銀髪のエルフが頁を捲る音を響かせていた。
彼は本からゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。
「ようこそ、異邦の旅人よ」




