5品目 おみくじおにぎり
「もう食べられなよ、穂積くん。 ムニャムニャ……」
酔い潰れてしまった田部さんを自宅まで送り届ける。うちから田部さんの家までは徒歩で数分の距離だ。
家に着いてもオレの背で寝ている田部さんに声をかけ、家の鍵を借りて中に入る。1DKのマンションでややゆったりした間取りだ。
女性の部屋をあまり見ても良くないと思い、テーブルの椅子に田部さんを座らせ、家から持ってきたミネラルウォーターを飲んでもらう。
「起きてください。お家着きましたよ。」
「あれ? ごめん寝ちゃってた? わざわざ家まで送ってくれたの?」
「気持ち良さそうに寝てたのでお連れしました。」
「ごめんね。」と手を合わせて謝る田部さんだったが、まだ少し酔いが残っていそうだ。早く休んでもらおうと帰る準備をする。
「それじゃあ、オレ帰りますね。何かあったら連絡ください。では、また。」
「ありがとー」
そう言って手を振りながら見送ってくれるのを確認し家に帰った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌朝7時、ベットから起き上がった。
昨夜のうちに仕掛けておいた炊飯器が2合分のご飯を炊き上げている。
釜の底からしゃもじを入れて、ほぐすように混ぜ合わせる。その状態で蓋を閉じ蒸らして、ご飯同士がくっつかないようにする。
具材を5種類用意する。
梅、おかか、昆布、鮭、ツナマヨ
手にラップを1枚引き、それぞれの具材を同じご飯の量、同じ形にむすんでいく。綺麗にむすべたら中身が分からないように海苔を巻く。
出来た5種類のおにぎりを、弁当箱に詰めておく。
ここでメモ書き。
・梅:大吉。恋愛運絶好調。想い人と両想いになる。
・おかか:中吉。金運アップ。宝くじ当たるかも。
・昆布:小吉。健康運アップ。スポーツに運あり。
・鮭:末吉。探し物出てくる。
・ツナマヨ:吉。勉強はかどる。
まあ、適当だがこんなものか。そしてそろそろかな。
そう思っていると、玄関の外でパタパタと走る音が聞こえてくる。鍵がガチャッと鳴りドアが勢いよく開く。
「ごめん。穂積くん! おはよう!」
「おはようございます。田部さん。」
慌てた様子の田部さんに、努めて普段通りに挨拶する。
「昨日はごめんね。気持ちよく呑んでたはずなのに気がついたら家のベットにいたよ。昨日、何してたか全然覚えてないの? 何か迷惑かけなかった?」
ずっと慌てている田部さんに、落ち着かせるようゆっくり話す。
「だいぶ酔ってしまったみたいなのでお家まで送って行きました。ゆっくり出来たなら良かったです。」
やっちゃったと目を伏せる田部さんにオレは続ける。
「それより田部さん。今日は天気も良さそうですし、おにぎり持って外で食べませんか?」
「良いの?」
「はい、行きましょう。」
オレと田部さんは、おにぎりを持って近くの大きな公園に来ていた。陽の光に当たりながら園内を歩いている。
「気持ち良いですね。ここで食べましょうか?」
ベンチに座って作った弁当箱を広げる。水筒からお茶も注ぎ食べる準備をする。
田部さんはオレが作ったおにぎりを目の前にニコニコとしている。
おにぎりを食べる前に用意したメモを見せる。
「これ、中の具材がそれぞれ違うんですよ。まあ、遊びと思ってやってみてください。」
おにぎりの具材で占う、その名も『おみくじおにぎり』だ。
「へえー、そんなもの仕込んでたの? 穂積くんって面白いね。」
そう言って田部さんは目をキラキラと輝かせている。
「どれがいいかな? じゃあ、これ!」
田部さんは1つ取って、すかさず齧り付いた。
「ああっ! これ、うっ…… うまい!」
そう言うと、慌てて残りの半分を口に詰め込んで全部食べてしまった。
「え、田部さん、そんな慌てなくても。」
「んぐんぐ……う、うるさーい!もう食べちゃったんだから! もう一個もらっちゃお!」
口をモグモグさせ、田部さんは必死に言い訳しながらおにぎりを頬張っている。その顔は、いつもと違って真っ赤だ。
その様子を不思議に思ったが、オレも手元にあるおにぎりを1つ食べた。おかかだった。
田部さんは残りのおにぎりも食べ、隣でなぜか落ち着かない様子で、何度もオレの顔を見ては俯いていた。
本日の材料
・ご飯:1.5合
・梅干し、おかか、昆布、鮭、ツナマヨ:具材用に適量
・海苔:3切を5枚
おにぎりの具材は何が好きですか