3品目 家系ラーメン
「田部さん、今夜はラーメンです。」
今夜の献立を田部さんに伝える。
「っ! いいね、ラーメン! でも、穂積くんから言い出すなんて珍しいね。」
パッと振り返り笑顔を見せてくれたが、普段と違うオレの様子に少し不思議に思っているようだ。
「たまたま帰り道でラーメン屋さんが目についたので持ち帰り用のラーメンセット買ってきました。」
「あっ!これ駅前のラーメン屋さんじゃん。ここのラーメン好きなんだよね。」
「知ってますよ。オレも好きです。」
オレは就職を機にこの街に越してきた。地元からは遠く知り合いもいない土地だった。
会社では年上ばかりで、入社したてで一番年下のオレはなかなか先輩方に話しかけにいけなかった。そんな様子を見ていた田部さんが良くオレに話しかけてくれていた。
仕事のことはもちろん、会社の近くの美味しいご飯屋さんとか、休憩中に食べられるお菓子売ってるケーキ屋さんを教えてくれたりもした。
誰にでも分け隔てなく接する田部さんは特に気を遣ってくれた訳ではないのだろう。それでも自然と会社に馴染めるようにしてくれていた。
1人で生活する様になって不安もあった中、笑顔を向けてくれる人がいるだけで心が安らいだ。
仕事に慣れてきた頃、不注意からミスをしてしまったことがあった。課長にこっぴどく叱られひどく落ち込んでしまった。
そんな時、田部さんはいつもと変わらずご飯に誘ってくれた。田部さんが好きだというオススメのラーメン屋だ。
田部さんはいつもと変わらず美味しそうに食べ、笑顔になる。その笑顔につられてオレも食べる。不思議と元気をもらえて気持ちも穏やかになる。
「仕事のことで行き詰まったら声かけてよ。いつでも手を貸すよ。気持ちが落ち込んだらご飯食べに来ようよ。一緒に美味しいもの食べて気持ち上げてこう。」
田部さんはそれだけ言ってまたラーメンをすすり始めた。
この一件があってから、オレは田部さんを意識するようになった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
買ってきたラーメンはスープと麺が分かれているタイプだ。スープは電子レンジで温め、麺は家で茹でるようになっている。
寸胴にたっぷりの水を張り沸かす。
お湯が沸騰したら、お玉一杯分の湯を丼に注ぎ温めておく。
沸騰したお湯に麺をほぐしながら2玉入れ、全て入ったら箸でかき混ぜ麺同士がくっつかないようにする。
麺を茹でている間に電子レンジでスープを温める。温め終わったら、丼の湯を捨て空いた丼にスープを注ぐ。
茹で上がった麺をザルに開け、15秒ほどそのまま放置。落ちる水が少なくなったら2,3度上下に振って水を切る。
1人前ずつ丼に麺を入れスープと麺を箸でなじませる。
麺をスープの中で平らにしたら、メンマ、ほうれん草、煮卵、チャーシューをトッピング。最後に丼の縁に海苔を立てたら完成だ。
家系ラーメン特有の豚骨と醤油の香りが食欲をそそる。味変出来るように刻み玉ねぎとおろしニンニクも用意した。
「田部さん、出来ましたよ。」
湯気の立ち上る丼を運び、いつもの通り横並びでテーブルにつく。
「「いただきます!」」
いつものように顔を見合わせ、2人同時のタイミングで手を合わせて食べ始める。
「お店で食べるより美味しいよ! このラーメン好き!」
田部さんはいつもの笑顔で食べている。
「オレ、ずっと好きですよ。」
素直な気持ちがこぼれ落ちた。
「もちろん! “ラーメン”がですよ。」
熱いラーメンのせいで汗をかきながら食べる事になった。
本日の材料
・ラーメン店で売ってるラーメンセット:2人前
・玉ねぎみじん切り
・おろしニンニク
麺は太麺、気持ち硬めから規定通り位の茹で加減が好きです