裏メニュー おまけデザート
「いってらっしゃい。穂積くん!」
トーストを一緒に食べたあと、穂積くんは会社へ、私はもう1日休みをもらい病院に行くため家を出た。
再度の診察の結果、特に異常は見つからないとのことで午前中で用事を終えて帰路についている。
用事が早く終わり時間が出来たので1つアイディアが思い浮かんだ。その準備のため、スーパーに寄って買い物をしてから帰る。
買い物の内容は、マスカルポーネ、ヨーグルト、カステラ、ココアパウダーだ。
家に帰って来た私はひとりでの昼食を摂る。この家での食事はいつも穂積くんとふたり。賑やかに食べているので今はすごく寂しく感じる。
食事をさっと済ませ片付けをすると、早速、夕飯の準備を始めた。穂積くんが帰って来る前に作ってあげたい。
まずはご飯を炊く。そしてサラダの用意をし、味噌汁を作って、回鍋肉と唐揚げも作ってみる。
どれも彼の好みを考えて作ってみた。見た目も綺麗に見えるように盛り付け、上々の出来栄えだ。
時計を見ると17時を過ぎていた。あと一品の調理に取り掛かった。
まずは、マスカルポーネ200gにヨーグルト大さじ2と砂糖大さじ2を加えてよく混ぜクリームを作る。
ガラスの容器に2センチ幅にカットしたカステラを敷き詰める。
少し濃い目に解いたインスタントコーヒーにカルアを混ぜたものを用意し、先程のカステラに染み込ませていく。
カステラが珈琲色になるまで染み込ませたら、先に作ったクリームを重ねていく。
そこのカステラが見えなくなったら、その上に再度カステラ、クリームと積み重ねていく。
クリームで覆われたら仕上げにココアパウダーをふりかけ、簡易ティラミスの完成だ。
ラップをかけて冷蔵庫に仕舞っておく。
全ての準備を終え、使った調理器具も片付け終わったところでスマホにメッセージが届く音がした。
『大好きな彼が帰りましたよ 出迎える用意は出来てますか?笑』
同期の早代からだった。
『もちろん完璧に出来てるわ』
余計なお世話と感じるメッセージだったが、そのメッセージに返信したとき、スマホに反射した私の顔は彼の帰宅を想像してニヤけていた。
程なくして穂積くんが帰宅し、私は玄関で出迎えた。穂積くんは何だか少し頬を赤くしているように見えた。
「おかえりなさい、穂積くん。」
「ただいま帰りました。……瑠笑さん。」
穂積くんから初めて名前で呼ばれた。顔を赤くしている彼につられて私も何だかドキドキしてしまう。
「さ、さあ、今日は私がご飯作ったの。食べましょうよ。」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
穂積くんは私が用意した食事を美味しそうに全て食べてくれた。
「どれも美味しかったです。ありがとうございます。」
「今夜はあとデザートも作ったんだよ。冷蔵庫に入ってるの。」
「そうなんですね。じゃあ、取ってきますよ。」
そう言って穂積くんは立ち上がる。
「わ、ちょっと待って!」
私も穂積くんを追って立ち上がる。というのも、ティラミスの仕上げに1つ工夫をしたのだが今になってそれが恥ずかしく思えたからだ。
冷蔵庫を開け中を確認する穂積くん。私が作ったガラスカップに入ったティラミスを見つけ2つ取り出し、かかっていたラップを取る。
そこには、1つには『ス』もう一つには『キ』と読めるようにココアパウダーがかけてあった。
「やっぱ恥ずかしい。やめておけば良かった。」
この歳になって恋に恋する乙女みたいな事をしてしまったと恥ずかしくなった。顔から火が出ているかと思うほど熱く感じる。
「オレはすごく嬉しいですよ。じゃあ、『キ』の方もらいますね。」
そう言ってスプーンも持ってテーブルに戻ってくる。
「なんで、そっちなの?」
私は疑問に思い聞いてみた。
「それは…… キを食べておいて瑠笑さんのスが揃うの待ってるからですね。」
「……? …… !!!!」
私からキ→ス、て揃えて欲しいって事だよね?
ズルい。ズルすぎると思いながらティラミスを食べた。口に入れても、もう何も味がしない。
どうして良いか分からず、俯いて食べている私に隣に座る穂積くんが声をかけてくる。
「瑠笑さん、こっち向いてもらって良いですか?」
顔を向けると彼の右手が私の左頬に触れ、中指がそのまま顎の先をそっと持ち上げる。
直後に唇に触れた柔らかい感触は、コーヒーの良い香りと少しの苦味のあるとっても甘いものだった。
今夜の材料
マスカルポーネ 200g
ヨーグルト 大さじ2
砂糖 大さじ2
カステラ 2切れ
インスタントコーヒー 小さじ1
カルア 小さじ1
純ココア 文字が書ける量




