同僚の面々の話④
「米田くん、今日の仕事終わった? もう時間だよ。」
オレは課長にそう言われ時計を見る。時計の針は終了時間まであと1,2分だ。
「課長? 時間ってなんですか?」
「何って、君こそ何を言ってるんだ。家に待ってる人がいるんだろう? そしたら早く帰らなくちゃ。」
課長は誰のことを言っているのだろうか?
一人暮らしの家に待つ人なんていないのに……
「課長、米田のやつ全然わかってませんよ。もっとちゃんと言ってやってくださいよ。」
山田さんも隣から会話に入ってきてオレに批難めいた事を言っている。
「米田くん、今日は田部くんが待ってるんじゃないのかな? だとしたら、早く帰らなくちゃいけないだろ?」
そこまで言われて、「あっ」と声が出てしまった。
いつも言わなくても押しかけてくる田部さんが家にいてくれるんだ。そう思うと今すぐにでも帰りたくなった。
あれ? なんでこの人たちその事知ってるんだろ?
「田部さんが家にいるって言いましたっけ?」
今度は課長が「あっ」っと声を上げた。
「昨日、田部くんから事故の連絡があった時に一人じゃ大変だろうって聞いたんだよ。そしたら『身近な知り合い』が看てくれてるって言ってて…… それ聞いた直後に君から『とても大切な人』を看病するって連絡あったからもしかしてって思っただけだよ。」
「それでふたりが一緒にいると?」
「まあ、それだけじゃないけどね。君たち自分では気がついて無いのかもしれないけど、普段からすごい仲良さそうに見えるからね。」
周りからどう見られていたかなんて全然気にしていなかったので、そう思われていたと思うとちょっと恥ずかしくなる。
「おっと、引き留めてごめんね。今日は早く帰りなよ。きっと彼女も待ってるよ。」
課長は少し笑いながらそう言ってくれた。
「わかりました。お先に失礼します!」
山田さんも軽く手を振り挨拶してくれる。
オレは会社を早足で出て家までの最短ルートを走って帰っていた。




